■法人税課税の考え方がNPO法人ごとにバラバラな訳

B型作業所などの障害者の就労支援事業は、営利企業や社会福祉法人と共に、NPO法人も数多く実施しています。こうした障害者福祉サービス事業に対する法人税については、「営利企業は課税」と、はっきりしていますが、社会福祉法人やNPO法人等の非営利法人については明確ではありません。NPO法人では、非課税として申告していない法人と、課税だと考えて申告している法人が、バラバラの状態と言われています。

これは、株式会社などの営利企業は、受取った寄付金などを含めて、全てが課税(全所得課税)ですが、社会福祉法人やNPO法人などは、法人税法が限定列挙している34業種に該当する事業だけが課税で、それ以外の事業や、対価性のない寄付や会費の収入は課税しない(収益事業課税)、とされているからです。

障害者福祉サービスは、昔は行政が措置制度として実施し、その担い手は社会福祉法人でしたが、支援費制度(2003年)の導入により、株式会社やNPO法人などの事業者も参入できるようになりました。

この制度の大改正により、障害者福祉サービス事業という新しい事業が生まれましたが、これらの事業を収益事業に追加する法人税法の改正は行なわれませんでした。その代わり、「これらの事業は収益事業に挙げられている医療保健業に該当する」という国税庁の見解の表明により課税の実務が行なわれることになり、現在に至っています。法人税法には「社会福祉法人が行う医療保健業を収益事業から除く」という規定があり、これにより社会福祉法人が行う障害者福祉サービス事業は非課税となりますが、NPO法人には、こうした非課税規定がないので課税となります。

その後、支援費制度は障害者自立支援法(2006年)を経て、障害者総合支援法(2013年)になりました。障害者福祉サービス事業は多様なので、「医療との密接な連携が必要とされる重度の障害者へのサービス提供は医療保健業に該当するかもしれないが、医療と、ほとんど連携のないB型作業所などの就労支援事業は医療保健業には該当しないのではないか」という解釈も当然に出てきます。そうすると、医療保健業の他の33業種にも該当する事業はないので、「収益事業に該当しないから非課税」という結論になります。こうして、同じB型作業所の事業でも、申告をしているNPO法人、申告をしていないNPO法人があるという状態になっている訳です。

■「法律によらなければ税金を課することはできない」という租税法律主義に反する裁決

こうした中、昨年7月に「NPO法人が行なう障害者福祉サービス事業は、医療保健業に該当するか、同じく収益事業として規定されている請負業に該当するか、のどちらかであるから、どちらに該当しても収益事業として課税される」という国税庁の見解(質疑応答事例)が公表されました。そして、今年の3月に、B型作業所の事業に対して非課税を求めていたNPO法人に対して「請負業に該当するので課税」という国税不服審判所の裁決(行政機関の行なう裁判前の手続)が出されましたが、その理由は、「サービス提供をして報酬を得る事業は、全て、請負業に該当するから、B型作業所のような就労支援事業も請負業に該当して課税」というものです。

この理由が許されるのであれば、NPO法人の行なうサービス提供の事業は、全て課税とされることになり、これは、「限定列挙された収益事業以外は非課税」という税法の趣旨の全面的な変更です。国税不服審判という行政の判断だけで、このような大きな変更を許してしまうことは、「法律によらなければ税金を課することはできない」という租税法律主義に反し、国税庁という課税・徴収を担当する行政機関による恣意的な課税範囲の拡大に当たるといわざるを得ません。

■非営利法人への課税制度全般の見直しも必要か?

今回の裁決では、この他に、「事業の従事者のうち、障害者などが半数を超え、その生活に寄与している場合は非課税」という税法の規定を、誤った解釈によって否定するなどの問題もあり、このまま、放置して定着させる訳にはいかない、と考えています。

NPO会計税務専門家ネットワーク(略称:@PRO)は、税法の専門家の集団として、今年1月に上記の質疑応答事例への意見を発表しましたが、今回の裁決に対する見解も表明する予定で、現在、@PROの会員から意見を集めています。基本的な考え方は、「行政による拡大解釈を認めるべきではない。福祉事業を課税対象にしようとするのであれば、国会を含めた広い議論の中で結論を出し、法令を改正して収益事業に追加する、という適正な手続きを踏むべきだ」ということです。

ただ、民間が担うようになった福祉事業を始め、新しい事業が、どんどん生まれてくる中で、課税対象事業を限定列挙するという収益事業課税の仕組みでは対応できない状況になっていることは間違いないと思います。「福祉事業を課税対象にすべきかどうか」という議論だけではなく、「非営利法人の行なう事業に対する課税制度を根本的に改正すべきではないか」、「どのような制度に改正するべきか」という議論も行わざるを得ないのではないか、と考えています。こうした点についても、多くのNPOの皆さんからのご意見をいただきたいと思います。

ここでは税法の条文の引用を行なわず、なるべくわかりやすい説明を行ないました。税法を含めた詳しい内容については、@PRO編著の[新版]NPO法人実務ハンドブック(清文社発行) をご覧ください。また、質疑応答事例への意見はhttp://www.npoatpro.org/potal/files/20180109_iken.pdfを、見てください。