日本NPOセンターでは2007年から「子どものための児童館とNPOの協働事業」を実施している。名称の通り、児童館とNPOの協働を進めるもので、初年度より住友生命福祉文化財団(事業開始当初は住友生命社会福祉事業団)のご支援と、児童健全育成推進財団ならびに各地域のNPO支援センターの協力を得ている。

児童館は児童福祉法に基づき設置されている児童福祉施設である。公的な施設には珍しく「満十八歳に満たない者」という以外に利用対象が制限されておらず、子どもが自由に立ち寄れる場所である。私たちはそうした児童館の場としての意味に注目した。児童館は地域に密着し、学校や地縁団体などとの、NPOとは違うネットワークを持っている。そこにNPOが持つ多様な専門性をつなぐことで、場としての機能が生かされるのではないか。NPOにとっても、テーマ型の活動を行っている分、地域コミュニティに根ざせていないことがある。児童館が持っているネットワークに加えていただくことで、普段NPOと関わりのない人たちと出会え、活動の幅がより広がるのではないか。また、子どもたちにNPOで活動する人のボランタリーなマインドや、社会課題に触れる機会を作ることで、将来の地域社会の担い手になってもらえないか。2007年当時、従来の児童館とNPOの接点はほとんどなかったが、こうした期待を持って事業を開始した。

事業開始当初は、とにもかくにも児童館とNPOが共同で事業をすることにしか視野が届いていなかったが、年数を重ね、経験を積むごとに、児童館とNPOだけでなく、さまざまな主体を巻き込み、地域に波及展開していく事例が出てきた。

例えば、石川県金沢市の浅野町児童館では、自遊創生団など複数のNPOとともに児童館の前の公園に廃材などを持ち込み「秘密にならない秘密基地づくり」と称してキャンプを実施した。近隣に配慮して、事前に子どもたちが説明文を持って戸別訪問したところ、近隣住民が差し入れを提供。当日も公園のフェンス越しにNPOと子どもたちの秘密基地づくりを見守る大人が少なからずみられた。翌年、同様の企画をした際は、児童館を利用する子どもの親を中心に大人が子どもに混じって秘密基地づくりに参加。その夜の「大人テント」では子どもたちに「大人早く寝なさい!」と注意されるまで、子どもを取り巻く環境への思いや、地域の課題についての議論が交わされたという。3年目は大人たちがグループを作り、NPOはサポート役に回る形で企画を提供。ノウハウを移転した。その後、このグループは独自に助成金を獲得し、児童館で活動を行っている。

新潟県燕市の白山町児童館、小中川児童館では、近隣で起こった水害や中越・中越沖地震を念頭に、にいがた災害ボランティアネットワークとともに、ハザードマップ作りと避難所運営体験を行った。「子どもたちがわかりやすいプログラム」を追求した結果、NPOの専門性に児童館の遊びの要素が加味され、ロールプレイングゲーム仕立ての体験プログラムが新たに開発された。また、災害ボランティアセンターを運営する市社会福祉協議会や、地域の防災訓練を行っていたまちづくり協議会から協力の申し出があり、親を始めとした近隣住民も多数ボランティアとして参加。燕市の児童館の担当課を通して防災課にも話が伝わり、災害時に役割を果たす主要な機関が参画して、実際に避難所で使う備品などを使いながら、当初の計画を大きく超えて地域ぐるみの体験活動として行われた。

このような興味深い事例には、以下のような共通点がある。

1.明確な目的意識が共有されている。(子どものため、が徹底されている)
2.互いの専門性が活かされている。
3.信頼関係があり「腹を割った」打ち合わせができる。
4.準備から協働。過程が共有されており互いに主体的に参画している。
5.児童館とNPOだけではなく多様な参加がある(学校、町内会、商店街など)
6.相手から刺激を受けて自ら変化している。

子どもの希望を実現したい児童館スタッフの思いにNPOが刺激され、一方でその思いを実現しようとひねり出されるNPOのアイデアに児童館スタッフが触発される。異質な他者とぶつかることで、自らの専門性やこだわりを発見する。協働事業を通して相互に影響し合い、自らを変化させ、活動が変態していく。そのためには上記のような姿勢が欠かせない。

また、ときに児童館とNPOの協働がきっかけとなり、地域内の団体が数珠つなぎに掘り起こされ、気づけば実にさまざまな主体が参画している、ということも起こっている。こうして地域の人たちがNPOと出会い、互いにすぐ隣に共通の問題意識を持つ人がいるという気づきを得てきた。最近、地域課題の解決への取り組みとして「マルチステークホルダー・プロセス」に注目が集まっているが、協働事業を通じて自然な形で実現されているといえる。

最初の一歩は些細なことのようだが、地域の課題解決力を上げていくということは、こういう取り組みから始まるのではないだろうか。