学びの発見と共有の道具としての「評価」
「事業検証」とか「評価」が敬遠されるのは、NPOの世界に限ったことではない。いわく業務遂行で忙しく時間が取れない。いわく妥当性とか有効性とか専門用語も多いうえに、定量化とかいって数値に置き換えるなど作業自体が複雑で難しい。いわく事情もよくわからない外部者にああだこうだ批判を受けるのは心情的に気分が悪い。等々。

しかもNPOにとっては、これらに加えて 評価には通常お金がつかないという大きなハンデを抱えている。ただでさえ資金繰りが大変なときに、なぜ評価に自己資金をつけないといけないのか…。とりあえずは、至極まっとうな議論である(いや、のように聞こえる)。

一方で、同じ非営利の世界でも、大学や福祉団体など、「評価」をすることがあたり前になっている分野も存在する。であるから、評価の専門家は一定数存在するし、学会等の研究者・実務家集団もある。筆者が長くメインで仕事をしてきた国際開発の分野も同様である。

で、話の流れとして、「評価は大事ですよ」ということになる。筆者がおもに海外のNGOに籍を置いて、 評価者とやりとりするなかで学んだことは、評価とは、単に外から事業の是非を判断されることではなく(そういうこともあるが、そういう向きにはできるだけ抗って)、自らが組織として学びを発見し、それを共有するための道具なのだということである。

日本NPOセンターの震災事業の検証
評価には大きく分けて組織評価と事業評価があり、どちらも大事だが、ここでは事業評価を取り上げてみたい。昨年(2013年)12月より、日本NPOセンターが特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパンの寄付で行った、「市民活動団体(NPO)育成・強化プロジェクト」(以下、「NPO育成・強化プロジェクト」。プロジェクトの概要についてはこちら。)の第一ステージの事業検証に関わることになった。 これは、当センターが、準備期間を経て2012年5月から2013年7月まで実施した、被災地域3県(岩手県・宮城県・福島県)のNPOを対象とした 組織基盤強化とリーダー育成を目的としたプロジェクトを検証する作業である。筆者は、当センターの理事でありながら、このプロジェクトに関わりをもっていなかった「第三者」としてこの検証作業に携わった。

この検証作業の内容や結論については報告書を読んでいただくことにするが、被災地のNPOの現状や現地でNPOに携わる人々の思い、大変さ、震災前からあった地域の課題等、多くのことを学ばせていただいた。関係者のみなさんにはこの場を借りて深く感謝したい。
「市民活動団体(NPO)育成・強化プロジェクト」事業検証報告書

なぜ評価をするのか
では評価とは組織としての学びの発見と共有のための道具である、というポイントに立ち返ってみたい。もう少し具体的に、「なぜ評価?」という疑問に答えてみよう。

●事業のつくり方と尺度の可視化

1つめの理由は、評価の基礎を覚えると事業運営の効果・効率がグンと上がるからである。例えば、新たな事業をつくる場合を考えてみよう。まず、事業の構想を練る際、事業の目的はなにか、正確な言葉に落とし込んで関係者で共有する。次にその目的を果たすためになにが事業の成果として必要か、そしてその成果が出たかどうかをなんの指標で測るかについても明示する。評価というと、事後の振り返りのことと思いがちだが、成果や指標について事業の立案・形成時に協議し、合意することで、初めて評価する尺度をもつことができる。また、こういった枠組みを活用すると、それまで「わかっていそうで正確に表現できていなかった」事業の目的にいたる道のりを、明確に意識し、自分のものとすることができる。それまで「なんとなく」やっていた事業を、はっきりとした成果意識でできるようになる。

●エビデンスにもとづく政策提言

評価をやる2つめの理由は、いまや世の中は、「エビデンス(証拠)」の時代だからである。事業をやって、それがよい結果を残した場合、先行事例として扱ってほしい、あるいは政策づくりのガイドラインで言及してほしいと思う。ところが、実際はともかく、少なくとも規範として、政策はエビデンスなしにはつくられない。つまり、評価作業によって、「○◯は××でやるべき」を、単なる主張としてではなく、エビデンスを伴った提言とすることができる。例えば、今回のNPO育成・強化プロジェクトの事業検証作業においては、最近あちこちで話題になっている「伴走型」支援について、そのあり方を議論するための材料を提示することができたと思う。

●「振り返り」と「学び」は楽しい

そして3つめの理由。これは明白な理由であるが、何事も、「振り返り」と「学び」なしには人間は成長しないから、そして「学ぶ」ことはとてつもなく楽しいからである。

「評価なんて…」と思っているNPOのみなさん、しっかりとした評価をやりましょう。そして、資金提供者のみなさん、評価に補助金・助成金の一部をつけることをあたり前のことにしてはいかがでしょうか。