2025年5月28日に災害対策基本法等の一部を改正する法律案が成立した。
この改正法案のポイントについては、閣議決定がなされた2月27日に拙稿『災害対策基本法改正案閣議決定。被災者支援における官民連携の次のステージへの期待と不安。』 で取り上げた。認識はこのときから大きく変わっていないが、内閣府が法改正議論と並行して内閣府令案の作成などに取り組まれているので、項を改めてNPOへの影響を中心に取り上げたい。今回は少し角度を変えて、災害支援におけるボランティアとの連携について考察したい。
今回の改正案について、総論としては官民連携を進めるというメッセージを読み取ることができる。
災害対策基本法には従来から「国及び地方公共団体とボランティアとの連携」についての条文があった。
第五条の三 国及び地方公共団体は、ボランティアによる防災活動が災害時において果たす役割の重要性に鑑み、その自主性を尊重しつつ、ボランティアとの連携に努めなければならない。
今回、ここに第2項として以下の条文が追加される。
第五条の三 2 国は、広報活動、啓発活動等を通じて、ボランティアによる防災活動に対する事業者及び国民の関心と理解を深めるとともに、休暇の取得の促進その他のボランティアによる防災活動への国民の参加を促進するため必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
これをボランティア推進への期待ととるのか、国による無償労働としての動員への懸念ととるのか、今後の施策によるところであろうが、1項にある「自主性の尊重」を重視した促進策に期待をしたい。いずれにしても、官民連携で取り組まなければならないという問題意識が読み取れる。
細かなことであるが、法で「ボランティア」との連携と表現されている点は整理が必要であると考える。実際にはボランティアにNPOも含めて読まれており、幅広い活動主体を内包している。個人と組織、災害専門と災害非専門の軸で分けるとすれば、以下の4つが想定できる。
1.個人―災害支援非専門:個人のボランティア
一般ボランティアと呼ばれることもある。災害に備えているわけではないが、被災者のために何かしたいと駆けつける個人。災害ボランティアセンターを通じて活動をすることが多い。知り合いの伝手で個人的に活動する人もいる。
2.個人―災害支援専門:学識経験者や技術者などによるボランティア
1に近いが、災害支援に関する専門性を持つ人たち。災害ボランティアの経験豊富な方の経験・知見が役立つことは多い。
3.組織―災害支援非専門
災害を専門としないが災害以外のある分野での活動を行ってきたNPOや、災害を契機に活動を始めたボランタリーなグループなど。子ども支援を専門とする団体が被災した子どもの居場所を作ったり、自然体験を専門とする団体がリフレッシュキャンプを行うなど。住民が被災を契機に新たに組織を立ち上げる事例も少なくない。
4.組織―災害支援専門
日ごろから災害支援を専門とし、知見と経験を蓄え、備えを行っている組織。緊急救援や防災教育、生活支援、復興まちづくりといったように専門分野は細分化される。
これら多様な主体を法ではいずれも「ボランティア」と呼んでいることの弊害がある。能登半島地震の際に石川県知事の「ボランティアの自粛」を求めた発言を巡った混乱は象徴的である。今回の法改正で新たに設置された「被災者援護協力団体」や昨年度の補正予算で措置された「被災者支援団体への交通費補助事業(ボラGO!)」も、それぞれ想定している団体は異なるように思う。法では幅広く捉えられている「ボランティア」について、具体的にどういう主体と、どういう連携を行うのか、都道府県や市町村で検討される地域防災計画などでは整理をしておく必要があろう。
一方で、共通しているのは自発的な活動であるという点である。大阪ボランティア協会の早瀬昇氏は「自発的とは揮発性」と表現をしているが、人の思いは変化しやすいもので、自発的な活動は不安定なものである。
高い専門性や役割への期待が大きいのであれば、自発性に任せるのではなく、協定や契約を結ぶのがよいが、契約に縛られすぎて柔軟な活動ができなくなるのは本末転倒である。
災害支援は往々にして想定通りいかず、状況に応じて活動を柔軟に変化させなければならない。だからこそ自発的な活動が重要度を増す。官民連携は枠組みや計画を整備するだけでは機能せず、それぞれの主体が何を大事にしているのか、何を得意としているのか、といった深い相互理解と信頼関係構築こそが重要なのである。