9月は国連総会の季節である。今年は、23日(月)から5つの大規模な会合(※)が開催されており、例年以上に注目されている。SDGs策定の記念日である9月25日に向けて、市民社会はSDGs達成に向けたキャンペーン「#StandTogetherNow」を実施、世界各地で同時にイベントやアクションが展開されている。
メディアでも報道されている通り、9月20日(金)に開催された「グローバル気候ストライキ(Global Climate Strike)」には、全世界で400万人以上が参加した。国連本部のあるニューヨーク市では、当局からの参加許可に後押しされて30万人を超える生徒・学生や若者が集まった。自らが持つ教育を受ける権利を犠牲にしてストライキをし、気候変動に「本気で」対策を取ろうとしない政治家たちに対して、世界中の若者たちが行動を促したのである。Fridays For Future有志およびグローバル気候マーチ賛同団体有志によれば、日本でも仙台・福島・東京・名古屋・京都・大阪・神戸・福岡・大分・鹿児島・沖縄など、23の都道府県で5,000人以上が参加した。
問われているのは、気候変動の原因を作ってきた大人たちが、何百万という若者の声にどのように応えるのか、だ。アントニオ・グテーレス国連事務総長は、石炭火力発言の新規建設や化石燃料への補助金継続、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにする宣言を行わない国に対して、「気候行動サミットでの発言枠を確保しない」と通告した。これらの国々には、日本、アメリカ、サウジアラビア、オーストラリアなどが含まれる。
気候行動サミットに先立つ週末(9月21-22日)に国連本部で開催された準備会合(Coalition Meetings in preparation for the UN Climate Action Summit)では、各国大臣や国際機関・NGOなど多様なグループが気候変動対策について発表を行った。プログラムの一つ「インフラ、都市および地域での行動:都市の可能性」に登壇した小泉進次郎・環境大臣は、「私は10日前に大臣に就任したばかりだが、少なくとも一つのことを成し遂げた。東京都と京都市が行った温室効果ガス排出量を2050年までに実質的にゼロにする宣言について、さきほど横浜市の担当者と話をし、その結果、次は横浜市が続くと約束してくれた。これが10日間で私が成し遂げたことだ」と発言した。
横浜市は2018年10月に「2050年も見据えて『今世紀後半のできるだけ早い時期における温室効果ガス実質排出ゼロ(脱炭素化)の実現』を、本市の温暖化対策の目指す姿(ゴール)」とする「横浜市地球温暖化対策実行計画」を策定している。一方、その2カ月後にポーランドで開かれた気候変動枠組条約締約国会議(COP24)で、小林一美・副市長が「2050年にも実質排出ゼロを目指す」とする削減目標をアピールしている。
つまり、小泉環境相は「就任後、新たに達成したこと」を表明したのではなく、過去になされた約束を再構成して紹介したにすぎない。スペインやペルーの環境担当大臣など、他の登壇者が温室効果ガスの排出量削減や再生可能エネルギーへの移行に向けた政策を語る一方で、「世界で最も若い環境大臣」は日本の環境行政の取り組みや排出量削減の具体的な行程について言葉を尽くして説明することはなかった。そればかりか、気候変動やそれに関連する災害への対応、「持続可能な生産・消費」を含むSDGsに取り組む国連会議に出席するためにニューヨークに到着した夜に、ステーキを食べに行く場面をメディアに報道させている。店に入る様子を正面からカメラが捉えていることから、事前にメディアに対して通告があった意図的な行為であることは明らかである。事前の記者会見でなされた「気候変動のような大きな課題に取り組むには、楽しく、クールに、セクシーでなければ」という発言が注目されているが、国連の公式会議で内実を伴わない発言をしたことは、すでに暗雲が立ち込めている日本の気候変動政策をさらに遅らせるものと言えるだろう。
9月23日(月)に国連本部で開催された「気候行動サミット」では、気候ストライキを始めたスウェーデン出身のグレタ・トゥーンベリさんが登壇し、対策に取り組まない大人たちを批判した。
続いて登壇したのは気候変動に積極的に取り組む国の首脳たち。「最も持続可能な食料生産国」を目指すニュージーランドのアーデーン首相、海面上昇を食い止めようと行動するマーシャル諸島のハイネ大統領、使い捨てのプラスチック廃止に取り組むインドのモディ首相に続き、ドイツのメルケル首相は、若者たちの気候ストライキに敬意を表しつつ、先進工業国の責任を自覚し、2050年までにカーボン・ニュートラルを目指す、と改めて表明した。環境活動家として知られるスロヴァキアのズザナ・チャプトヴァー大統領は「政策を変え、ビジネスの方法を変える必要がある。スロヴァキアでは炭鉱を閉鎖して、経済を転換し、人々に新しい雇用を提供する約束を行った。2030年までに温室効果ガスを40-45%削減し、2050年までにカーボン・ニュートラルを達成する。気候変動対策基金に追加拠出することを先日決定した。他国もこれに続いてほしい。そうすることで誰もが気候行動の恩恵を受けることができる。人々の、特に最も排除された人々の福祉や尊厳が守られるべきだ」と訴えた。
9月24日(火)には、気候変動への行動を含む持続可能な開発目標(SDGs)サミットが開幕した。2015年にSDGsが採択されて以来、初めて行われる首脳級の会合である。同日、安倍晋三首相は、
・2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにすることを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」
・持続可能な開発のための教育(ESD)の推進と、途上国の女性のエンパワーメントとして、3年間で400万人へ質の高い教育の機会の提供
・ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(※注:誰もが安価な価格で保健サービスを受けられること)実現に向け、約100万人のエイズ、結核、マラリア患者の命を救い、約130万人の子供たちに予防接種を届ける
・包摂的かつ強靭なインフラの構築を目指す「質の高いインフラ投資に関するG20原則」のとりまとめ、普及、実践
など、G20大阪サミットやTICAD VIなどで発表した政策とともに、SDGs推進本部やジャパンSDGsアワード、SDGs未来都市の選定について紹介した。
気になるのは、「次のSDGサミットまでに、国内外における取組をさらに加速」させるための鍵として、(1)民間企業(SDGsを経営理念の中核に据える、ESG投資やイノベーション促進)、(2)地方創生および強靱な循環共生型社会の構築、の2点のみを挙げたことである。
2016年12月に策定された「SDGs実施指針」は、「持続可能で強靱、そして誰一人取り残さない、経済、社会、環境の統合的向上が実現された未来への先駆者を目指す」ことをビジョンとしている。この実施指針を実行に移す施策として2018年から毎年発表されている「SDGsアクションプラン」では、3本柱として、(1)SDGsと連動する 「Society 5.0」の推進 、(2)SDGsを原動力とした地方創生、強靱かつ環境に優しい魅力的なまちづくり、(3)SDGsの担い手として次世代・女性のエンパワーメント、が設定されている。
首相演説には(1)と(2)はそれぞれ盛り込まれている一方で、(3)の次世代・女性のエンパワーメントが抜け落ちていることが分かる。
日本政府は、「2030年以降にSDGs推進の主役となる次世代によるSDGsへの関与を深め、主体的な推進を加速し、国際社会に対して次世代のSDGs推進に関する日本の『SDGsモデル』を示す」ために、2018年12月に7つの若者団体からなる「次世代のSDGs推進プラットフォーム」を設立している。同プラットフォームは国連本部で「SDGs達成に向けた若者の参画」と題するイベントを開催したり、国内外の主要な会合に参加したりと活発な動きを見せているため、首脳演説にもこうした点を盛り込むべきであった。
今年12月に予定されている「SDGs実施指針」の改定に向けて、「次世代・女性のエンパワーメント」がどのように主流化されるのか、注目したい。
※5つの大規模な会議は以下の通り。
9月23日(月) 気候行動サミット(Climate Action Summit)
https://www.un.org/en/climatechange/index.shtml
9月23日(月) ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ・ハイレベル会合(High-Level Meeting on Universal Health Coverage)
https://www.uhc2030.org/un-hlm-2019/
9月24日(火)-25日(水)SDGサミット(SDG Summit)
https://sustainabledevelopment.un.org/sdgsummit
9月26日(木)開発資金ハイレベル対話(High-Level Dialogue on Financing for Development)
https://www.un.org/sustainabledevelopment/financing-2030/
9月27日(金)「サモア・パスウェイ(小島嶼開発途上国開発に関する成果文書)ハイレベル中間レビュー」( High-Level Midterm Review of the SAMOA Pathway)
https://sustainabledevelopment.un.org/sids/samoareview