Centre for Asian Philanthropy and Society(CAPS)は香港を拠点とする調査・アドバイザリー機関であり、アジアのソーシャルセクターに関する詳細な比較調査であるDoing Good Indexを隔年で発表している。2020年以降、CAPSは日本NPOセンターと協力して、日本のNPOや専門家からデータを収集しているが、今回2024年の調査報告書からの知見をいくつか紹介したい。

Doing Good Indexとは?

Doing Good Index(ドゥーイング・グッド・インデックス)は、アジアが社会的に「良いこと=doing good」をするための民間資本を取り巻く規制や社会環境についてインデックス(指数)を使って研究している。隔年実施で今回4回目となる本研究は、民間資本をソーシャルセクターに向かわせる政策やインセンティブを明らかにし、ステークホルダーがより強固で信頼性のあるつながりを築くための方策を検討するもので、これらの指数は、政策立案者、フィランソロピスト、学識者、非営利組織のリーダーにとってエビデンスに基づく情報源となり、寄付を拡大・強化するための深い見識とベストプラクティスを提供するものである。

この指標は、法的規制、税制・財政政策、エコシステム、調達の4つのサブ指標のデータで構成され、これらを組み合わせることで、各国における民間の社会的投資の需給に影響するさまざまな要因を把握することができる。調査結果は、アジアの17の国・地域にまたがる2,183のNPOなどの団体と140名の専門家から収集したデータから導き出され、日本NPOセンターを含むアジアのパートナーと専門家のネットワークの協力によって実施された。集計の結果、各国を4つのグループ(「優良 (Doing Well)」「良 (Doing Better)」「途上 (Doing Okay)」「不十分 (Not Doing Enough)」)に分類している。

Doing Good Indexにおける日本の評価は?

Doing Good Indexの過去6年間、日本のパフォーマンスは安定しており、2番目の順位にあたる「良 (Doing Better)」グループに位置している。これは、日本のNPOセクターに安定性があり、大きな問題がないことを示す一方で、このセクターがより大きな成果を上げられる可能性を持っているにもかかわらず、何かしらの障壁に阻まれていることも示唆している。

日本が(シンガポールや台湾と並ぶ)「優良 (Doing Well)」に仲間入りするためには、指標全体の改善を図る必要がある。以下では、日本の得意分野と課題の概要を示す。

日本が他のアジアの国と比べて優位な点

日本のNPOに関する法的規制は、アジアの中では比較的簡素である。団体がNPO法人として登録するには、2つの許可だけで済み、手続きは約2か月で完了する。アジア平均は3つの許可と4か月かかることを考えると、日本の制度は効率的である。

資金調達面では、日本のNPOの90%は国内の個人や財団から資金を受けており、アジア平均の82%を上回っている。日本のNPOの63%は政府・自治体からの補助金を受けているが、これはアジア全体の45%よりも高い割合だ。さらに、日本のNPOの60%は、物やサービス提供を通じて得られる販売収入による資金を増やしており、これはアジア全体の41%と比較すると高い割合である。

日本が改善できる点

日本はDoing Good Indexで良いパフォーマンスを示しているが、NPOセクターをより強固で実効性のあるものにするためには、まだ大きな改善の余地がある。

平均的な日本のNPO予算の約半分 (47%)を国内資金が占める一方で、ほとんどの団体 (84%)は、日本の国内資金の全体的な水準は低いと考えていると回答している。その理由として、寄付に対する税制上の優遇措置が不十分であることや、ソーシャルセクターに対する信頼が低いことなどが挙げられている。

日本では、認定NPO法人への寄付に対する優遇税率の算出に複雑な計算式を用いている。この点、日本は特異で、Doing Good Indexのアジアの対象国・地域はすべて単純なパーセンテージを採用している。ほとんどのアジアの国の場合、優遇措置はより手厚く、17カ国中12カ国が 100%以上の控除率となっている(下図参照)。

寄付に対する税制優遇措置の改善(優遇措置の簡素化と寄付者にとっての魅力の向上)は、NPOの資金調達活動に好影響を与える可能性がある。

また、クラウドファンディングのような新しい資金調達手段はまだ十分に利用されていない。日本のNPOのうち、クラウドファンディングを利用していると答えたのはわずか12%で、これは今回のアジア17の国・地域の中で最も低い割合である。しかし、日本のNPOの47%は、将来的にクラウドファンディングで資金を調達する意向があると回答しているので、これは、NPOへの資金提供と社会的な支援の両方が、より活発化することが期待される点である。

前述のように政府の規制に関しては、NPO法人の団体設立・登録は比較的簡単な手続きで済むが、日本のNPOセクターに関連する法律は理解しにくいと、調査対象の71%の団体が回答している。明確なコミュニケーションや情報提供セミナーなどを通じて、法律をわかりやすく説明するなど、NPOが規制に従いやすくなるような取り組みが必要となる。

日本がDoing Good Indexのスコアを向上させるためには、企業との連携を強化する必要がある。日本のNPOの半分以下 (48%)しか、民間企業からボランティアを受け入れていないと回答しており、これはアジア平均の63%よりも低い数字だ。ボランティア活動以外にも、NPOは、企業からの直接的な資金提供や製品の寄付、専門知識や技術支援を受けると最も効果的に支援されると考えている。日本の企業は、地域社会に利益をもたらすために、NPOと協力することが奨励されるべきである。これらの地域社会は、企業の顧客やサービス利用者を代表しているからだ。

日本のNPOが成長するために必要だと考えていること

日本のNPOは、今後12カ月間の最も重要なニーズ3つとして、「より多くの資金」(60%)、「スタッフのスキル向上」(49%)、「他組織との協働」(46%)、そして僅差で「より多くのスタッフ」(44%)を挙げている。

日本のNPOにとって明るい兆しは、次世代である。53%のNPOが、若い人たちは親世代よりもソーシャルセクターで働くことに関心を持っていると答えている。これが事実であれば、NPOセクターにおけるボランティアやスタッフの深刻な不足を緩和する一歩となるかもしれない。

さらに連携も深まっており、NPOセクター内で他組織と協働していると回答したNPOの数は、2022年の61%から2024年には69%に増加している。こうした協働は不可欠であり、NPOはサービスを提供するため、共通の目標を追求するため、能力を高めるため、そして調査を行うために協働していると回答している。NPOはまた、地方自治体や市民主導の取り組みと協力して、活動を行っている。こうした連携を通じて、セクター全体が強化され、より大きな成果を上げることができるようになる。

もちろん、NPOセクターの繁栄に必要な多くの変化は一朝一夕には起こらず、いくつかの改善は個々のNPOの力だけではできないものもある。しかし、NPOセクターが重要な問題について団結した声で発言し、継続的な改善と能力の構築に取り組むことができれば、日本のNPOはより良い活動を行うことができるようになるだろう。

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