筆者は20年来、NPO支援組織として、市民活動支援および多様な主体間の協働のコーディネーションに従事している。主にNPOや自治体、企業とのかかわりでの事業機会が大半ではあるが、ここ10年来は、公民館・児童館・社会福祉協議会といった「地べた」、すなわち生活圏内にある地域の諸機関に出向いての、企画立案や協働のコーディネーションを支援する機会も増えている。これらは一見、NPOにとっては縁遠いような感覚も拭えないが、当事者の意識は異口同音ながら「課題解決」の点にある印象だ。関係者との会話の中で、NPOと同じような思いや問題意識を抱いていると感じることも少なくない。
そこで、とりわけ支援機会が増えている公民館と児童館の2者それぞれの現場の動きを踏まえた上で、地域の諸機関をはじめとする具体の取り組みに内包される「市民社会性」を考察したい。
●学びの創出をミッションとする公民館
第二次世界大戦後、暮らしの基盤づくり(家事や生業の知恵の共有など)を主目的とした公立施設として、教育基本法および社会教育法に基づき設置・運営されている。現在では、「つどう・まなぶ・むすぶ」なるスローガンの下、貧困・ひきこもり・多文化共生といった今日的課題に、多様な主体間の連携・協働で取り組む例も増えている。(※1)
また、地縁組織(自治会・町内会等)の担い手の高齢化と人材不足を打破するべく、公民館が伴走役となって、学びや体験活動のコーディネート力を生かした人材の発掘・育成に取り組み始めるケースもみられる。高齢者や子どもの見守り・生活困窮世帯の増加などといった待ったなしの地域課題やニーズを前に、公民館をはじめとする社会教育の関係者間には、いかに「社会教育」の特性である分野を超えた企画や楽しさの演出を盛り込みながら住民間の接点を創出するかという問題意識が強まっている印象だ。
●子どもの豊かな遊びや体験機会をミッションとする児童館
戦後、0〜18歳の子どもたちに遊びや体験の機会を保障するための施設として、児童福祉法に基づき全国各地に設置されてきた(※2)が、近年は、地方自治体の子育て支援策の目玉である学童保育(放課後に小学生を有料で預かるサービス)の拠点となるケースも増えている。今や放課後や休日の多くの時間を児童館で過ごす子どもも少なくないため、現場のスタッフ(児童厚生員)は、ともすると保護者よりも長い時間子どもたちと接し、学校や家庭での様子も察している。悲しいかな、ここ数年は「家庭環境が不安定であるが故に、児童館で暴れたり暴言を吐くなどの問題行動が顕著な子どもが増えている。」という声をよく耳にするようになった。また、児童館で子ども食堂を行う例も増えてきており、生活困窮世帯の子ども達の支援も重たい課題となっている。
当センターは、公民館については「公民館じょいんとプロジェクト(公民館とNPOの協働促進事業/福岡市役所との協働事業)」、児童館については「NPOどんどこプロジェクト(子どものための児童館とNPOの協働事業/日本NPOセンター・児童健全育成推進財団・住友生命福祉文化財団による児童館のための助成事業)」として、企画立案の支援や協働のコーディネーションを数年来行なっているが、とりわけここ2〜3年は、両者とも多様な住民・地域団体とこれまでにない手法でつながりながら、互いに見守り合える地域づくりを行っていくかという点に重きを置く傾向が強まっている。(以下、公民館および児童館を、総じて「館」と略す。)
そして、「これまでにない手法」となると、館単独ではなく協働による取り組みこそ有効ということで、当センターのようなNPO支援センターの出番となるのであるが、その過程で、以下3つの観点から「市民社会性」(※3) があると感じている。
1、思い
例えば、協働相手となる外部の組織(NPO、企業等)との打ち合わせの席では、館の関係者に加え、地域団体の関係者なども交えることもある。地域の現状についての話題になると、NPOが長らく扱っている課題(例:外国人との共生、子どもの豊かな体験など)が多く聞かれるようになってきた。属性を問わず、こうした関係者の思いが通底する場面は、地域の現場でも増えている。
2、横断的ネットワーク
上記「思い」を同じくしながら、協働事業がよりよい形で継続すると、当事者間で「次はあそこも巻き込もう」、「あの人に話したらオススメの人を紹介してくれた」などと、自ずとつながりが増幅することもしばしばだ。「人が人を呼ぶ」というつながりの好循環が生まれれば、当センターのような外部の者によるコーディネーションなどの支援も不要になってくる。
3、社会参画
ここでいう「参画」は、館の事業への直接参加やサービス利用というよりも、包摂との含みが強い。例えば、協働事業によるイベントの参加者ないしサービスの利用者となった人たちが、そこで面白味を感じて、企画立案や運営側に転じるというケースだ。実施側が意識的にそう促している場合(例:事業の2年目から実行委員会の体制を組み、ユーザだった人たちに声かけをして出席してもらう)もあればそうでない場合(例:自ら申し出をされ、企画会議や運営ボランティアに参加する)もあり、後者ほど、主体性も継続性も高まる傾向があるように感じている。
NPOからすると依然として心の距離感が否めない「地域社会」の世界だが、そこには市民社会的な風景も多々みられるようになっている。これからは、地域の現場の人たちとつながりを増やし、大切にしたい課題・ニーズを見出したら、みんなで考えて汗をかくことがますます意義深いものになってくると確信している。よりよい市民社会的地域社会づくりに、NPOが貢献できる領域は無限大だ。
※1 文部科学省が毎年行っている「優良公民館表彰」受賞歴も参考にされたい。http://www.mext.go.jp/a_menu/01_l/08052911/001.htm
※2 一般財団法人児童健全育成推進財団のウェブサイトに掲載されている児童館の概要説明も参考にされたい。
https://www.jidoukan.or.jp/what/support/childrens-center.html
※3「市民社会」の定義はさまざまあろうが、筆者は「人々がそれぞれに、地域や社会のさまざまなうごきに関心や問題意識を高め【思い】、時に自在につながりながら【横断的ネットワーク】、自主的・自発的に行動する社会【社会参画】」とのイメージを長らく抱きながら活動している点、お含みおきいただきたい。