次男が通う中学校では、サッカー部が廃部の危機に直面しました。現在の部員はわずか2名で、これまで通りの「部活動」という枠組みのまま継続することは難しいという現実に突き当たったのです。そこで、保護者、学校、そして地域が協力し、全く新しい形の「地域クラブチーム」を立ち上げることになりました。

全国的にも、2018年にスポーツ庁が示したガイドラインで「部活動の地域移行」が明記され、公立中学校の部活動を地域へ移す取り組みが進められています。しかし、地域移行には制度面・運営面・人材面など多くの課題があり、実現は決して容易ではありません。

東京の中学生サッカー事情

中学生年代でサッカーを続けようとすると、学校の部活動に所属するか、民間のクラブチームに入るかの二つが主な選択肢になります。クラブチームは専門の指導者が在籍し、練習頻度も高く、大会も開催されています。

東京都内では、2024年時点で139のクラブチームが登録されています。これは20年前の約2倍にあたり、クラブ数は大きく増加しています。選手登録数も、中学校の部活動を上回る規模となっています。こうした状況から、多くの子どもたちが部活動ではなくクラブチームを選ぶ傾向が強まっていることが分かります。

しかし、多くの民間クラブはセレクションを設けており、誰もが希望すれば入れるわけではありません。また、合格後も30人近い部員の中で熾烈なレギュラー争いが待っています 。私の長男もクラブチームに所属していましたが、ピッチに立つよりも応援側にいる時間の方が長かったかもしれません。

「二極化」の狭間。子どもたちのやりたい気持ち

民間クラブでは専門的な指導を受けられる一方で、学校のテスト期間への配慮はなく、練習日も多く設定されています。年間を通じてリーグ戦が行われるなど、競技としての負荷も大きくなります。

もし中学校の部活動が消滅してしまえば、「友達と楽しくスポーツを続けたい」という子どもや、「クラブチームに入ったものの出場機会に恵まれず、別の形で競技を続けたい」と願う子どもたちの受け皿がなくなってしまいます。結果として、「競技志向」か「引退」かという極端な二択を迫られ、子どもたちの純粋な“やりたい”という気持ちが置き去りにされてしまうのではないか。こうした危機感が、今回の新チーム設立の大きな原動力となりました。

指導者確保という大きな壁

部活動の地域移行において、最も大きな課題のひとつが指導者の確保です。平日や休日にスポット的に指導できる人材を見つけることは容易ではなく、特に中学生年代の競技指導となると、求められる専門性も高くなります。

新チームは独立した民間チームとして運営するため、基本的な収入源は生徒の月謝です。部活動から移行してくる子どもたちが参加しやすいよう、月謝はできるだけ負担の少ない設定にしたいという思いがありました。指導者に十分な謝金を支払う余裕がないという現実がありました。

地域のNPOとの連携、小学生と中学生の合同開催という解決策

地域には、幼児から小学生を対象としたNPO法人運営のサッカースクールがありました。新チームの指導について代表に相談したところ、「中学生年代の指導に関われるのはありがたい」という前向きな反応が得られました。しかし、平日に新たな指導時間を確保するための費用を捻出することは難しく、単に「お願いする」だけでは実現が難しい状況でした。

みんなで話し合いを重ねた結果、小学生と中学生のサッカースクールを合同で開催するという新しい仕組みが生まれました。この仕組みによって費用面の課題を解消でき、地域の力を活かした新チームの立ち上げが現実味を帯びました。また、小学生と中学生が一緒に練習することで、年齢を超えた交流が生まれるという新たな価値も期待できるようになりました。

子どもたちを守るための仕組み「セーフガーディング」

新チームの設立にあたり、今後も地域で継続的に活動していくため、中学校だけでなく、地域住民で構成される学校運営協議会にも協力を依頼しました。「試合に勝つだけでなく、スポーツを純粋に楽しみたい子どもの気持ちも大切にしてほしい。子どもたちの新たな居場所になってほしい」という言葉が寄せられました。部活動は、放課後の子どもたちにとって大切な居場所のひとつです。安心して過ごせる環境を守ることは、地域の大人たちにとって大きな責務でもあります。

新チームでは、指導や運営に関わるすべての大人がセーフガーディング研修を受けることをチームのルールとして位置づけました。セーフガーディングとは、子どもや弱い立場にある人が暴力、虐待、搾取、ハラスメントなどの危害から守られ、安心して安全に活動できる環境を組織的に構築・維持する取り組みです。

技術向上よりも前に、まず「安心していられる場所」であることを最優先にする。この価値観をチームの中心に据えたことで、地域の声と新チームの理念がしっかりと結びつきました。

動き出した新チーム

隣の中学校でもサッカー部員がゼロだったことが分かり、結果として2校合同の新チームとしてスタートを切ることになりました。

「本当に人は集まるのか?」という不安の声もありましたが、体験会には、蓋を開けてみれば20人近い申し込みがありました。なんとか、サッカーができる11人は集まりそうです。

4月の本格稼働に向け、チームづくりと組織づくりの両輪を回していく必要があります。子どもたちの声をきくチームとして、新たな挑戦はスタートしたばかりです。