<取材・執筆>千綿 海大  <取材先>『生きづらさカフェ』~ただの居場所~ 主催 原田さん

近年、生きづらさや社会的孤立を抱える人が増えている。たしかに、生きづらさというテーマへの関心は高いものの、それに対する理解は十分とは言えないかもしれない。既存の支援制度だけでは手の届かない人も多いのが実情だ。

支援者と当事者の関係性について感じた違和感

この問題について考えるきっかけとなったのは、ある動画を視聴したことだ。それは引きこもり支援に関する密着取材動画で、僕はそこに描かれていた支援者と当事者の関係性に違和感を抱いた。生きづらさや社会的孤立を抱えた当事者と、そうした状況にない人との間には、理解のギャップが存在するのではないか。当事者は「わかってほしい」と訴え、支援者は「助けたい」と寄り添う。しかし、この構造自体が当事者をより苦しませているように思えた。

例えば、支援者が当事者の状況を十分に理解できず、形式的な支援で済ませたり、あるいは支援者の意向を押し付けがちになったりすると、当事者の思いが反映されない支援になる。支援者と当事者の間に立ちはだかる「どうしてもわかり合えない壁」があり、こうした状況がかえって当事者を悩ませているのではないかと疑問を抱いた。そんな疑問を抱く中、インターネットで「『生きづらさカフェ』~ただの居場所~」を偶然知り、注目した。この活動では、当事者同士が対等な立場で語り合うことが何より大切にされていたからだ。実際の活動を知りたくて、代表の原田さんにインタビューを申し込んだところ、快く受け入れてくださった。なお、原田さんは当事者でもあるため、フルネームではなく「原田さん」のみの記載としている。

生きづらさを抱えている人の当事者会

――まずは「『生きづらさカフェ』~ただの居場所~」の概要について、具体的に教えていただけますか?

『生きづらさカフェ』は、精神障害を抱えている方や何かしらの「生きづらさ」を抱えている人たちの当事者会になります。月に1、2回程度この場を設けています。参加される方の年齢層は、20代から60代まで非常に幅広いです。全体の時間としては2時間程度で、前半パートと後半パートに分けています。まず前半パートでは自己紹介、そしてフリートークを行います。自身の体調や環境の変化、最近の出来事など、参加者が自由に話したい内容を話します。休憩を挟んだ後の後半パートは、テーマトークをメインに進めます。例えば、自分の未来、お薬や気分の波について、今年の過ごし方を漢字一言で表す、といったテーマを設けています。後半パートではテーマをある程度絞ることで、そのテーマに関する情報を共有しやすくなります。

――『生きづらさカフェ』を開くきっかけを教えてください。

この活動を始めるきっかけは、自分の経験です。10代のころに精神疾患で入院したことがあり、その時は周囲からの理解を得られず、生きづらさを感じていました。その際、看護師とお話をするよりも、同じ病棟の患者さんと語り合うほうが、気持ちが楽になったことを覚えています。不思議な感覚でした。専門的な知識や技術を持っているわけでもない。けれど共通の経験があるからこそ、安心感がありました。なんでそう感じたのかと後で考えた時に、気づいたことがありました。それは、精神疾患そのものだけでなく、「病人」というレッテルを貼られることで生じる印象や偏見が、自分の大きな生きづらさの一因であるということです。患者同士はそのつらさを互いに共有し合えたのに対し、看護師との間には一線があったからだと思います。病状だけでない、病気というレッテルを貼られることで生じる偏見や孤立。そうした外部のまなざしが、自分を生きづらくしていたのだと考えました。こうした経験から、病院内の治療だけでは解決しきれない、生きづらさの部分が隠されていることに気づき、当事者同士の対話が大切だと実感しました。そうした生きづらさに光を当ててあげたい。それがカフェ立ち上げの原点です。

無理しないでほしい。この場にいてくれることが何より

――ありがとうございます。カフェの場で心がけていることはありますか?

無理をしないよう、お声がけしています。『生きづらさカフェ』は、あくまで居場所です。無理に話そうとしなくても大丈夫です。この場にいてくれていることが、何よりです。もちろん、話題提供や雰囲気作りなど、話しやすくなるサポートは大事にしていますが。

――なるほど、無理をしないことのお声がけをされているとのことですが、その姿勢は大切だと思います。実際に運営するうえで、参加者が話しやすい雰囲気を作る工夫もされているのでしょうか。

はい。無理のない空気感を作りつつ、話を促進するための小道具として、ハリネズミのぬいぐるみを使用しています。ハリネズミのぬいぐるみは、このカフェで使っているアイテムです。具体的には、ぬいぐるみを持っている人だけが話すことができます。もし話したくなったら手を挙げ、ぬいぐるみを受け取ってから話す、というルールです。これにより、一度に多くの人が話さないよう配慮しています。誰が話しているのかを明確にし、聞き手も集中しやすくなっています。自分のペースで自分が話したいことを、話すことができます。

――では次に、『生きづらさカフェ』の今後の展望を教えてください。

続けていくということです。『生きづらさカフェ』を運営していくためには、会場費や茶菓の購入費、チラシ作成の時間などのコストがかかります。その負担は自分にとっては小さくありません。ですが、居場所の提供だけは欠かせないと考えています。一人ひとりの置かれた状況や想いを受け止め、できる限りの支援をしていきたい。そして、カフェがどんなに小規模でも、心のよりどころとなる場所であり続けられるよう尽力したいと考えています。緩いけど、糸を必ず張っておきたい。

『生きづらさカフェ』と大人食堂、2つの場の連携

――緩いけど、糸を張っておく。非常に象徴的で、良い言葉ですね。地域の大人食堂も運営されているようですが、そちらの活動内容について教えていただけますか。

はい。大人食堂は、地域の人が気軽に立ち寄って食事ができる場所です。週に数回、一緒に料理を作り、それを食べながら交流するというのが基本的な活動内容です。ボードゲームなどを用意することもあり、コミュニケーションを楽しむ場となっています。

――では大人食堂と『生きづらさカフェ』は、どういった関係性で運営されているのですか?

この2つの場所が連携することで、利用者一人ひとりに合った居場所や交流の場を提供できていると思っています。例えば大人食堂につながった方の中で、より心の問題に寄り添った交流を求めている人に、『生きづらさカフェ』を紹介しています。あるいは『生きづらさカフェ』の参加者が、気分転換として大人食堂に立ち寄ることも。良い循環を生み出すことができています。

――素晴らしい仕組みだと思います。私も大人食堂に参加したくなりました! 今日はありがとうございました。

話を促す小道具、ハリネズミのぬいぐるみ