<取材・執筆>横山 恵美  <配信動画>NPO法人民間稲作研究所とちぎ有機の会『市民講座』2023年度 第1回~第4回

世界的な温暖化や大規模な干ばつ、洪水などここ数年で異常気象が顕著になり、その深刻さは年々増している。社会全体が環境によりよい持続可能な社会の実現に関心を高めている一方で、その実現のために個々の生活を変えるということは容易ではないだろう。
よりよい未来に向け、誰もが身近なことからできることはないだろうか。
その答えの一つを、私たちの生活から切り離すことができない「食」から考えたいと思う。

NPO法人民間稲作研究所では30年以上にわたり、化学合成した農薬や化学肥料を使用しない自然環境を活かした米作りを研究。日本の農業を持続可能なものとし、後世へ引き継ぐ活動をしている。今回筆者は、同団体の活動の一環として毎年開催されている「とちぎ有機の会『市民講座』」の2023年度配信動画(第1~4回/2023年7月~2024年1月)(動画リンク:https://www.inasaku.org/movies)を視聴し、これまで行われてきた慣行農法が地球環境を大きく損なってきたことを知った。一人の消費者として、持続可能な未来へ「今、何ができるか」を考えたい。

大量生産、効率重視の「工業型農業」が与えてきた環境への影響

これまでの農業は、効率的にたくさんの作物を供給するために、広大な農地で化学肥料、農薬を使用した工業型農業と呼ばれる手法で進められてきた。これにより食や経済が豊かになる一方で、広大な農地開拓による森林伐採で樹木は減少し、温室効果ガス吸収量が低減した結果、世界的な気候変動が進んだ。また、農地への化学肥料、農薬の使用により土壌は汚染され、多様な生物の豊かさが失われただけでなく、生産者や消費者への健康被害を生み出してしまった。

人々の健康や地球環境を軽視した工業型農業は、近年の健康、気候、生物絶滅危機などさまざまな問題の根本的要因であることが考えられる、と動画に登場する講師の印鑰智哉(いんやく・ともや)さんは指摘する。だからこそ工業型農業からの早急な脱却が必要ということだ。印鑰さんは、「今後、有機農業のような持続可能な農業体系が日本の農業の主流となることが、今後の未来を救う救世主となる」と力強く語った。

有機農産物はなぜ消費者に選ばれにくいのか

筆者の印象だが、有機農産物を選ぶ人はあまり多くないように思う。近年「有機」や「オーガニック」というワードは注目を集め、スーパーでは有機(オーガニック)作物を目にすることが多くなったように感じる。認知度が高まる一方で、まだまだ希少であること、無肥料・無農薬のため栽培に手間や難しさが生じることなどから従来品に比べ価格が高い。そのために有機農産物は“お金持ちの人のもの” “環境への「意識高い系」の人のもの”などのイメージが根強く、持続可能な社会の実現における有機農産物の本来の価値はまだまだ認められていないのが現実のようだ。また、高価格に加え従来品と比較し形が整っていない、虫食いがあるなど見た目のマイナスのインパクトもその要因の一つとなっている。

有機農産物を選ぶ利点

そもそも有機農産物を選ぶとどんな利点があるのだろうか。
次のようなことが考えられる。

・真の栄養で健康になる
化学肥料、農薬に頼らない作物は、真に豊富な栄養を含んでいる。だからこそ、より栄養が必要な貧困層、子どもにこそ有機農産物が必要なのである。

・農地の土壌汚染を防ぎ、環境汚染、地球温暖化を緩和する
無肥料・無農薬により土壌環境が改善され、肥沃になった土では自然界のエコシステムにより生物多様性が守られる。

・予期せぬ新たな感染症などの健康被害から守る
生産効率を高めるために遺伝子操作された種苗は自然界で予期せぬ問題を生み出す可能性がある。地域の在来種苗が守られることで、新たな感染症などの予期せぬ問題を回避することができる。

・有機農家を守り、今後の有機農業拡大の助けとなる
有機農産物の需要が増すことで生産規模が拡大する。需要と供給のバランスがとりやすくなり、価格の安定にもつながるだろう。

有機農産物の価値が認められ、広がる社会へ

今後の有機農産物の普及・拡大・浸透のためにも、まずは地域の連携による生産者と地域の消費者の間での循環を安定させることが求められる。学校給食や病院食など公的な場での使用は、特に有望だ。また、今回視聴した市民講座のような、若い世代や子どもを含む地域住民へ有機農業・作物についての長期的な利益を教えるなどの食教育を主軸とした新たなまちづくり政策は、有機農産物のさまざまな利点の認識を深め、地域社会で有機農産物が選ばれる雰囲気を作り出していくだろう。

まとめ

民間稲作研究所はこれからも変わらず、有機農業の裾野を拡げるために自然の持つ循環機能を大切に歩んでいくそうだ。その力強い活動をこれからも応援したい。
今回の市民講座を通し、農業・食の視点から環境問題について学び、「今、自分に何ができるか」を考えることがなにより重要だということを改めて感じた。
有機農産物の選択は、長い目で見て大きな価値がある。それは健康、未来への投資のようなものである。
持続可能な未来の実現に向け、「今、できること」の答えの一つがここにあると強く感じている。

参考:NPO法人民間稲作研究所「とちぎ有機の会『市民講座』」2023年度配信動画(第1~4回/2023年7月~2024年1月)(https://www.inasaku.org/movies