SDGsは目標とターゲットが取り上げられることが多いが、それは、SDGsの一部にすぎない。ここでは、なぜ、SDGsの基本理念が「誰一人取り残さない」なのか、そして、日本のNPO・NGOはSDGsの達成に関してどのような活動を行っているのか、SDGs時代にこそますます「協働」が重要になることをお伝えしたい。
SDGsとNPO・NGO
「あと、干支一回りで2030年です。みなさん、何歳になりますか?」。SDGsの基本的な解説をする講座で話すとき、18年に入ってからは、こんなフレーズを一度は使っている。「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」が、国連の全加盟国で採択されてから丸2年が経つ。日本国内でも認知度は上がってきているが、具体的な取り組みはようやくスタートラインに立ち始めたというところではないだろうか。
SDGsは17のカラフルなロゴと共に目標(17)とターゲット(169)のみが取り上げられることが多いが、それは、SDGsの達成を説明するうえでは、一部にすぎない。
ここでは、なぜ、SDGsの基本理念が「誰一人取り残さない(Leave No One Behind)」なのか、そして、日本のNPO・NGOはSDGsの達成に関してどのような活動を行っているのか、を踏まえたうえで、SDGs時代にこそますます「協働」が重要になることをお伝えしたい。
世界は持続可能なのか
人口爆発の世界、少子高齢化や人口減少というフレーズが新聞に掲載されない日はない日本、人間の営みが巡り巡って引き起こしている自然災害の猛威、地球の危機は日常生活の危機として、多くの人たちが当たり前に「持続不可能」を考える時代に突入した。NPO・NGOで活動している多くの人は、もともと誰も見向きもしなかったとしても、その人を放っておけない、その環境を放っておけない、という思いで活動をしている。そのため、わざわざSDGsと言わなくても「やっている」と思っている人が多いのではないだろうか。これは自治体にとっても同じことかもしれない。
もちろん、SDGsへの理解が進まなくても、人々が安心して暮らせ、次世代にもその環境や社会や経済が引き継げるのであれば、それに越したことはない。SDGsアジェンダの宣言第4節の冒頭は「この偉大な共同の旅に乗り出すにあたり、我々は誰も取り残されないことを誓う」という書き出しで始まっている。このままでは、世界と日本が持続不可能なのではないかという危機感を現実的に受け止めて次に進むことが重要なのではないだろうか。
MDGsと市民社会ネットワーク
私は現在、一般社団法人SDGs市民社会ネットワーク(以下、SDGsジャパン)の事務局長代行を務めているが、当法人は17年2月に法人化された。前身になったのは、「動く→動かす」という任意団体で、その時代から「世界から貧困をなくす」というアドボカシーを中心とした活動を行ってきた。SDGsジャパンの活動を紹介する前に、まず「動く→動かす」についてふれたい。
今から18年前の2000年9月に米国ニューヨークで行われた国連ミレニアム・サミットで国連ミレニアム宣言が採択された。それを基にまとめられたのが、ミレニアム開発目標(MDGs=Millennium Development Goals)である。
MDGsは、開発分野における際社会共通の目標として、国連開計画(UNDP)の主導で策定さたもので、その達成に向け、貧困題を解決するための世界的な市民会ネットワーク年に発足したこれがGCAP(Global Call to Action Against Poverty)で、世界31か国にまで広がるこのネットークの日本版として設立されたのが「動く→動かす」である。
「動く→動かす」は2009年3月に活動を開始したが、それ以前は、特定非営利活動法人「ほっとけない世界のまずしさ」(2008年10月に解散)が、主にホワイトバンドキャンペーンとして活動を行っていた。「動く→動かす」では、途上国の貧困問題解決に取り組む日本の国際協力NGO約70団体が中心となり、GCAPがもつ国際的なネットワークも活かしながら活動を進めてきた。
SDGsの策定プロセスとSDGsジャパン
「動く→動かす」は、2013年にはSDGs形成のための多国間交渉に日本の市民の声を反映させるために「ポスト2015(*1)NGOプラットフォーム」を設立し、外務省と日本の市民社会との対話の窓口を担うこととした。SDGsアジェンダが採択されるまでの2013年~2015年の間に、SDGsに関する外務省との意見交換会を15回開催し、国連本部のSDGs形成の実質上のトップである、アミーナ・モハメッド・ポスト2015国連事務総長特別顧問との対話を2回実施している。2015年9月にはニューヨークの国連SDGs採択サミットにも参加した。
MDGsの時代には、日本のNPOを含め、目標は途上国が対象であることを中心に語られてきた。MDGsは、前述したように、2000年の国連ミレニアム・サミットで採択された「ミレニアム宣言」をベースに、UNDPの主導で策定されている。
それに対して、SDGsは3年以上にわたる議論の末に、透明性を確保した参加型で策定されている。コロンビア政府が提案した「環境・経済を開発に統合する包括的な開発目標」は、年に実施された「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」の主催国であったブラジルに受け入れられ、SDGsの策定が同会議の目玉として誓約された。
その後、国連でこれを審議する「オープン・ワーキング・グループ」が組織され、女性、子ども・若者、少数民族といった非国家主体を9グループにまとめた「メジャー・グループ」も参加して審議がされている。こうした審議過程の中で、途上国開発目標の新目標というだけでなく、あらゆる国が抱えている課題を解決していくための目標づくりに変わっていったのである。
SDGsジャパンも、SDGsの実現に取り組むのであれば、日本の課題に取り組む団体の参画も重要だという認識のもと2016年4月に任意団体「SDGs市民社会ネットワーク」として、開発に関わる国際協力NGOのネットワーク「動く↓動かす」から、環境団体、分野を問わずNPOを支援する中間支援組織などにも声をかけ、組織を再編した。
「SDGs達成のための政策提言」をミッションに
SDGsジャパンの目的は、「誰一人取り残さない」というSDGsの理念に則り、全ての人々が、貧困がもたらす生命や生活の危機および社会的排除から解放され、人間として尊厳を持って生きることのできる、経済・社会・環境の3側面が統合された、持続可能な世界の実現に寄与することだ。そのために、以下の四つの事業を推進することを掲げている。
①SDGs達成のための政策提言、②SDGsの広報・普及啓発、③市民社会と民間企業、政府、研究機関、国際機関などとの連携の強化や問題解決策の提示、④SDGs達成のための調査・研究。
政策提言を行うために重要視しているのが、政府間交渉等の国際会議である。2016年5月に日本をホスト国として実施されたG7伊勢志摩サミットでは、地元のNPO・NGOと協力し、SDGsに関する市民フォーラムを実施したり、提言書を政府に届けた。そのかいがあったからかは評価が分れるが、日本政府は2016年5月20日の閣議決定で、内閣総理大臣を本部長とする「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部」を内閣府に設置した。
また、各党にも働きかけを行うとともに、SDGs達成のために日本が行うべきことについて、日本のNPO・NGOの人たちと共に勉強会も何度か実施している。
現在、SDGs目標達成のため日本政府の推進母体になっているは省庁の全閣僚が参加する政の「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部」と2016年9月に設置されたNPO/NGO、有識者、民間セクター、国際機関、各種団体、協組合等もメンバーとなっている「SDGs推進円卓会議」(構成メンー合計14人)だ。SDGsジャパからは「SDGs推進円卓会議」3人の委員が派遣されている。
*1 MDGsに代わる途上国開発の新目標を作ろうという流れとSDGs策定の流れを統合する流れ。
カウンターレポートの重要性
SDGsジャパンは、現在100団体強のNPO・NGOが会員となってSDGs達成のための情報交換や共通して実施する政策提言や広報活動などを行っている。その中から具体的な事例を一つご紹介したい。
2017年7月に国連でハイレベル政治フォーラムが実施された。日本政府はタレントのピコ太郎さんをSDGs大使として派遣し、メディアなどにも露出していたので、記憶にある人も多いのではないだろうか。SDGsジャパンでは、日本の市民社会の視点によるカウンターレポート「ハイレベル政治フォーラムに向けた日本市民社会によるレポート」(日本語版・英語版)を作成して、ハイレベル政治フォーラムにNPO・NGOとして参加し、いくつかのサイドイベントなども実施したうえで、レポートを配布した。
このカウンターレポートでは表に掲げた分野について、①SDGs達成に向けて最も取り組まなければならない現状の課題は何か、②SDGs実施指針及び具体的施策に関する評価、③今後の提言――について、レビューを行っている。レポートはSDGsジャパンのホームぺージ(http://www.sdgs-japan.net/toolkit)からダウンロードできるので、ぜひのぞいてほしい。
やわらかい制度の領域にこそ「協働」が重要
SDGsの実現のためには、これまでの常識に縛られず、しかしながら普遍的な価値を大切にして、協働で活動を推進していく必要がある。共同でも協同でもない、協働(異種・異質な組織同士がお互いのリソースを出し合って目的達成のために活動すること)が言われ始めて15年が経った。NPOという言葉も定着し、再評価を受けているところだ。
制度には線引きが必要だ。必ずその制度に当てはまるか当てはまらないかを確認しなければならない。しかし、人々の豊かな営みは制度だけで達成することはできない。そんなやわらかい制度の領域でこそ重要になるのが「協働」である。
SDGsに関する勉強会や情報提供が加速度的に進んでいる。SDGsが合意されたのは国連の場だが、私たちNPO・NGOの活動一つひとつがSDGsの達成に寄与していることも忘れてはならないと考えている。また、SDGsを他人事から自分事に変えるポイントの一つとして、SDGsを発案したのは、2015年にノーベル平和賞を受賞したフアン・マヌエル・サントス大統領を擁する南米・コロンビア共和国政府だということを改めて強調しておきたい。
2030年の目標達成期限までには、それほど時間が残されていない。だが、SDGsの理念である「誰一人取り残さない」を、個人の生活においても、組織活動においても、社会活動においても無意識に実践できるようになったとき、私たちの世界は大いに改善され、よりよいものに変革されていくはずだ。その決意を胸に、一つひとつの活動を積み重ねていくことが重要だと考えている。
身近なことから取り組んでいくことももちろん大切だ。だが、さらに重要なのは、今ある制度や仕組み、これまで積み上げてきたことが、2030年の世界を持続可能なものにしていくために守るべきものなのか、進めるべき制度や仕組みなのか、と大きな疑問を持つことではないだろうか。だからこそ、自分たちだけでは見過ごしてしまうことがないよう、「協働」の力が必要なのではないかと思う。そして、その「変革」には多くの人の「共感」が、大切な価値として位置づけられていることを切に望んでいる。
(月刊 ガバナンス 2018年8月号 特集:SDGs×自治体 から転載)