■事務局長は「見ると、やるでは大違い」

2014年8月1日から事務局長に就任した。日本NPOセンターの職員になって17年目、今年の4月1日からは事務局次長だったことを考えると、準備期間があったといえばあった。が、事務局長になって2か月経った正直な感想は、「見ているのと、やるのでは大違い。なんと大変なことか。」だった。8月に全米オープンテニスで錦織選手が準優勝し、突然テニスファンになり熱心に応援をされた方もおられると思うが、応援しつつ、あーだ、こーだと批評するのと、自分が実際にテニスをして、「エアケイ(錦織選手の得意技)」が打てるということは全然違うのだ。

みなさんは、NPOの事務局長の仕事をどう考えるだろうか。「活動の実質的な執行者であり、責任者である(CEO)」という点は、あまり異論がないと思うが、それが実際に何を意味しているのか、またそれ以外にもとめられる事務局長の責務や役割は、組織によって大きく異なると思う。

■マネジメントから事務局長の役割を考える

事務局長の役割について考える前に、その前提となるNPOマネジメント論について少し触れておきたい。特定非営利活動促進法が成立してから早や17年が経ち、NPO法人の数は5万を越え、年間予算規模が1億円を超える団体が全体の5.8%(平成25年度 内閣府「特定非営利活動法人に関する実態調査」)に達するようになった。

私が初めてNPOという言葉を書籍で目にしたのが、1996年刊の『NPOとは何か―社会サービスの新しいあり方―』(日本経済新聞出版社)である。当時は、欧米の比較的規模の大きなNPOのマネジメント論が盛んに移入された時期であった。日本NPOセンターでも、NPOの組織運営支援に資するように、設立後まもなく始めた講座を基に『NPO基礎講座』(ぎょうせい)や、より実務に役立つ『NPO実践講座』(ぎょうせい)を出版してきた。また最近では、『NPOリーダーのための15の力』を発刊している。今やNPOのマネジメントに関する書籍は数多く出版されており、その中にはNPOのリーダーや事務局長について論じている本もいくつかある。

このようにNPOのマネジメントについて多くの情報に触れられるようになったが、日本の実態に即したNPOマネジメント論が、分野別、組織規模別などの分析を踏まえて、具体的に展開されているだろうか?この点は、まだまだの感がある。

NPOマネジメント論は、いわゆる「一人NPO」ではほとんど現実的な意味がない。意味ある議論として機能するにはある程度の組織規模が前提となり、その一つの基準が、
(A)年間予算規模が600万円を越え、
(B)設立から3年以上過ぎた
あたりからではないかと思う。(A)については有給の専従スタッフを組織として雇用する予算規模であり、(B)については設立当初の情熱だけでは組織が立ち行かなくなる年限である。

個々のNPOが重ねてきた歴史の中には、各団体が試行錯誤を重ねて導き出してきたNPOマネジメントの在り方がある。現場からもっと発言して、日本におけるNPOのマネジメントについても議論を深めていきたい。

■事務局長の役割を改めて考える

NPOは、組織基盤と事業推進のバランスのとれた運営が必要だ。全国規模の中間支援組織である日本NPOセンターでは、どのように世代交代をすすめ、人材育成を図るのかについての検討がまさに求められている。

事務局長就任直後の私であるが、NPOのマネジメント論だけでなく、現場の実情を踏まえての事務局長論もそろそろ本格的に議論する時期がそろそろ到来してきたと思う。事務局長の役割は、組織の規模と歴史の長さとその組織が持っている固有の文化ごとに随分と幅があり、また、代表理事(理事長)、常務理事の有無、事務局長の立場(理事か否か)などの関係性によっても、かなり異なるであろう。それらが活発に議論され、NPOの信頼性がより高まる議論の場をつくることができるように頑張りたい。今後みなさんとともに大いに議論を深めていきたいと思っている。

8月1日の事務局長就任を機に、日本NPOセンターでは業務執行における、代表理事、副代表理事、常務理事、事務局長、事務局次長、部門長それぞれの責務を、9月12~13日にスタッフ合宿において検討のうえ整理し文章化した。前任からの口伝教授の大切さも認識しつつも、明文化による安心感を私自身が求めたかったのかもしれない。その背景となる新体制についてすこし補足説明しておくと、震災支援を含めて業務量が増大するなかでスタッフも20名を超えるようになり、業務執行体制の充実を図る観点から、常務理事2名体制にした。新任の常務理事は今後重要性が高まる国際部門を担当し、前事務局長の常務理事は主に震災部門を担当する。そして、事務局長には、理事ではなくスタッフである私が就くことになった。

内部資料の要素のあるこの文章を公開することにより、みなさんの組織活性化を図る議論の「ネタ」として参考にしていただくとともに、力強く厚みのある市民セクターの形成の一助となれば幸いである。

なお、紙幅の関係もあり、ここではこの文章のポイントを抜粋掲載した。

~ご参考~

日本NPOセンターの業務執行における、代表理事、副代表理事、常務理事、事務局長、事務局次長、部門長の責務

代表理事―日本NPOセンターを代表する立場であり、法人業務全般について責任を負う。
(定款14条の記載「代表理事はこの法人を代表し、その業務を総括する」の通り)

副代表理事―代表理事を補佐し、代表理事に事故があるときまたは代表理事が欠けたときには、代表理事のあらかじめ指名した順序によって、その職務を代行する。
(定款14条の2の記載の通り)

常務理事―日本NPOセンター理事会の負託を受けて、団体の日常的な業務執行について、以下の面から責務を負う。

1. 中長期ビジョン達成に向けた執行体制の確保。
2. ミッションベースの組織の継続と経営の安定化を両立させるための大きな方向性の提示と、それに向けた関係づくり。
加えて、日常業務の執行における事務局(特に事務局長、事務局次長、部門長)の指導、助言、支援を行う。特に、以下の面で指導的立場を担う。
3. 新規事業の立案・計画。
4. 外部関係者に対する団体の活動の普及、意義の理解促進、支援の確保。

(定款14条の記載「常務理事は、理事会の議決に基づいて、この法人の常務を処理する」)

事務局長―業務執行責任者として、日本NPOセンターの総会、理事会で定められた団体のコアバリューにしたがい、ミッション、ビジョンを達成するために以下の責務を負う。

1. 総会と理事会の決定事項にしたがった、年次事業計画・予算の適切な執行。そのための日常業務の監督調整、事業の質的保証。外部関係者との協力・連携確保。成果の可視化、アカウンタビリティの確保。
2. 理事会と事務局の円滑かつ円満な関係構築のための情報提供、調整。
3. スタッフが個々およびチームの能力を最大限発揮できるような人事配置・評価の仕組みの構築、執行。プロフェッショナリズムの確保。
4. 適切な財務管理、理事への報告。

事務局次長―事務局長に課せられた上記の責務に関し、事務局長を補佐する。事務局長不在時は、事務局長を代理する。

部門長―部門内の業務の執行責任者として、業務を円滑に遂行する。また、事務局長に課せられた上記の責務に関し、事務局長を補佐する。特に、個々のスタッフの直属の上長として、人事配置・評価をスタッフに対する最大限のケアをもって執り行う。