<取材・執筆>菅野 美優 <取材先>チームフランポネ

「チームフランポネ」のフランポネ マヌー島岡さん(左)と藤田ゆみさん(右)

令和6年4月1日、改正障害者差別解消法が施行され、障がいのある人への「合理的配慮の提供」が義務化された。法律に基づく障がい者の権利擁護が進む一方で、お笑いを通じて障がい者差別と向き合う団体がある。「チームフランポネ」は、吉本興業所属のお笑いコンビ「フランポネ」と、同じく吉本興業に所属するピン芸人・藤田ゆみさんを中心に活動しており、障がいに対する垣根を取り払う新しいアプローチを行っている。今回は、彼らの取り組みとその意義について紹介する。

お笑いを通じた社会貢献

フランポネは、吉本興業に所属する国際夫婦漫才コンビ。メンバーは、元商社マンのマヌー島岡さんとスイス人の妻シラちゃんだ。マヌー島岡さんが、2002 年から 2012 年までベルギーに駐在している間、フランスのジャパン・エキスポでシラちゃんと出会い結婚。近年、日本のアニメや漫画はヨーロッパで広く認知されているが、一方で日本のお笑いはまだ国際化していないと感じた二人。そこで、「自分たちの力で日本のお笑いを広めよう」とコンビを結成し、お笑いの世界に飛び込んだ。

2019 年に、日本語学校で外国人を対象に「優しい日本語」を使った漫才講座を初めて実施した。外国人が言い間違えやすい簡単な日本語を用い、漫才を通じて楽しく日本語を学べる内容で、分かりやすさが評価され、大学教授から「障がい者就労支援施設でも応用できるのでは」と提案を受けたことをきっかけに、2021 年に横浜にある障がい者就労支援施設で漫才講座を開始。以来、チームフランポネの活動対象は外国人や障がいのある方に留まらず、幼稚園生や小学生、高齢者にまで広がっている。

現在では、「優しい日本語」を使った漫才作りを通じ、相手の心をつかむ術を学び、コミュニケーション能力を高める取り組みとして、多くの世代で活用されている。また、チームフランポネのメンバーである藤田ゆみさんは、芸人と兼業でグラフィックデザイナーとして活動しており、チームフランポネが招かれた大学や自治体でのお笑い講座のポスターや、ロゴデザインの制作も行っている。

バリアフリー漫才を提案する理由

「日本に住む約963万人の障がい者は、笑いを享受できているのか」

「日本に住んでいるマイノリティの方々、例えば障がいのある方や外国人と一緒にお笑いをやったら、みんなが笑顔になれる。日本に住む全ての人が笑顔になると、日本全体が元気になり好景気となる」とマヌーさんは語る。例えば、障がい者や外国人が漫才を披露する漫才大会「D-1グランプリ」(DはDiversity=多様性)を開催し、コンテンツ化することで収益化できるのではないか。そして、世代、障がいの有無、国籍を超えた社会参加が進み、バリアフリーのお笑いコンテンツにもなる。

具体的な実績として、豊島区漫才大会 D-1グランプリでは、収益化に成功し出演者に5,000 円の出演料を支払うことができた。他にも、神奈川県川崎市で開催された高津漫才大会 D-1グランプリでは、11組の漫才師が高津あるある漫才を披露し、当日120人以上の観客が訪れた。関西では、兵庫県姫路市はりま漫才大会で脳性麻痺の方が優勝し、M-1グランプリにも出場。さらに、NHKのテレビ番組「バリバラ」で漫才を披露した。

日本には障害者のうち約610万人が障がい者手帳を持ち、約2万箇所の手帳を持つ人々が利用する就労継続支援施設がある(2022年度)。日本の就労継続支援には「就労継続支援A型」と「就労継続支援B型」の二種類があり、A型は雇用形態を結び最低賃金が保障される一方で、B型は障がいや体調に合わせて自分のペースで働くため、最低賃金が適用されず、「工賃」という形で支払われ、平均工賃は月額1万6,507円だ。時給に換算すると203円である(2021年度)。

チームフランポネは、こうした状況に対してお笑いを通し差別や偏見をなくすことを目指すと同時に、障がい者の新たな働き方や楽しみ方の可能性を広げる取り組みを行っている。

周りの反応

活動当初は、「障がい者を食い物にしている」と批判されたが、今では実績が評価されるようになった。その一方で、「漫才講座を提案する際、承認されるかどうかは地域ごとの文化的背景や価値観の違いが影響している」と、マヌーさんは語る。例えば、漫才発祥の地である大阪は協力的だが、関東では受け入れられないことも多い。東京23区の中でも文教地区の指定がある目黒区や文京区では、「うちの地域性に合わない」と断られるが、江戸川区や葛飾区、江東区、足立区は比較的受け入れられやすい。漫才文化の日常生活への浸透度や地域性によって、受け止められ方はさまざまで、理解を得られなかったり、承認されるまでに時間がかかることもあったという。

「お笑いの力で社会を変える」

現在、活動がさらに広がり、2025年の大阪万博ではスイスパビリオンでの活動が決定。また、世田谷区で3月までに漫才大会「SETA-1 グランプリ」を開催したいという。世田谷区の観光地や名産品をテーマにした「世田谷区あるある漫才」を区民と一緒に作成し、出場者に5,000〜1万円の出演料を支払う予定である。そして、この漫才大会を1年目は参加者20〜30名、3年目50名、5年目に100名以上が参加する、世田谷区を代表するお笑い大会に成長させることを目標にしている。
マヌーさんは、「47都道府県でD-1グランプリを開催し、M-1グランプリの前座として優勝コンビが漫才を披露することが今後の目標だ」と語った。

「漫才講座」の活動に必要な費用を賄うため助成金の申請も積極的に行っており、2022 年は 60 万円、2023 年には 236 万円の助成を受けた。2024 年は 7 月の時点で 390 万円の助成を受けている。助成金の額が年々増加しており、チームフランポネの活動の社会的意義が認められてきているのではないだろうか。

彼らが提案する「バリアフリー漫才」は、障がい者や外国人が楽しめるお笑いの場を作り出し、多文化共生を促進している。また、漫才講座を通じた社会的な反響や助成金の獲得は、彼らの活動が広く認められていることの証でもあり、今後のさらなる発展が期待できる。チームフランポネのように社会の壁を取り払う取り組みが、より多くの人々に影響を与え、マイノリティの方々への理解を深めるきっかけになると私は思う。

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この記事は、専修大学文学部ジャーナリズム学科三木ゼミの学生によるものです。担当教員(三木由希子)は日本NPOセンターの理事であり、連携して記事づくりをしています。