<取材・執筆>田中 めぐむ <セミナー>一般社団法人子どもの声からはじめよう「子ども・若者が『支援』を拒むのはなぜか―『支援』の眼差しを向けられた若者の声を聴く―」

現在、歌舞伎町に集まるトー横キッズや若者を中心に広がるオーバードーズ(OD)などが社会問題となっている。トー横キッズやODをする若者は、虐待やいじめなどの逆境体験を持つことが多く、官民ともに彼らを支援する取り組みが行われている。しかしその一方で、それらの「支援」を忌避し拒絶する若者が一定数存在する。彼らはなぜ「支援」を拒むのか、彼らの心理を理解しより良い支援を探ろうとするセミナーが2025年2月16日タワーホール船堀で、一般社団法人子どもの声からはじめようにより開催された。

タイトルは「子ども・若者が『支援』を拒むのはなぜか―『支援』の眼差しを向けられた若者の声を聴く―」。自身も虐待を受け「支援」を拒んだ経験を持つ特定非営利活動法人ASKの風間暁さんがゲストとして登壇し、一般社団法人子どもの声からはじめようの川瀬信一代表理事、社会的養護出身のユースの方がセッションに参加した。

大人に対する不信感・諦め・怒り

まず、風間さんの生い立ちと「支援」を拒むようになった経緯が風間さんの口から紹介された。風間さんは壮絶な虐待体験や犯罪者家族として罵倒された経験から、「自分はいないほうが良い存在なのだ」と考えるようになった。その後、転校先で「仲間」と出会い大人に逆らう非行少年となる。大人は風間さんを「指導」しようとしたが、風間さんは「お前らのせいだ。助けてくれないくせに」「自分たちは自立して生きていくんだ」という大人に対する不信感と怒りでこれを拒絶する。その後、父親に助けを求めたが裏切られた経験を通して、「もう二度と大人には頼らない」と決意する。一方で、薬物だけは自分が求める効果をくれ信頼できる存在であった。そのため、風間さんは薬物使用やODを駆使して自分を守るようになった。そんな中、自殺未遂で救急搬送されることとなる。

響かなかった「支援」者の言葉

風間さんは一命を取り止め、数週間後に意識を取り戻した。しかし、その時の第一声は「なんで助けたんだこの野郎」であった。助けてなんて求めていない、死ぬことすら自由にさせてくれないのか、という怒りで一杯であった。支援者は生きさせようと言葉をかけてきた。しかし、それらの言葉はむしろ「逆効果」だったそうだ。自分を傷つけないで、何でも相談して、それらの言葉は死にたい風間さんのニーズと合っていなかった。そんな言葉は求めていなかったのだ。

変わるきっかけ

そんな風間さんに響いた言葉は、「薬物使って生きていてくれてありがとう」というものであった。この言葉を初診でかけた主治医は風間さんの薬物使用やODを止めようとしなかった。そんな対応が新鮮で、「こういう世界もあるんだ」と感じたそうだ。 その後、風間さんは妊娠を機に未来への時間軸が生まれ、薬物をやめることを決意する。風間さんは言う。「自分から生まれたニーズだから意味がある。人から与えられた目標なんかでは意味がない」

風間さんの支援方法

そんな風間さんの支援方法は、他の支援者と一線を画す。風間さんはODをやめさせようとしない。自身の経験から先輩という立場で身体に害となる使い方を教える。様々な薬のメリットとデメリットをきちんと伝え、本人と一緒に考える。風間さんの支援は一貫している。

私たちができること

その後、川瀬信一さんやユースの方によるセッションが行われた。大人への不信感を抱いたきっかけとして、「言っても聞いてくれないから何を言ってもダメだと諦めた」「勇気出して相談しても『つらいよね~』って聴くだけ」「傾聴とかのカウンセリング技術がイラつく、人と話している気がしない」などの声が出た。また、変われたきっかけとして、「自立援助ホームで『今日の晩御飯何がいい?』と自分に選択肢をくれたこと」「怒っている姿を見て怒ってもいいんだと思った」「いろんな大人に出会って自分はどうなりたいのかわかってきた」という声があった。
最後に支援者に伝えたいこととして、「拒むことにも彼らにとって目的があるから、拒むことを認めてほしい」「いろんな話を聞いて学んでほしい」「挨拶でも声をかけることが予防になる」「子どもを一人の人間として扱ってほしい」といった話があった。  

 

私たちは無意識のうちに相手に対してあるべき姿を期待し、その期待像を押し付けてしまうことがあると思う。特に子どもや若者に対してはそうしてしまう人も多いのではないか。しかし、それをされた相手は、あるべき姿を押し付けられた不快感とともに自分を大切にしてくれない絶望・諦めを感じ、心を閉ざしていく。心を閉ざした子どもはそのひずみを抱えながら生きることになり、それは時として生きづらさ・様々な問題行動につながる。相手を一人の人間として尊重することは人間関係の基本である。私たちが普段の生活で意識することで、みんながより生きやすい社会になれるのではないか。