<取材・執筆>内海 真琴 <取材先>NPO法人さくらんぼの会 理事長 上家 美恵子さん
30代にさしかかると、将来への不安や孤独をふと感じる人も少なくない。
「親はいつまでもいない」「このまま1人で生きていくのかな」「何かあった時に頼れる人はいるのだろうか」といった想いや「今はパートナーがいるけど……もし1人になってしまったら不安だ」、そんな悩みを抱えている人もいるだろう。
特に女性は平均寿命が長く、1人で生活を送ることに対して、不安を感じる人も多いのではないだろうか。
今回は、名古屋を拠点として、女性による女性の終活支援を行っているNPO法人さくらんぼの会の理事長、上家美恵子さんに話を伺った。
「ないなら自分で作るしかない」─立ち上げの裏側にあったもの─
上家さんがNPO法人さくらんぼの会を立ち上げた背景には、お母様の認知症介護があった。
ご自身は司法書士として相続のプロであったが、実際に介護を行う立場になって初めて「司法書士が終活においてカバーできる部分は本当に一部。自分の専門外については、ほとんど何も知らなかった」と気づいたという。
当時、上家さんはお母様の介護支援について女性同士で安心して相談できる場所を探していた。しかし、東京には女性のための終活支援サービスはあったものの、名古屋には相談ができる場所がなかった。「誰かに相談がしたい、でもないなら自分で作るしかない」。その想いが、動き出す一歩となった。
「振り返ると、どうして自分にそんなエネルギーがあったのか不思議です。NPOを一緒に設立してくれる人を集めるなど、毎日設立のために時間を割いて、力を注いでいました。今から考えても、異常なエネルギーだったと思うんですよ。やっぱり勢いがないと作れないですよね」。そう軽やかに語る上家さん。
また同じ時期に、お母様の介護だけではなく、お父様の介護も必要になったという。ご両親の介護、仕事の忙しさなど、目まぐるしい日々の中で終活に携わった実体験が「女性同士で気軽に相談できる終活環境を整えたい」という想いとなり、彼女を突き動かしたのだ。
「おはよう」でつながる仲間と社会的充実感
NPO法人さくらんぼの会の現在の主な活動は、毎月1回開催されているイベントだ。これらのイベントや取り組みには上家さんの「会員のみなさんが集まれる場所を作る」「孤立しない、孤立させない」という強い想いが込められている。
イベントのほかにも上家さんのその強い想いが現れているのが、1人暮らし会員向けの「おはようLINE」だ。
おはようLINEでは、参加している会員が起床したタイミングで各自スタンプを押す。そして、13時までにスタンプが確認できない場合には、当番の会員から本人へ連絡を入れる。それでもつながらなければ、予め登録している緊急連絡先に連絡を行う手順となっている。このLINEには上家さんも参加されているが、「グループ全員交代で行うことに意味がある」と語る。
「当番になった方が、毎日スマホを気にして13時までにスタンプの返事を待つ。『自分自身も誰かの役に立っている』ことが、自分も仲間の一員だという充実感につながると思う」
誰かに任せるのではなく、会員自身が当番として参加することで、より主体的に関わることができる。それが社会参加の実感になり、企業の見守りサービスでは踏み込めない「つながりの領域」を大切にした活動になっている。
何気ない交流こそ、「孤立しない、孤立させない」輪の一歩

月1回のイベントでは、遺言書作成や認知症予防、護身術、はたまたスマートフォンの使い方など幅広い内容で勉強会なども開催されているが、必ず食事会とセットで行われている。
「1人暮らしの会員から、『ちゃんとした食事、久しぶりに食べた』ってポソっと言われたことがとても心に刺さったんです」
「食事会ではフランス料理やイタリア料理のランチに行くこともあります。普段入らないようなお店なので、みなさんちょっとお化粧して、オシャレをして食事を楽しむ。こういう機会ってなかなか自分1人では作れないですよね。だから、ただ一緒に食事に行くことが役に立っているんだと気づいたんです」
勉強会のあとのランチ会では、「あの話はこうだったよね」「私はこうしてるんだけど」といった話をする。その中で、自分が日々不安に思っていることも口に出してもらい、「私も!」と言いながら笑いあう。そんな「何気ない交流」が目的だと上家さんは語った。
「気心の知れた仲間が集まって、みんな和気あいあいと食事をしていますね。勉強会はもちろん大事だけど、食事会だけでもいいから月1回集まろうよ!という感じで開催しています」と、楽しそうに話す姿からは、さくらんぼの会のあたたかな雰囲気がよく伝わってくる。
何気ない交流の場が持てること、そのゆるいつながりは「孤立しない、孤立させない」輪を作るために大切だと感じた。
「安心して、気兼ねなく集まる場にしたい」、女性限定にこだわる理由とは
NPO法人さくらんぼの会について、「男性は参加できないの?」と質問されることもあるという。しかし、女性限定にしているのは、性別を理由にシャットアウトしているのではない。上家さんの「安心して、気兼ねなく集まる場にしたい」という想いからだ。
「私自身女子高出身なので、女性同士だからこそ気楽に過ごせる環境を知っているんです。例えば、女性だけだとみんな話ができるけど、男性が1人でもいたら言えなくなることってありますよね。同じように男性同士のグループでも、女性が1人いると話せないことがあると思います」
自身の学生時代の経験も踏まえ、「安心できる環境」にするための結果として上家さんは女性限定にしている。
ただし、全く男性が参加できないわけではない。会員の友人や家族の男性であれば、バーベキューやお花見などのオープンなイベントに参加は可能だ。
何気ない会話ができる「ゆるい」つながりこそが、「孤立しない、孤立させない」社会の一歩

30代にさしかかると、女性は特に、「結婚したほうがいいのではないか」「決まったパートナーを作るべきだろうか」と頭をよぎるときがあるように思う。それは、長い人生を1人で生きていくことに不安や孤独を感じてしまうからだ。
取材前まで私は、自立した精神と健康な体さえあれば、将来への不安や孤独をふと感じても、健やかな生活を送ることは可能だと考えていた。
しかし、上家さんの話を聞く中で、人は、「社会に参加することによる充実感」と、「安心して話せる居場所があること」が大切なのではないか、と感じた。さくらんぼの会のような、社会参加と何気ない会話ができる「ゆるい」つながりは、どんな生き方を選んだとしても、「孤立しない、孤立させない」社会の一歩になるのではないかと感じた。
