NPOマネジメントについての講座や書籍には、かならずと言っていいほど組織の「中長期ビジョン」を作る必要性が強調されている。私も組織基盤の講演をする際には、近視眼的な組織運営ではなく、3年から5年を見越した計画を立てた方がいいといつも申し上げているし、自分自身はいくつかのNPOでこれまでに10回近く中長期ビジョンの策定に関わってきた。日本NPOセンターも2012年度は新しいビジョンの策定の年となっている。

中長期ビジョンをつくる目的としては、1.組織が一体となって目標に向かうため、2.時々の流行に左右されず、事業をミッションから乖離させないため、3.年度を越えじっくり事業を作るため、4.財務計画を近視眼的にさせないため、辺りがあげられるだろうか。また、取り組み方は組織の運営や財政状況によって異なる。状況が厳しい場合は理事のトップダウンで作ったり、事務局だけで作ることもあるだろうし、広く会員の意見を聴きながら作る場合もあるだろう。

取り組み方にかかわらず、策定の前に必ず確認したいのが、ミッションとバリューだ。ミッションは組織の存在理由で、これなしには組織は成り立たないので言わずもがなだが、ここで強調したいのはバリューの方だ。バリューとは、組織の指針となる不変の原則で、組織の内外の状況が変化しても、組織自身の深奥から顕れてくる、これだけは譲れない信念とでも言うべきものだ。

NPO法人も46,000を超え、多種多様な組織が生まれている。そんな中で、組織を維持するためだけに、守るべき原則(バリュー)に目を瞑って、行政からの委託事業を受託したり、旬な話題に飛びついて新たな事業をどんどん開拓したりしているNPOも少なからず存在する。以前関わっていた国際協力の分野でも、組織維持のために効果測定もしないままにマイクロクレジット(小規模無担保融資)に手をだし、単なる金貸し屋になってしまう現地NGOを見てきた。災害後に新しく立ち上がった団体が目の前のニーズに追われて、しっかりとした組織の基盤を整備することが後回しになるケースも多い。日本NPOセンターでも東日本大震災の復興支援事業の一環として、被災地のNPOの基盤強化やリーダー育成に取り組んでいる。

組織のバリューを明確にするための手段として、コンサルタントのジム・コリンズ氏が以下のような質問を設定している(一部坂口再構成)。

●家族や親しい人にも仕事に役立ててほしいと思うほど重要な組織のバリューを、家族や親しい人にどのように説明するか。
●明日の朝目覚めた時、自分自身が仕事からすっかり引退していたとしたら、組織のバリューを残りの人生でも(個人的に)持ち続けるだろうか。
●組織のバリューが100年後も今と同じように妥当性を保っていると想像することができるか。
●組織がバリューを持ち続け、そのうちの1つか2つが(他の組織との事業を進めるにあたって)競争状況で不利益だと判明しても、手放さないでほしいと思うか。
●もし明日、これまでとは違う路線の組織を立ち上げるとしたら、新しい組織の活動内容に関係なく組み入れたいと思うバリューは何か。
(出典 「行政・非営利組織のバランス・スコアカード」 2006年 生産性出版)

ちなみに、日本NPOセンターが今、策定中のビジョンのたたき台として、理事や評議員で構成された「日本NPOセンターの未来を考えるタスクフォース」の中で記されているコア・バリューは以下の通り。個人的には、「寄り添う」「当事者意識」「現場のリアリティ」「開かれた議論」あたりが残りの人生でも持ち続けたいキーワードだ。

1.あらゆる意味で排除、抑圧されている人に寄り添う(連帯)
2.市民の当事者意識や参加を大事にすること
3.目の前の事業だけに終始するのではなく、社会のあり方、構造に切り込むこと
4.現場のリアリティを最優先にすること(+正しい情報をもとに判断する)
5.多様性・少数意見を尊重すること
6.情報公開を行い、説明責任を果たすこと
7.開かれた議論の場を創ること
事業や組織を維持していくのは、組織の中核にいる人間にとって血の出るような努力の連続だ。ミッションだバリューだと言っていられないのが現実ではあるかもしれない。しかしながら、市民活動の矜持として、組織の原則はしっかりと持ち続けていきたいものだ。バリューはNPOの「魂」なのだから…。

ところで、あなたの組織にはゆずれないものありますか?