2021年9月27日、孤独・孤立対策 連携プラットフォーム(仮称)準備会合が開かれた。
この会合には政府側から菅内閣総理大臣、加藤内閣官房長官、坂本孤独・孤立対策担当大臣と、内閣官房孤独・孤立対策担当室の政策参与である大西連さん(自立生活サポートセンター・もやい)、村木厚子さん(津田塾大学客員教授)が出席。民間側からは生活困窮者自立支援全国ネットワークや全国女性シェルターネット、全国フードバンク推進協議会などの分野別のネットワーク組織のほか、全国社会福祉協議会、新公益連盟など15団体が参加した。(*1)
この問題に関する政府の動きの発端は2月にさかのぼる。新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、孤独・孤立の問題がより一層顕在化しているとして、菅総理が坂本大臣を担当として指名し、2月19日に内閣官房に「孤独・孤立対策担当室」を立ち上げた(*2)。2月25日に「孤独・孤立を防ぎ、不安に寄り添い、つながるための緊急フォーラム」を開催。菅総理はじめ各省の大臣・副大臣と、10名の民間団体からの参加者で意見交換を行っている。
3月12日には全省庁の副大臣からなる「孤独・孤立対策に関する連絡調整会議」を立ち上げ(現在までに5回開催)。孤独・孤立対策室より「ソーシャルメディアの活用に関するタスクフォース」「孤独・孤立の実態把握に関するタスクフォース」「孤独・孤立関係団体の連携支援に関するタスクフォース」を立ち上げることが発表された。
3月16日には「新型コロナに影響を受けた非正規雇用労働者等に対する緊急対策関係閣僚会議」(6月8日までに3回)を開催。孤独・孤立対策に取り組むNPO等への支援策として、5つのテーマ(*3)で総額約60億円の緊急支援策を決定した。さらには官民の対話の場として6月24日に「孤独・孤立に関するフォーラム」を開催。毎回テーマを定めて、NPO等の団体が実態を報告しており、現在までに7回開催されている。また、6月18日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2021」(いわゆる骨太の方針)でも、孤独・孤立対策の項目が設けられた。今後、孤独・孤立対策室は骨太の方針に基づいて冒頭の「孤独・孤立対策 連携プラットフォーム」を立ち上げるとともに、年内に重点計画を発表する予定だ。
政治側の動きとしては、与党も自民党孤独・孤立対策特命委員会、公明党社会的孤立防止対策本部をそれぞれ立ち上げ、政策提案を行っている。野党では国民民主党が昨年12月4日に加藤官房長官に対して「コロナ対策に関する緊急提言」を行っており、その中で「孤独対策」の提言がこの流れの発端を作ったといってもいい。国民民主党は6月11日に「孤独・孤立対策の推進に関する法律案」を提出している。
この間の議論や緊急支援策で、かつてないほどに「NPO等との連携」が強調されている。骨太の方針においても「孤独・孤立対策に取り組むNPO等の活動へのきめ細やかな支援や政策立案に当たってのNPO等との対話を推進する。」と明記されており、期待の高さがうかがえる。このことも含めて、この一連の動きの課題を挙げるとすれば、次の3点があるだろう。
1つ目は活動と予算のミスマッチである。多額の予算が措置されているものの、国が直接執行しているものは1つ1つの案件規模が大きく、求められることも多い。その予算を使って求められるサービスを提供することができるNPOはそれほど多くはないと思われる。2つ目は自治体負担の大きさである。交付金の形で自治体を介して地域のNPOに拠出される予算は、自治体負担が大きく、現時点では確保された予算に対して事業があがっていない。3つ目は孤独・孤立対策に積極的であった菅内閣の退陣である。自民党総裁選で勝利した岸田氏が中心となる新内閣がこの流れをどう引き継ぐかは注目する必要がある。岸田氏は総裁選にあたって「3つの約束」の3つ目に「みんなで助け合う社会」を掲げた。これまでの流れが途切れず加速するよう、期待をしたい。
ではNPOとしてこの一連の大きな流れをどう受け止めればいいだろうか。
ここでNPOに求められているのは、打ち出された支援策を実行するサービス提供者としての取り組みだけでなく、政策形成における対話を積極的に行い、現場の知見を政策に反映させていくことだろう。先述の通り、交付金として自治体に委ねられている政策も多く、この流れは今後も続くと考えられる。地域事情にあった、地域に根差した取り組みを支えるためには、自治体レベルでの官民の対話が有効である。NPO支援センターにはそうした対話の場を自治体と連携して作ることも求められる。
また、孤独・孤立対策は、孤独・孤立状態に陥った人を特定してサービス提供するだけでは根本的な解決にならない。困難な状況に陥っていようといまいと、日頃から支えあう社会、多様性が尊重された共生社会を創っていく必要がある。小規模であっても、多様な活動が地域に存在し、それぞれの団体が活動を通じて参加の機会を創ることで、人と人とのつながりが生まれ、そうした社会につながっていくものと考える。その意味では孤独・孤立対策に直接かかわる団体だけでなく、NPOの存在そのものが、この問題の解決に寄与できる可能性を持っている。
(こうした考えのもと、NPO支援センター側の動きとして、日本NPOセンターを事務局とする有志が、8月11日に坂本大臣宛に「孤独・孤立対策に関する国への要望書」を提出している。)
NPOは参加を意識して、開かれた活動を展開すること。NPO支援センターは小規模な団体を支え、地域内での官民連携の機会を創り出すこと。そして政府・自治体には直接的な支援策はもとより、それだけでなく、地域の中に多様に存在する小規模な団体を支える少額の支援策を想定し、またそうした団体と政策形成段階で対話の機会を持つこと。こうした官民連携した取り組みが加速することに期待をしたい。
(*1) https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodoku_koritsu_platform/
(*2) https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodoku_koritsu_taisaku/
(*3)「①生活支援等・自殺防止対策」、「②フードバンク支援・子ども食堂等への食材提供」、「③子供の居場所作り」、「④女性に寄り添った相談」、「⑤住まいの支援」