今年度、東洋大学での講義を担当する機会をいただき、学生とともにNPOによる障害者の就労支援の取り組みを聞いてきた。就労支援事業は、一般就労を目指す「就労移行支援事業」、一般就労は困難だが雇用契約に基づく就労が可能な人を対象とした「就労継続支援A型事業」、一般就労が困難な人を対象とした「就労継続支援B型事業」と分かれている。その法的根拠となっている障害者総合支援法はいくつかあるポイントの1つとして「就労の場を確保する支援の強化」が掲げられており、働いて収入を得ることが重視されている。2007年度には「工賃倍増5か年計画」が掲げられたものの、2011年度の平均工賃は2007年度比で1.08倍(*1)にとどまり、翌年から「工賃向上計画」として実質的な目標の下方修正がなされた。
そもそも利用者が圧倒的に多いのはB型で、一般就労に困難を抱える方が大半の中で、工賃増=生産性を軸にした仕組みに無理があるのではないか。自立生活のために収入の確保は不可欠だし、倍とは言わずとも工賃増が実現されている点は、就労支援事業所に関わるすべての方の努力と創意工夫の結果だ。しかしその一方で、工賃増だけを追いかけるのではない、働くことの意味をより広く捉えた視点での支援が必要なのではないか。
「障害があってもなくても自分らしくくらし続ける地域づくり」をテーマにする特定非営利活動法人奏海の杜(宮城県登米市)は、今年度から就労継続支援B型事業を始めた。
「障害者が社会の中で自立して生きていく意欲を高めるサポートをしています。その柱の1つが地域に出て働くこと。施設外就労で、本人が地域に出て仕事をすることを意識しています」。代表理事の太齋京子さんは、自らの活動をこう表現する。そして就労支援事業に取り組む理由を「地域にかかわる1つの手段」と説明する。
必ずしも公共交通機関が発達した地域ではないが、利用者にはできるだけ公共交通機関を使って通うことを勧めている。「駅員さんとも仲良くなり、ことあるごとに気にかけてもらえる関係になっています。本人は日常生活を送っているだけですが、地域の人の障害理解を高めることにつながっています」(太齋さん)。制度に合わせて事業を展開するのではなく、1人1人のくらしのために使える制度を活用しつつ、就労を通して地域との接点を作っている。
「根源的なものは周縁にある」
先般開催した日本NPOセンター25周年式典での、たんぽぽの家理事長であり、日本NPOセンター顧問の播磨靖夫さんの言葉である。
この言葉をどう解釈するか、式典以来いろいろと思いを巡らせているが、「制度福祉の周縁部」ともいえる奏海の杜の取り組みに、市民活動の根源を見た気がする。
(*1)厚生労働省「障害者の就労支援対策の状況」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/service/shurou.html
2007年度の平均工賃12,600円に対して2011年度の平均工賃は13,586円。なお2020年度の平均工賃は15,776円で2007年度比1.24倍。