韓国の市民社会は、技術革新、世代交代、そして社会運動の変化がもたらす力によって、かつてない変革期を迎えています。筆者は韓国を代表するコミュニティ財団である「Beautiful Foundation(美しい財団)」の研究部門「Center on Philanthropy」での活動を通じて、こうした変化に深く関わってきました。その中で、韓国の非営利組織(NPO)やフィランソロピー(社会貢献活動)が、このダイナミックな変化の時代をいかに乗り越えているのかを目の当たりにしてきました。

Center on Philanthropyが実施する代表的な調査プロジェクト「Giving Korea*」の最近の調査結果から、デジタルの浸透だけでは説明しきれない、興味深いトレンドが見えてきました。

*訳者注:韓国の寄付・社会貢献活動の動向を包括的に捉える、年次調査。個人や企業、NPOによる寄付のトレンドを分析し、その結果を公表することで、韓国のフィランソロピー(社会貢献活動)が置かれた現状を明らかにしている。

韓国の若年層は、従来の組織的なボランティア活動ではなく、より特定の社会課題に焦点を当てた、プロジェクトベースの関わり方へと移行しており、社会参加のあり方を根本から変えつつあります。また、デジタルプラットフォームと草の根の組織化を巧みに組み合わせた、若者主導の力強い女性運動も台頭しています。学校から職場まで、#MeToo のような社会運動に取り組むこうした動きは、従来のNPOの組織構造に新たな視点を投げかけ、新しいアドボカシー(政策提言)のあり方を築いています。このような社会現象が、NPOのデジタルトランスフォーメーション(DX)を後押しする要因となっています。

デジタル変革の先駆者:MyOrangeとNugunaData

韓国のデジタルトランスフォーメーション(DX)を象徴する2つの先駆的な社会的企業、それが「MyOrange」と「NugunaData」です。彼らが持つ画期的なアプローチは、韓国のNPOの活動やミッションの拡大方法を根本から変えています。

MyOrangeは、NPOがもたらすインパクトの測定方法に革命を起こしました。彼らが開発したAIアルゴリズムは、ソーシャルメディアの反応、実際の寄付者による受益者へのフィードバック調査、長期的な成果追跡など、複数の情報源から得られる膨大なデータを分析し、包括的なインパクトスコアを算出します。

あるセミナーで彼らが紹介した事例があります。ある若者支援団体がこのプラットフォームを活用したところ、「同世代の仲間が関わるプログラム」は、従来の大人主導のプログラムよりも参加率が40%も高いことが判明しました。この発見は、その団体の支援方法を根本から見直すきっかけとなりました。このAIシステムは、新しいデータが入力されるたびに継続的に学習し、従来の手作業による評価では不可能だった、プログラムのリアルタイムでの最適化を可能にしています。

MyOrangeの実際の画面。星印の評価は、「MYDINA」という指標で、組織の目的・戦略、プログラム管理、運営、ガバナンス・透明性の4つの側面を分析したもの。オレンジ印の評価は、実際の寄付者による平均評価を表している。(出典:MyOrange)

もう一つのNugunaDataは、韓国語で「みんなのデータ」を意味し、高度な寄付者行動分析と予測モデリングを通じて、資金調達のあり方を根本から変えました。同社のプラットフォームは、寄付パターン、コミュニケーションの好み、過去の関わり方などを分析することで、一人ひとりに最適化されたアプローチ戦略を作成します。彼らが紹介した説得力のある事例の一つに、ある小規模な環境系NPOのケースがあります。この団体は、NugunaDataの知見を活用し、寄付者を「環境に対する価値観」や「希望するコミュニケーション手段」に基づいて分類(セグメント化)し、ストーリーテリングの手法を調整しました。その結果、わずか18ヶ月で寄付者の継続率を23%から67%にまで向上させました。このシステムは、個々の寄付者の行動パターンに基づき、資金調達に最適なタイミングさえも予測します。

NugunaDataのキム・ジャユCEOが、「みんなのデータ」と名付けられたブースで、NPO向けにコンサルティングを行っている様子。背景のスローガンには「お決まりの広報の制約から抜け出そう」と書かれている。(写真提供:キム・ジャユ氏)

テクノロジーは構造変革の担い手

これらの革新は、筆者がイベントで目にした、テクノロジーと社会変革が交差する力強い光景を象徴しています。その場で交わされた有意義な対話は、今もなお韓国の非営利セクターに大きな影響を与え続けています。特に、デジタル社会において市民社会がどのように進化していくのかを明らかにし、有意義な社会の発展を促すための知識を共に広めていこうという決意を固めるきっかけとなりました。これらの経験から、テクノロジーが非営利セクターに構造的な変革をもたらす「触媒」になり得るという私の理解は、より一層深まりました。

韓国のデジタル市民社会エコシステムを深く掘り下げると、これらの二つの組織が単にサービスを提供するだけでなく、根本的な構造変革を担う存在として登場していることがわかります。これらのアプローチは、個々の組織の成長に焦点を当てた従来の能力開発(キャパシティビルディング)モデルとは異なっています。代わりに、非営利セクター全体で組織間の水平的な連携や知識共有を促すプラットフォームを創り出しているのです。これは、テクノロジーが「イコライザー(誰もが公平になる手段)」と「アンプリファイアー(可能性を増幅させる道具)」の両方として機能する、新しいあり方を示しています。その結果、これまで潤沢な資金を持つ機関だけが利用できた高度なツールや専門的な知見に、小規模なNPOもアクセスできるようになったのです。

テクノロジーの民主化は、韓国の市民社会における力関係を根本から変えました。例えば、市民が自発的に立ち上げた小規模でボトムアップ型の草の根団体でも、大手財団と同じAIを活用したインパクト測定ツールを使えるようになり、データに基づいた証拠で活動の有効性を示し、より大規模な資金提供者を引きつけられるようになったのです。同様に、草の根団体よりも組織化された地域密着型の団体も、予測分析を活用して自らのミッションに賛同する寄付者を特定し、関係を深めることで、実績のある老舗NPOと肩を並べられるようになりました。

私たちの対応:デジタル・インクルージョンへの架け橋

Beautiful Foundation(美しい財団)も、こうしたデジタルのトレンドに対応するため、韓国のNPOをIT面で支援する「NPO IT Support Center」と連携しています。この協力関係を通じて、私たちはIT支援を必要とする団体に不可欠な技術援助を提供し、デジタル・デバイド(情報格差)の解消に努めています。これにより、小規模なNPOや草の根組織が、活動方法を時代に合わせて進化させ、そのインパクトを広げるために必要な技術資源や専門知識にアクセスできるよう支援しています。

非営利セクターにおけるデジタルの進展は、自らの核となる社会的使命を保ちながらデジタルへの移行を目指す非営利エコシステムにとって、貴重な教訓となります。効果的なフィランソロピー(社会貢献活動)の未来は、テクノロジーか人と人とのつながりか、どちらかを選ぶことにあるのではなく、両者を思慮深く統合し、社会的インパクトを増幅させることにあると示唆しています。テクノロジーは社会に利便性をもたらす一方で、格差を広げるという二面性を持っています。しかし、この技術があるからこそ、小規模なNPOもより戦略的に自らの活動をアピールする機会を得られるのです。