ネパールの概要:自然の壮大さと社会の複雑さを抱える国

ネパールは南アジアに位置する内陸国で、北は中国、その他の三方はインドに囲まれています。世界最高峰のエベレストをはじめ、世界の高峰トップ10のうち8つがそびえ立つヒマラヤ山脈の麓にあり、その雄大な自然は世界中の登山家やトレッカー、精神的な探求者たちを惹きつけてやみません。

2008年5月28日に連邦共和制へと移行し、2015年には新憲法のもとで連邦議会制が確立されました。現在は大統領が国家元首を、首相が政府のトップを務め、国を率いています。

こうした政治体制の変化を経ても、ネパール経済の中心は依然として農業です。自給自足の農業に加え、観光業や海外で働く人々からの送金が、経済を支える大きな柱となっています。これらの産業は国の発展を促す一方で、社会に残るさまざまな課題とも密接に関わっています。ネパールを訪れた人々が、その美しさや奥深さに触れ、やがては長期的な支援者や慈善活動家としてこの地に戻ってくることも少なくありません。

岐路に立つネパール:社会課題と構造的な課題

ネパールは、貧困削減において目覚ましい進歩を遂げています。ネパール政府が実施した「ネパール生活水準調査 第4回」によると、貧困率は2010〜11年の25.16%から2022〜23年には3.57%へと大幅に減少しました。しかし、依然として多くの人々が複合的な貧困問題に直面しているのが現状です。

大きな課題の一つは、国内での雇用機会が不足していることです。毎年40万人から60万人ものネパール人が海外に出稼ぎに出ており、経済は海外からの送金に大きく依存しています。現在、この送金がGDPの約24%を占めています。

また、高い若者の失業率や、都市部への人口集中による無計画な都市開発と環境問題も深刻です。ジェンダー不平等も根深く、女性の権利を阻む要因となっています。例えば、少女の22%が18歳未満で結婚しており、ジェンダーに基づく暴力も後を絶ちません。法律で保護されているにもかかわらず、カースト制度に基づく差別も社会に深く残っており、特にダリット(カースト制度の最下層に位置する人々)や疎外された人々がその影響を受けています。

富かさの中の不便さ:水と衛生

世界保健機関(WHO)とユニセフが2023年に発表した共同モニタリング報告書によると、ネパールで基本的な水道サービスを利用できるのは人口の約57.8%にとどまっており、多くの人々がいまだ安全で信頼できる水源を確保できていません。

ネパールは豊かな水資源に恵まれながらも、特にインフラが未整備な遠隔地では、安全な水の確保が大きな課題となっています。例えば、地下水や地表水が豊富なタライ平野でさえ、地質に起因するヒ素や生物由来の汚染が深刻です。このように、ネパールは水資源そのものは豊富であるにもかかわらず、安全に利用するためのシステムが十分に整っていないのが現状です。

瀬戸際の暮らし:災害、気候変動、メンタルヘルス

ネパールは地震リスクで世界11位、気候変動による脆弱性で4位に位置しています。洪水、地滑り、干ばつ、落雷、氷河湖決壊洪水(GLOFs)など、自然災害や人為的な災害が頻繁に発生しており、不安定な気象パターンによってその被害はさらに深刻化しています。

2018年から2024年の間にネパールで発生した災害は、甚大な被害をもたらしました。『Nepal Disaster Report(ネパール災害報告書)』(PDF)によると、この期間に記録された災害は3万2,375件に上り、2,996人が亡くなり、446人が行方不明、1万1,752人が負傷しました。インフラ面でも大きな被害が出ており、4万3,168か所のインフラが損壊し、5万7,271棟の家屋が被害を受けました。また、1万8,336頭の家畜が失われ、経済的損失は236億ネパールルピー(約248億円)に達しています。

こうした災害は、人々に強い不安や精神的な苦痛ももたらしています。しかし、メンタルヘルスは依然として軽視されがちな問題であり、若者の主な死因の一つに自殺が挙げられるなど、深刻な状況です。これらの危機的状況の背景には、脆弱なガバナンス体制、地方政府の能力不足、資金不足の公共サービスといった問題があります。一方で、ネパールの市民社会や草の根ネットワークが、こうしたギャップを埋める上で不可欠な役割を果たしています。

ネパールを支える市民社会と非営利組織

2020年7月15日時点で、ネパール政府傘下のSocial Welfare Council(社会福祉評議会)に登録されている非営利組織は5万1,513団体に上りますが、実際に活動しているのは約7,000団体にとどまっています。ネパールの非営利セクターは海外からの資金援助の動向に大きく影響を受けるため、課題に直面しています。例えば、米国からの6億5,900万ドルの開発援助が終了したことで、命を救うHIV治療薬といった重要なサービスが停止してしまうケースもありました。

しかし、財政的に厳しい状況にもかかわらず、市民社会組織(CSO)や非政府組織(NGO)などの民間非営利組織は、政府のサービスが行き届かない場所で不可欠な役割を果たし続けています。

例えば、保健分野では遠隔地の診療所やコミュニティ・ヘルスワーカーを支援することで5歳未満児の死亡率削減に貢献し、教育分野では識字率や女子の就学率向上を後押ししています。また、生活向上分野ではマイクロファイナンス、職業訓練、経済的支援を通じて多くの家族を貧困から救い出しました。災害分野では特に2015年の大地震の際にNGOが緊急支援サービスを担い、多大な貢献をしました。さらに、環境保全分野では、住民が主体となった森林管理を進めることで、森林面積を約45%にまで増やすという成果も出ています。

民間の非営利組織は、政策提言、調査研究、組織基盤強化においても重要な役割を担っています。若者や専門家のリーダーシップを育み、学生、研究者、専門家が協力し学び合うための場を創出しています。これらの功績は、現地の努力だけでなく、世界中の政府や慈善団体との長期的なパートナーシップによっても可能となりました。中でも、開発分野と人道支援分野における日本の長年にわたる貢献は特筆すべきものです。

私たちNepal Center for Philanthropy and Developmentの活動

ネパールは差し迫った開発課題や人道支援の課題に直面しており、こうした状況下で、意味のある変化を推進するためには国内の強力な非営利組織が不可欠です。この状況を受けて、私たちは2018年にNepal Center for Philanthropy and Development(ネパール・フィランソロピー開発センター:NCPD)を設立しました。NCPDは、非営利組織の信頼性と影響力を高めることで、これらの組織を強化することを目指しています。

NCPDは主に二つのアプローチで活動しています。まず、根拠に基づいた政策提言や調査研究を推進し、多様なステークホルダーとの連携を深めることで、慈善活動(フィランソロピー)や市民社会が活動しやすい環境を整備しています。その上で、特に女性、若者、ダリット、LGBTQI+の人々、その他社会的に弱い立場にある人々が率いる中小規模の非営利組織に対し、組織運営の持続可能性を高めるための研修やアドバイザリーサービス、キャパシティビルディングプログラム、ネットワーク構築の機会などを提供し、直接的な支援を行っています。

ネパール南部タライ地方にあるNCPDのワークショップで活動する女性グループ

さらに、NCPDは民間企業やNPO、個人の寄付者と積極的に連携し、寄付や思いやり、ボランティア精神が根付く文化を促進しています。若者を活動の中心に据えることで、ネパールにおけるレジリエント(回復力)のある、包摂的で、協調的な開発エコシステムの構築に貢献しています。

SDGs(持続可能な開発目標)の進捗と関係者の役割に関する、NCPDのワークショップ

日本とネパールの友好関係

1956年の国交樹立以来、日本とネパールは相互尊重と文化交流を基盤に、強固な友好関係を築いてきました。日本は長年にわたりネパールの主要な援助国の一つで、国際協力機構(JICA)を中心に、無償資金協力、技術協力、円借款などを通じてネパールの発展を支えています。

また、グッドネーバーズ・ジャパンやチャイルド・ファンド・ジャパンといった日本のNGOも、教育、保健、子どもの保護、災害後の救援活動などに大きく貢献しています。

ネパール政府が発行した『Development Cooperation Report 2021/22(開発協力レポート 2021/22)』によると、日本はネパールに対し、経済改革のために8,800万米ドル、飲料水事業のために2,200万米ドル、合わせて1億1,000万米ドル(約160億円)の無償資金協力を約束しました。日本の支援は、ネパールのインフラ整備に貢献しており、具体的には以下のような主要プロジェクトがあります。

  • カトマンズと東タライ平野を結ぶシンドゥリ道路
  • ネパール初の道路トンネルであるナグドゥンガ・トンネル
  • 2015年の地震で被害を受けた文化遺産の修復

日本はまた、2015年の地震や新型コロナウイルス感染症のパンデミックの際にも、重要な人道支援を行いました。現在も、気候変動への適応策、安全な水、交通インフラ、技術開発といった分野に投資を続けており、多くの日本人ボランティアが現地で草の根レベルの活動に参加しています。

今後の協力の機会

ネパールが、すべての人々を包摂し、気候変動に強い国づくりを進める上で、日本と協力する機会は多くあります。例えば、以下のような分野で連携を深めていくことが可能です。

  • 災害リスクの軽減と気候変動への適応: 早期警報システムの導入や、自然の力を活用した解決策を通じて、コミュニティやインフラのレジリエンス(回復力)を高めることにつながります。
  • 水、衛生、保健: 安全な水の確保、メンタルヘルスサービスの普及、地方における保健インフラへのアクセス改善が課題となっています。
  • 若者の育成とスキル開発: 職業訓練、起業家精神の醸成、デジタルリテラシーに関する支援を通して、ネパールの次世代を育てていくことができます。
  • イノベーションと技術を活用した開発: 持続可能なインフラ、再生可能エネルギー、農業システムなど、日本の専門知識や技術を応用することが期待されます。
  • 市民社会のキャパシティビルディング(能力強化): 研修や技術支援、政策に関する対話を通じて、市民社会組織(CSO)がより強固な基盤を築くためのサポートを提供します。

日本とネパールが協力し、持続可能で人を中心とした解決策を共に生み出すことで、南アジアと東アジアの協力だけでなく、世界の連帯のモデルを築くことができるでしょう。

脊髄損傷の若者を支援するNCPDのボランティア