NPOによる事業評価は、事業の改善を図るために行う場合もありますし、支援者に対して成果を報告するために行う場合もあります。評価を行う目的によって情報収集の範囲や必要な分析の方法は異なりますが、組織が掲げる“社会課題の解決”というミッションに対してどこまで成果を出せているかを評価し事業の改善を図ること、あるいは成果を支援者に伝えて次の支援につなげることは、組織の基盤強化につながります。
なぜなら組織基盤強化の目的は、自らが設定したミッションに向け、社会的な成果をあげられる組織になることであり、そのために財政の安定性や組織の持続性を高めることにあるからです。 ちなみに、組織基盤強化のための取り組みには、ミッションの明確化や共有化、中長期的な目標の設定や戦略の立案、財源の開拓、人材育成など、様々な方法があります。事業評価もその一つであるといえるでしょう。
ミッションに対してどこまで成果を出しているかを評価するといっても、NPOのミッションは多くの場合、「誰もが生きやすい社会を作る」というような、漠然としたものです。究極の目的を掲げ理想を語ることはNPOであるがゆえに大切なことですが、それだけだと、日常の事業との間のギャップが大きすぎて途方に暮れたり、目の前の事業をこなすのに必死でミッションを忘れがちになったりということが起きます。何のための活動なのかわからなくなりますし、到達点を確認できないので無力感に襲われたりもします。支援者の共感もつなぎとめられなくなるかもしれません。
そうやって組織基盤が脆弱になってしまう前に、ミッションと事業の間をつなぐ、具体的な目標を設定することが必要です。例えば、
「この地域の保育園と学校全てがアレルギー対応食を出すようになる(アレルギーを持つ子どもが疎外感を感じなくても済むようになる)」
「プログラムに参加した人の5割以上が過疎地域に移住・定住する」
など、組織として『これができたら成功と言える』という異体的な目標を設定することで、達成度を評価できるし、到達点を確認することができます。
目標が明確になることで、日々の事業のやり方が変わってくることもあるでしょう。目標の達成が難しそうだということになれば、その理由を分析して抜本的な変更をかけたりするかもしれません。たとえ目標の数値化が難しくても、単に事業の結果を把握するだけにとどまるべきではありません。
例えば、子どもの自己肯定感の向上を目的として学校の先生を対象とした研修事業を行ったとしましょう。参加者は何人で満足度はどうだった、というのは事業の「結果」であって、成果とはいえません。
研修を受けた先生たちが、どのくらい知識を深め、意識を変え、スキルを向上させ、その結果クラスの子どもたちにどのような変化が起こったか、ということまで確認して初めて、その研修事業の成果を把握することができます。そうすると、座学だけではなかなか実践に活かされないので研修にロールプレイを組み込んだ方がいいとか、中学生より小学生の方が効果がより高く現れるので小学校の先生を対象にした研修を増やそうなど、目的に沿った事業の改善や方向転換を図ることができます。それが団体にとってのノウハウの蓄積となり、独自性のある事業で成果をあげる組織となることにつながります。
実のところ、効果を確認したり比較したりするためのデータを集めるのは大変です。しかし、具体的な目標を設定し、その目標の到達度を測るための情報収集を普段から行いながら事業を実施し、その情報を元に評価を行い公表する。そして事業を改善し、また評価を行う。その繰り返しを習慣づけることで、徐々に成果をあげられる組織になっていくのだと思います。
(「知っておきたいNPOのこと 5 事業評価編」より転載)