ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に対する反対運動や、平和を呼びかける行動が、世界各地で続いている。日本でも、在日ウクライナ人やロシア人、両国に縁のある人や留学生、そして一般の人びとが街頭に繰り出し、即時の停戦、ウクライナの市民の保護、人道支援の拡充、平和的対話の継続などを訴えている。

一方、唯一の戦争被爆国かつ福島第一原子力発電所事故の当事者としての日本社会に大きな衝撃を与えたのが、ロシア軍によるチェルノブイリ原発の制圧、プーチン大統領による核抑止力行使の示唆、そして、欧州最大といわれるザポリージャ原子力発電所への攻撃である。加えて、日本の政治家やテレビコメンテーターらによる「アメリカとの核共有」を巡る浅薄な発言がその衝撃に拍車をかけている。

ソーシャルメディアが発達した現代では、ロシアによるウクライナへの戦争準備や攻撃の様子が刻一刻と伝えられ、軍事や国際政治の研究者による分析やコメントが即座に紹介されている。日本のメディアも現地に記者を派遣して日々報道し、海外メディアへのアクセスも容易になり、少し検索すれば最新の情報が入手できるとされる時代に、市民社会は何ができるのか。

本稿ではウクライナへの支援を始めた団体や市民社会組織による声明、海外の市民社会の動きなどをお伝えしたい。

世界の医療団と国境なき医師団の医療援助

世界の医療団(MDM)[1]は、2015年よりウクライナ東部のルハンスクとドネツクの境界線沿いに住む脆弱な状況にある人びとに人道支援と医療保健サービスを提供してきた。2月18日には、ウクライナ東部で活動を行う国際NGOによる現在の治安情勢に関する共同声明[2]を発表。民間人と民間インフラ(特に学校、病院、水道設備)を武力攻撃から保護し、影響を受けた人びとへの迅速かつ円滑な人道支援を提供すること、国際人道法の下での義務を遵守すること、紛争のすべての当事者に永続的な停戦に同意することなどを求めている。また、武力紛争に接してこころを痛めている人びとに対し、こころのケアに関する情報を発信[3]している。

国境なき医師団(MSF)[4]は、ウクライナ東部セベロドネツクでのHIVケア、北西部ジトーミルでの結核ケアのほか、東部ドネツクでの医療アクセス改善など紛争被害地で暮らす人びとに医療を提供し続けてきた。しかし、事態の急変を受けて医療援助を一時休止する決断をし、その後、首都キーフ(キエフ)と東部の病院に緊急医療物資の輸送を開始している[5]

ほかにも多くの団体が現地を支援

現地の市民に対し食料と水の配給、発電機の提供を開始したオペレーション・ブレッシング・ジャパン[6]、ウクライナ国内提携団体と医療物資支援を開始したピースウィンズ・ジャパン[7]、ウクライナ西部テルノピリ州のカトリック修道院への資金提供を通じて国内避難民への支援を行うAAR Japan(難民を助ける会)[8]。ADRA Japan[9]は越冬支援や安全な飲料水の提供、住宅や学校、病院などの復旧支援、心に傷を負った方の心理的サポート、隣国に難民として国外に逃れた人びとの支援を行っている。IVY[10]はスロバキアのパートナー団体と連携して保健・医療の支援、ファーストエイドおよび緊急時のメンタルヘルス・心理ケア支援を、ケア・インターナショナル・ジャパン[11]はウクライナで活動するパートナー団体と協力して食料、水、衛生キット、現金などの緊急物資の配布をしている。日本国際飢餓対策機構[12]は、ウクライナ国内や国境を接するポーランドの街で難民への食料と生活必需品、医薬品の配布する現地団体への支援を行っている。

子どもを中心に支援するのは、ルーマニアの現地パートナーと連携し、子どもや女性を含む最も弱い立場にある人びとを対象に食料、日用品、その他の保護活動を行うグッドネーバーズ・ジャパン[13]、食料や水の配布、現金の提供、子どものための安全な居場所の設置など命を守るための支援を行うセーブ・ザ・チルドレン・ジャパン[14]、現地協力パートナーを通じて食料や医薬品、生活必需品といった緊急支援物資の提供を行い、学校へ行けなくなり、戦争の恐怖にさいなまれている子どもたちの心のケアに取り組むチャイルド・ファンド・ジャパン[15]、子どもや若者、特に女の子や女性たちを保護する環境の整備​、避難民や保護者たちに対する心のケアと、心のケアにあたる専門家の能力強化に取り組むプラン・インターナショナル・ジャパン、ウクライナからルーマニアに逃れた難民への支援活動や子どもたちへの心理的応急処置と難民への基本的な支援物資の提供を行うワールド・ビジョン・ジャパン[16]など。

ピースボート災害支援センター[17]はルーマニアのパートナー団体と連携し、ルーマニアに逃れてきた市民の受け入れ調整、国境付近の避難場所への物資提供や情報提供を行う。ウクライナ、スロバキア、ハンガリー、ポーランド、モルドバ、ルーマニアなどにおいて食料、生活物資、仮設住居、水衛生、医療、こころのケアに、ジャパン・プラットフォーム[18]が取り組んでいる。

それぞれの団体で活動資金となる寄付も受け付けている。

声を上げるNGO

声明を発表して世論に訴えかけ、平和を守る文化を構築していくことも市民社会の重要な役割である。

ロシアによる軍事侵攻が伝えられた翌日の2月25日、SDGs市民社会ネットワーク[19]は主催イベントの最後に「武力紛争は、あらゆる命、人権、環境、社会、経済にとって最大の脅威です。SDGsを逆行させ、達成を不可能にします。」と短く声明を発表した。

2月26日には、アジアで活動する2団体、シャプラニール=市民による海外協力の会[20]とシャンティ国際ボランティア会[21]が事務局長声明を発表した。「攻撃を受け苦難に直面しているウクライナの人々、そして戦争を止めようと立ち上がったロシアの人々への連帯の意思」を示し(シャプラニール)、「水や衛生設備、保健施設、学校など、子どもたちにとって必要不可欠かつ重要なインフラへの攻撃を行わないよう強く求め」ている(シャンティ)。

武力行使に反対し、武力によらない平和的な解決を呼びかけるWE21ジャパン[22]、日本でクラスウクライナやロシア出身の人たちに不当な非難や暴力がおよぶことにないよう呼びかける地球市民の会[23]、そして、ピースボートは、紛争予防と平和構築に取り組むNGOのネットワーク「武力紛争予防のためのグローバル・パートナーシップ」(GPPAC)の声明[24]やノーベル平和賞受賞者のドミトリー・ムラトフ氏(ロシアのタブロイド新聞「ノーヴァヤ・ガゼータ」編集長)と核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)によるロシアの核使用に関する声明[25]を紹介し、団体自身も、ロシアによるウクライナ侵攻を国連憲章に反する行為として強く非難する声明を発表[26]している。

2月28日には、市民社会による自由な活動空間を守り広げていくためのネットワーク組織「市民社会スペースNGOアクションネットワーク(NANCiS)」[27]が声明を発表。「ウクライナ領内に侵入したロシア軍が、ウクライナの一般市民、市民活動家、ジャーナリスト、政治家等の自由と安全を図り、情報統制や検閲を行わず、表現・言論の自由、集会・結社の自由、政治的発言や権利の行使を擁護するよう」強く求めている。

3月1日には関西地域のネットワークNGOである関西NGO協議会[28]が、ワン・ワールド・フェスティバルにかかわる高校生やユースとともに、武力による問題の解決には強く反対し、対話による解決を望む緊急声明を発表した。

3月2日には、JANICと他団体有志によって「理不尽な暴力の連鎖をとめるために、国家を超えた市民の声を。」を合言葉に、ウクライナ・ロシア戦争に際して同じ時代、同じ世界を共に生きる市民としての表明を行い、呼びかけるウェブサイト「世界にあなたの声を #voiceforpeace」[29]が開設された。

国境を越え連帯

国際的にも市民社会は多くの人びととともに声を上げており、ここでは筆者が関わるいくつかの動きを紹介する。

まず、国連に対する非国家アクター(NGO)の連合体である「NGOメジャー・グループ(NGO Major Group)」による声明が2月25日に発表された。平和なくして発展はないこと、人権と国際法の尊重なくして平和はあり得ないこと、平和は国連の基盤であり、SDGsの5つの柱の1つであること、ウクライナ市民そして世界中の戦争や紛争の影響を受けているすべての人びとと連帯することを宣言している。

続いて、市民社会による国連への公式な参画機能である「アジア太平洋地域市民社会組織参画メカニズム(Asia Pacific Regional CSO Engagement Mechanism / AP-RCEM)」の北東アジアサブ地域の市民社会による声明が、2月28日に発表された。サブ地域における各国のSDGs進捗状況をモニタリングし、市民社会の視点から提言をしてきたグループであり、日本、韓国、中国、モンゴル、そしてロシアの市民社会組織が参加している。

ロシアによるウクライナへの軍事攻撃を直ちに停止することを願い、戦争を止めるために最善を尽くすことを宣言している。このグループにロシアから参加している市民社会組織が「ロシア持続可能な開発コアリション(Coalition for Sustainable Development of Russia / CSDR)」[30]である。CSDRは、2020年にロシア政府が発表したSDGs進捗報告書(VNR)に対する政策提言を実施しており、市民社会による独自の報告書[31]も発表している。

これに関連し、EUとロシアの市民社会組織が参加する「EU-ロシア市民社会フォーラム」が2月24日に発表した理事会声明「ウクライナとの連帯および欧州の平和を求める(Solidarity with Ukraine and Call for Peace in Europe)」[32]も紹介したい。ウクライナの人びとに連帯を表明し、ロシア国内における市民社会への弾圧問題についても指摘している。

他の動きとして、「民主主義共同体(Community of Democracies / CoD)」[33]が挙げられる。元米国国務長官マデリン・オルブライトとポーランド外相ブロニスワフ・ゲレメクのイニシアチブとして始まり、2000年、106カ国の代表が「民主主義共同体をめざすワルシャワ宣言」に署名して設立され、日本政府も参加している多国間機関である。ワルシャワ宣言に示された民主主義の価値を守り、さまざまな取り組みを通じて支援することを誓っている。CoDには市民社会組織によるグループや「YouthLeads」[34]と呼ばれる若者グループも設置されており、3月2日にはYouthLeadsによる声明[35]が発表され、国際法、国家の主権と領土の完全性、人権の尊重に基づく対話を通じて、紛争の迅速かつ平和的な解決を求めている。

C20への期待

さらに注目すべきなのが、ロシアも参加するG20サミットである。今年(2022年)のG20サミットはインドネシアが議長国となり、10月末にバリで首脳会合が予定されている。

2014年のクリミア危機をきっかけに、G8のうち7カ国がロシア・ソチで開催予定だったサミットのボイコットを表明し、ロシアの参加資格を停止(suspend)。それ以降の先進国首脳会合はG7として開催されるようになった。今年のG20サミットにおいて、ロシアを除く18か国とEUがどのような対応を取るのであろうか。

G20に対して、市民社会の立場から政策提言を行う「C20(Civil 20)」[36]である。

C20のキックオフ会議[37]が3月7日・8日にオンラインで開催され、C20インドネシアの議長を務める「インドネシア開発国際NGOフォーラム(International NGO Forum on Indonesian Development / INFID)」[38]のスゲン・バハギジョ氏は、スピーチの冒頭、ウクライナとロシアの人びとのために祈り、即時の停戦と平和がもたらされることを求める黙祷を呼びかけた。

C20では7つのワーキンググループごとに政策提言をまとめ、G20議長であるインドネシアのジョコ・ウィドド大統領に手渡すことを予定している。ワーキンググループでは、ワクチンアクセスと国際保健、ジェンダー平等、税制と持続可能な財政、環境・気候正義などと並び、「SDGsと人道(SDGs & Humanitarian)」[39]もテーマとなっている。市民社会組織がG20サミットにどのような提言をしていくのかも注目したい。

2023年G7サミット日本開催に向けて

同様に、G7サミットに対する市民社会からの政策提言を行う「C7(Civil 7)」[40]においても、議長国であるドイツの市民社会が中心となり、「人道支援と紛争(Humanitarian Assistance and Conflict)」ワーキンググループや、「開かれた社会(Open Societies)」ワーキンググループが設置され[41]、平和的集会に対する暴力の停止、情報へのアクセスの保障、ジェンダー平等の推進などに関する提言を作成中である。日本政府は2023年にG7の議長国を務めるため、ドイツおよび世界の市民社会と連携して働きかけを予定している。3月16日(水)にはJANICとSDGs市民社会ネットワークが呼びかけ、日本の市民社会組織に対する説明会を開催した[42]。世界の市民社会と連帯する機会として、ぜひ多くの方にご参加いただきたい。


[1] https://www.mdm.or.jp/project/23646/

[2] https://www.mdm.or.jp/news/23501/

[3] https://www.mdm.or.jp/news/23536/

[4] https://www.msf.or.jp/news/special/ukraine-crisis/index.html

[5] https://www.msf.or.jp/news/detail/headline/ukr20220302nt.html

[6] https://objapan.org/reports-world/ukraine20220225/

[7] https://peace-winds.org/support/ukraine

[8] https://lp.aarjapan.gr.jp/ukraine/

[9] https://www.adrajpn.org/Emergency/Ukrine2022.html?top

[10] https://ivyivy.org/activity-news/11092/

[11] https://www.careintjp.org/news/ukraine_apeal.html

[12] https://www.jifh.org/news/2022/03/post-670.html

[13] https://www.gnjp.org/donate/oneoff/emergency/ver3.2/index_2022ukraine.html

[14] https://www.savechildren.or.jp/lp/ukrainecrisis/

[15] https://www.childfund.or.jp/blog/220301ukraine

[16] https://www.worldvision.jp/donate/ukraine.html

[17] https://pbv.or.jp/donate/2022_ukraine

[18] https://www.japanplatform.org/contents/ukraine2022/

[19] https://www.sdgs-japan.net/single-post/20220225ukraine_appeal

[20] https://www.shaplaneer.org/blog/secretary-general/220226_yobikake/

[21] https://sva.or.jp/news/statement220226/

[22] http://www.we21japan.org/we21/2022/03/we21-25.html

[23] http://www.terrapeople.or.jp/main/2649.html

[24] https://peaceboat.org/40556.html

[25] https://peaceboat.org/40640.html

[26] https://peaceboat.org/40563.html

[27] https://nancis.org/2022/02/28/statement-against-russian-invation/

[28] http://kansaingo.net/kncnews/message/20220301.html

[29] https://voiceforpeace.world/

[30] http://kurs2030.ru/en

[31] http://kurs2030.ru/en/report2020

[32] https://eu-russia-csf.org/solidarity-with-ukraine-and-call-for-peace-in-europe/

[33] https://community-democracies.org/

[34] https://community-democracies.org/the-community-of-democracies-welcomes-new-additions-to-the-codyouthleads-team/

[35] https://community-democracies.org/codyouthleads-statement-on-the-war-against-ukraine/

[36] https://civil-20.org/

[37] https://www.youtube.com/watch?v=nrYlC0kWC0Q

[38] https://www.infid.org/

[39] https://civil-20.org/index.php/sustainable-development-goals-sdgs-humanitarian/

[40] https://civil7.org/

[41] https://civil7.org/working-groups/

[42] https://www.janic.org/blog/2022/03/10/0316_2023g7summit/

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