地域に根差した団体の顕著な役割

米国ロックフェラー財団が先ごろ公表した、2020年から2022年の3年間を対象にしたインパクトレポート(Confronting Crisis by Catalyzing Change, IMPACT REPORT JAN 2020 – DEC 2022)は、当該3年間におけるコロナ禍への緊急対応に多くの紙面を割いています。その中で同財団は、コロナ禍対応の総括(What we learned  P16)として、米国におけるワクチン接種の推進には、地域に密着し信頼を得ていた団体(Community Based Organizations, CBO)の役割が顕著であったこと、既存のデータは必ずしも十分ではなく、データありきの支援策ではなく現場のニーズに合わせた支援が重要であったことを指摘しています。行政の体制や地域社会からの行政への信頼が不十分で、さらにデータも万全ではない中での緊急対応には、現場の力が大変重要であったことを再認識したという意味ではないかと思います。

同財団はコロナ禍における対応に関し、シンクタンクであるランド研究所(RAND Corporation)に分析を依頼していて、The U.S. Equity-First Vaccination Initiative Impacts and Lessons Learned(米国における平等を旨としたワクチン接種推進活動。そのインパクトと教訓)として報告書が公表されています。

我が国の非営利団体の活動への示唆

この報告書は、人種間で罹患率や死亡率、さらにワクチン接種率に大きな格差が生じた米国における地域に密着した団体の活動を検証したもので、一見、日本の非営利セクターに直接的に参考になるものではないようにも思えます。しかし、未曽有の事態への緊急的な対応において、地域に密着した団体が大きな力を発揮したこと、そして彼らの活動を手助けするために援助側がどのように対応したか、さらに、政策立案者に対する将来への提言等の内容は、緊急的な対応が不可欠である災害が多発する日本において、地域に根付いた非営利団体の力を最大限活用する観点で、示唆に富む点があることから、その概略をご紹介します。

平等を旨としたワクチン接種推進活動

ランド研究所が分析したのは、ロックフェラー財団が、2021年4月から米国において人種間のコロナワクチン接種の格差是正と長期的な米国公衆衛生体制の改善を目的として開始したプログラム、Equity-First Vaccination Initiative(EVI 平等を旨としたワクチン接種推進活動)です。ワクチン接種推進に関しては、ボルチモア、シカゴ、ヒューストン、ニューアークおよびオークランドの5都市をテストケースとし、それぞれ中核団体を選定、これらが合計で90を超える地域CBOを束ねて活動しました。

現場重視の団体選定とサポート体制

ここで、特徴的なのは、資金提供者のロックフェラー財団は地域CBOの選定に関与せずに、地域の実情により詳しい中核団体に選ばせたことです。加えて、参加団体の活動内容は様々であり、医療健康等が活動内容として定款にある団体は3分の1に過ぎませんでした。選定にあたっては、地域ニーズの把握や地域社会からの信頼に重きが置かれていたようです。定款外の活動に制限があるなど異なる事情はありますが、日本においても、緊急時における迅速かつ効果的な支援策を考える際に、今後参考になる点ではないかと思います。

さらに、これらの中核団体および参加した地域CBOに対する研修の実施、地域に伝えるべき情報の提供、さらに行政に問題を提起する等の各種団体・組織を配置しています。現場に対するこのような重層的なサポート体制は大いに学ぶ点があるように思われます。

日本と共通する反省点も

もっとも、関係者が多いことによる課題も反省点として指摘されており、流動的である事態に迅速に対応するための障害になることや、小規模団体をどのようにサポートするか等の課題は、日本においても経験する事象であると思われます。また、ロックフェラー財団や研修提供者が現場に負荷をかけすぎることがあったという反省や、過酷な事態に対応している現場への十分な配慮が欠かせないことは、現場にやり方を押し付けないことと現場のニーズに合った支援を行うことの重要性に関する指摘と合わせ、日本でも当てはまる事柄であると思われます。

成果と提言

EVIの結果、地域CBOは、2022年4月の時点で、接種機会の提供(4,539回)、接種への手助け(153,277件)、ワクチン接種(64,317回)、情報提供(14,554,885回)を行う成果を上げています。地域に根付いた団体だからこそ地域のニーズに合った対応が機敏にできた成果であろうと思います。

一方、EVIは長期的な米国の公衆衛生体制の改善も目的にしています。この点に関し報告書は、EVIの成果を受け、米国における公衆衛生の担い手の概念を広げ、地域に根差したCBOをその一翼とすることを提言しています。さらに、CBOに対し十分で一貫しており、さらに柔軟性のある資金を提供し、かつCBOの体制整備のために、公衆衛生に関する充分な情報を事前に彼らに提供することの必要性を指摘しています。

日本の災害対応への課題との共通点

我が国においては、日本NPOセンターも参加する、3.11から未来の災害復興制度を提案する会が、先ごろ、災害復興に関し、個人の尊厳の保持を災害対策の目的とし、福祉を災害救助法に位置づけ、災害対応のマルチセクター化および平時からの人材育成を盛り込んだ関係諸法令の改正を提案しています。公衆衛生、災害復興と分野は異なるものの、既存の政策および法的概念を広げて非営利セクターを重要な担い手として位置づけ、事前に体制整備を図るべきという点では、共通する認識があるように思います。

地域に密着した団体への継続的な支援が必要

報告書は、CBOを、ただワクチン接種体制の穴を埋めるだけの存在とすべきではないと強調しています。中核団体やCBOはサポートがこれから持続して受けられるかを懸念しているとも記しています。日本の非営利団体にも当てはまることだと思います。特に日本は自然災害に見舞われことが多いことから、今後も災害時に頼ることになる地域に根差した団体の活動の意義と継続的な支援の必要性についての認識を私たちが社会に広げ続けることが重要であると思います。


本寄稿文におけるロックフェラー財団およびランド研究所が公表しているレポートの要約および解釈は、すべて筆者たちが両者と関係なく独自に行ったものです。また、筆者たちの判断でこれらのレポートから特定の箇所を選んで議論を行っていますが、これらのレポートを正確に理解するためには全体を読むべきであることにご留意ください。 また意見については、筆者たちが所属する日本NPOセンターのものではなく、筆者たちの個人的な意見であることにご留意ください。

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