Centre for Asian Philanthropy and Society(CAPS)は香港を拠点とする調査・アドバイザリー機関で、アジアのソーシャルセクターに関する詳細な比較調査であるDoing Good Indexを隔年で発表している。2020年以降、CAPSは日本NPOセンターと協力しているが、2024年版では、アジアのソーシャルセクターに対するデジタル技術の影響に関しても調査している。全体傾向の結果(https://npocross.net/3072/)とは別に、デジタル技術に関する状況についても紹介したい。

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日本は世界的に科学技術の先端を走る国として知られている。しかし、最新のDoing Good Index 2024によると、日本のソーシャルセクターはテクノロジー(技術)の導入と利用における格差によって後れを取っている。

テクノロジーは、ビジネス、社会、コミュニケーション、そして日常生活のありとあらゆる側面に変化をもたらしているが、ソーシャルセクターもこの変化と無縁ではない。ここ数十年、日本中のNPOは、重要な活動を行うために新しいテクノロジーのツールを導入してきた。最近では、新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)が、デジタルな働き方へのシフトを加速させ、対面会議に代わってビデオ会議に、印刷物に代わって仮想ドキュメントが導入され、場合によっては、ビジネスモデル全体がサービス提供のデジタル化に軸足を移している。

しかし、すべての組織がこのデジタル化の移行に成功しているわけではない。セクターあるいは世界全体が、技術優先のアプローチで物事を成し遂げようとする方向に急速に進む中で、多くの組織が取り残されつつある。

NPOのデジタル化の状況

デジタル化の重要な基準とされるインターネットへのアクセスは、日本のNPOにとって比較的容易である一方(調査対象団体の86%が十分なインターネット接続環境があると回答)、職員がパソコンやタブレット端末などのデジタル機器を十分に利用できると回答したのは59%にとどまった。これはアジア平均(69%)を下回っている。さらに、日本のNPOの99%が基本的なソフトウェア(Microsoft Officeなど)を使用していると回答しているが、顧客管理、会計、プロジェクト管理ツールなどの業務用ソフトウェアを使用しているNPOは70%と少ない。また、写真やビデオの編集、データの分析に使用するツールなど、高度なソフトウェアを使用しているNPOはさらに少ない(37%)。

もちろん、NPOがデジタルツールを使う必要がなければ、このようなことは問題にならない。しかし、日本のNPOの54%が過去2年間に組織のデジタルテクノロジーの利用を増やし、57%が日常業務にテクノロジーを取り入れることが増えたと答え、50%が他の組織とのコラボレーションのためにオンライン・プラットフォームを利用する傾向が強くなっているのだ。

パンデミックの影響もあり、オンラインイベントの開催も増加傾向にあり、58%のNPOがこの2年間で オンライン実施を増やしたと回答している。また同期間中に、51%のNPOが自分たちの活動を宣伝・普及させるためにソーシャルメディアの利用を増やしたことが明らかになった。

サイバーセキュリティへの課題

NPOにとってのもう一つの課題は、サイバーセキュリティである。日本では、サイバーセキュリティ計画を策定している団体はわずか4分の1(25%)で、アジア平均(30%)よりも低い。つまり、組織の4分の3がデジタルの脅威から無防備であるか、安全策を職員に周知していないことになる。これは組織だけでなく、組織がサービスを提供する地域社会をも危険にさらすことになる。NPOには、受益者、寄付者、職員のデータを保護する責任があり、サイバーセキュリティへの投資は、そのための重要なステップである。

より好ましい回答として、77%のNPOがデバイスを保護するためにアンチウイルスまたは同様のソフトウェアに投資していると答えており、これはアジアで最も高い割合である。しかし一方で、サイバーセキュリティや安全対策に関する職員研修に投資しているNPOはわずか15%に過ぎない。誰も効果的な利用方法を知らないのであれば、サイバーセキュリティのツールや対策は何の役に立つのだろうか。

NPOがデジタル能力を向上させるには

デジタルテクノロジーに関して、組織のトップ・ニーズは何かという質問に対しては、新しいハードウェア、ウェブサイトの改善、職員のトレーニングとスキルアップが上位に挙げられた。

何がNPOのデジタルテクノロジー導入を阻んでいるのだろうか?Doing Good Indexによると、NPOの70%がデジタル技術の導入を妨げている主な理由は、これらの技術を導入するための十分なスキルが職員にないことである。次いで、資金不足(67%)、利用可能なデジタルテクノロジーやツールに対する認識不足(47%)が続く。

すべてのステークホルダーには、NPOがデジタル技術を導入するのを支援する役割がある。政府は、助成金や物品・サービスの調達を通じて資金を直接提供し、NPOが自身の発展に投資するために必要な財源を提供することができる。個人の寄付者、慈善活動家、財団は、柔軟な資金提供や、NPOのキャパシティビルディング(能力開発)に使える寄付金を出すことで、NPOを支援することができる。一般的に寄付者は、寄付金が受益者を支援するプログラムに直接使われることを望むが、NPO自体への投資(寄付)は、団体がより効率的かつ効果的に地域社会のニーズに応えるための力を増幅させる効果がある。

民間セクターは、資金を提供するだけでなく、NPOのデジタル化を支援するために専門知識や技術支援を提供したり、物資が不足しているNPOにパソコンやタブレット端末などのハードウェアを寄贈したりすることができる。例えば、米国TechSoup Globalの一員でもある日本NPOセンターが運営するITプログラム「テックスープ・ジャパン」は、NPOにテクノロジー製品やサービスを無償または割引価格で提供している。米国の有名なIT企業のほか、日本企業やベンダーが名を連ねている。同様に、日本NPOセンターが昨年度立ち上げた「NPTechイニシアティブ」は、オンラインセミナーを通じてNPO職員のITスキル向上を支援し、NPOがテクノロジーをより効率的に活用できるようにするIT企業と連携した取り組みで、現在NTTデータグループ、デル・テクノロジーズ、伊藤忠テクノソリューションズ、インテル、TISなどの企業がこのプログラムに参画しており、各回の講師などを務めている。

最後に、NPOはデジタル化への道のりにおいて、お互いにどのようにサポートし合えるかに目を向ける必要がある。ベストプラクティスや共通課題を共有し、協力して解決策を見出すことで、ソーシャルセクター全体が21世紀にサービスを提供するためのより良い体制を整えることができると言えよう。

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