8月9日、英国政府が「市民社会ストラテジー」を発表した(1)。「すべての人の未来をつくる」と副題がつけられた120ページの文書は、政府全体としていかに市民社会を育てていくかを示す戦略文書になっている。5章からなり、それぞれ、次のカギカッコ内のタイトルがついている。

第1章「人々」:日本でいう市民。社会参加の構成員としての一人一人。特に若者に焦点があてられている。
第2章「場所」:日本でいう地域社会。近隣や人々のつながり。
第3章「ソーシャル・セクター」:日本でも最近はこの用語が使われるようになってきましたね。NPO(イギリス英語ではチャリティ)とソーシャル・ビジネス(イギリス英語ではソーシャル・エンタープライズ)を含む。
第4章「民間セクター」:企業セクターの役割
第5章「公的セクター」:政府・自治体の役割

これらの社会の構成員をつなげるキーワードが社会的価値(ソーシャル・バリュー)。社会的価値によってこれらが連携することで、社会全体として市民社会が育てられていく、とされている。

よって、この文書における市民社会の定義は、次のようになっている。

「市民社会とは、政府の関与から独立し、社会的価値を生み出す目的で行動する個人や団体のことを指す。社会的価値とは、すべての人にとっての充足した生活と公正な社会のことである。」(p.12)
「このストラテジーでは、市民社会を組織の様態でなく、当該行為がなんの目的で、誰の決定によってなされるかによって定義している」(p.26)

つまり、すべての人にとっての充足した生活と公正な社会を目指してセクター間の協働を加速させることによって育てられるのが市民社会だというのだ(下の図参照)。


日本では、セクター間協働や連携については多くが語られているが、それで作られるのが市民社会という言い方はあまり聞かない。NPO法成立から20年経った今でも、社会の構成組織を政府、民間営利、民間非営利の3つのセクターに分けて、民間非営利セクターを市民セクターと同値と位置づける考え方が主流ではないだろうか。また、市民社会という用語は、その使われ方のいろんな経緯もあり、政策文書やNPOの提言文書でひんぱんに使われる用語にはなっていない。

このストラテジーが発表されてから約10日、英国のNPOセクターの反応は概ね好意的だ(2)。政府の関与から独立し、社会的価値を生み出す目的で行動する個人や団体の総体が市民社会。そこには、NPOや民間非営利組織に籍を置く人、ソーシャルビジネス、企業人、行政関係者、 特定の組織に所属しないで技能や知見を提供するフリーランスの人、地域活動に積極的な個人、等、すべての人にとっての充足した生活と公正な社会を目指して活動するあらゆる人々の活動が包含される。この定義を活用して、NPO法20周年の今日、日本でも市民社会の将来像をあらゆる人々と語り合う機会を作ることには意味があるのではないだろうか。

(1) https://www.gov.uk/government/publications/civil-society-strategy-building-a-future-that-works-for-everyone

(2) 例えば、英国のNPOの基盤組織であるNCVO(The National Council for Voluntary Organizations)は、8/16までの1週間で、このストラテジーに論評を加えるブログを7本アップしている。
https://www.ncvo.org.uk/