NPOセクターに今後大きな影響を与えるであろう「民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律」が、2018年1月1日に全面施行されました。日本の市民活動へ助成している上位20団体の助成総額が約500億円、それに対して休眠預金で活用可能な金額は700億円ともいわれています。
2018年内に一つの指定活用団体が決定され、2019年に指定活用団体が複数の資金分配団体を選定した後に、2020年には3分野(子ども及び若者、日常生活又は社会生活を営む上での困難を有する者、地域社会における活力の低下その他の社会的に困難な状況に直面している地域)の民間公益活動で、休眠預金の資金が活用されます。
【休眠預金の2つの問題点】
休眠預金には、2つの大きな問題があると考えています。1つは、基本方針案へのパブリックコメントを完全に無視し、休眠預金等活用審議会(審議会)での議論が全く不十分であるなど、極めて不透明で非民主的なプロセスで内容が決定されたことです。
審議会は、当初「多様な意見の適切な反映」「透明性の確保」との発言から始まりましたが、残念ながら全く逆のかたちで議論を進めています。「ソーシャル・セクター」が活用する資金を、「民主主義」や「社会的公正性」を否定したプロセスで決定した事実は、決して見過ごしてはいけないと考えています。
もう1つはプロセスにも関係しますが、基本方針が目的を明確にしないまま、不十分かつ不適切な内容で、恣意的にある方向へ向けているように見えることです。基本方針案の問題点については、日本各地のNPOに関わる有志で作成したパブリックコメントで指摘をしましたが、前述の通り内閣府は一字一句、内容を変えることはありませんでした。
ここで問題点の説明をするスペースはありませんが、以下のような状況が予測されます。
「たった一つの、まだ存在しない指定管理に丸投げされた社会課題」に沿って、「成果と革新」という方向性のもとで選考された団体の活動が、「社会的インパクト評価/ロジックモデル」という限定的な基軸によって評価され、「伴走支援」によって拡大される。
「社会実験」という名目で巨額の資金をこの流れに投入することで「これまで大切にしてきた価値観や、形成してきた蓄積」が破壊されてしまうのではないか、という危惧を感じるNPO関係者の方も多いのではないでしょうか。
【なぜ、こうなってしまうのだろうか】
休眠預金の活用がこれほどの危機感を感じさせる理由の一つは、先ほどの流れが「ソーシャル・セクターを革新的に変えていく」、「ソーシャル・セクターを代表する」という、ある意味でピントの外れた強い意思の下にあるからではないかと思っています。
人によって評価は違うでしょうが、私は「社会的インパクト評価」や「ロジックモデル」自体は悪いものではないと思います。それはただの技術であり、適切な目的で適切な対象に活用すれば有益になり得ます。また社会性と団体目的を広く見据えたクオリティの高い伴走支援は、もちろん有益です。
問題は一つ一つの部分にあるわけではなく、その組み合わせと、それが対応しようとするフィールドの適切性にあるのではないでしょうか。
例えばソーシャル・ビジネスは、経済的に脆弱で継続に課題のあることが多かったNPOの可能性を広げる有益な手段として、近年のNPOセクターを牽引してきました。一つの可能性を現実に落とし込み一般化してきたソーシャル・ビジネスは、良い成果を日本社会に提供しました。
しかしソーシャル・ビジネスが対応しているのは、それに適した「ソーシャル」であり、それは「ソーシャル・セクター」とイコールではありません。
例えが適切かどうか分かりませんが、これまで日本社会に於いてソーシャルのデリケートな部分を含めて対応してきた「民生委員」に似た活動を、テーマ型でシステマティックに行っているNPOも様々な分野で生まれています。
また、地域社会の中で課題の当事者自身が個人課題解決のため、社会解決のために設立したNPOも多様に存在します。
このように「ソーシャル・セクター」は休眠預金で議論してきたフィールドより広く、基本方針で指摘している「ソーシャル」の範囲は極めて限定的です。
【今後の動きと、これから考えたいこと】
今後どのような考えと能力を持った指定活用団体が応募し、選考されるのかによって、これからの日本社会のありようも大きく変ると考えられます。そのため年内限定で、パブリックコメントを作成した有志を中心に、社会的な提言活動を行っています。
休眠預金の課題は、資金配分とその活用だけではありません。休眠預金をきっかけにして、NPOに関わる私たち自身が「市民社会」と「ソーシャル・セクター」の現在と今後の捉えなおしをすることが、とても大切な時期に来たのではないかと感じています。
*この問題に関心のある方は、下記フォーラムの模様をご覧下さい。
http://www.jnpoc.ne.jp/?p=15922
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