<取材・執筆>上甲 結奈  <取材先>まつやま子ども食堂(そらいろのたね店) 代表 野中 玲子さん

あなたは、子ども食堂という存在を知っているだろうか? 子ども食堂とは、子どもや親を中心に無料または低価格な食事提供などで生活や成長を支援する食堂である。

代表の野中玲子さん

愛媛県松山市で活動する「まつやま子ども食堂」もその一つだ。2016年の活動開始以来、運営財源は全てカンパ、訪れる人々の9割がシングルマザーとその子どもたちというこちらの子ども食堂を3人のボランティアスタッフたちと支えるのは、代表の野中玲子さん。

取材に伺った「そらいろのたね」は、野中さんが経営するカフェだ。通常は、ここで月2回、松山市清水町の清水ふれあいセンターで月1回、子ども食堂を実施している。

野中さんご自身もシングルマザーということもあり、子どもたちの支援だけでなく、シングルマザーたちの苦難にも寄り添い続けている。

コロナウイルスが人々の生活に影響を与え続ける現在も、野中さんとまつやま子ども食堂の活動は絶えることはない。どんなに困難な状況下であっても継続的に活動を行う野中さんに、今回お話を伺った。

コロナウイルスの影響を受けて

感染拡大防止のために、全国的に多くの学校が一斉休校へと追い込まれた2020年3月。

愛媛県内の学校もその影響を受けたことで、野中さんのもとにシングルマザーをはじめとした母親たちからの悲痛な叫びが届いた。

「休校になっても、子どもを残して親は働きに行かねばならない。仕事を休むわけにはいかない」

それを聞いた野中さんは、経営するカフェ「そらいろのたね」で、休校中の平日は毎日子どもを受け入れることを決意する。月2回の活動からの急展開ではあるものの、母親たちの苦しい心境が野中さんに大きな決断をさせた。

決意の理由はそれだけではない。「コロナ陽性者の増加は、慎重さに欠ける大人の行動が大きな原因。それによって様々なことが規制されてしまうのも全て大人たちの都合。しかし、その影響を大きく受けるのは立場の弱い子どもたちばかり。そんな風潮に私は反抗したいと思っている。運営を中止せずにいるのは、そういった意味もある。コロナだからこそ、覚悟を持って運営を続けなくては」。そんな野中さんの強い信念があったからこそ、休校中の子ども受け入れが実現したのである。

もちろん、この決断をするにあたって、運営の際はコロナウイルスへの対策にも気を配り、一時期は新たな利用者はお断りという期間を設けるなどの策も講じた。また、コロナ感染に過敏になりすぎて子どもたちを攻撃する恐れのある「コロナ警察」の存在を危惧した結果、野中さんは今まで以上にFacebookにおける広報に力を入れたという。

「子どもたちになにか被害が及ぶことは自分にとって一番の恐怖。そのため、そらいろのたねは、ちゃんと感染対策をしたうえで開けているということをこまめにアピールしていた」と話す。

このように、様々な工夫をしながら運営を続ける野中さん。そんな野中さんを後押ししたのは、コロナ禍にもかかわらず続々と現れる支援の手だった。

「2020年のカンパ額が過去最高金額の350万円に到達していた。これは2019年のカンパ額の6倍以上にもなる。主に高齢の方々が寄付に協力してくださって、国民に対し一律給付された10万円をそのまま寄付された方や、夫婦2人分の給付金である20万円を寄付された方もいらっしゃった。また、ネットからの寄付が可能な「CANPAN決済サービス」からも寄付金が集まり、面識のない方々からも支援の手が届いた。運営をカンパによって行っているまつやま子ども食堂としては、大変ありがたい限りだった」と話す。

物資支援もコロナ前と変わらず多くの食料や飲料などが届き、「食べきれないお餅をもらってほしい」「コロナウイルスの影響で売れなかったジュースを貰ってほしい」など、様々な理由を持った食品がそらいろのたねへと届いた。子ども食堂活動の一環として、それらの配付も行っている。

シングルマザーたち・子どもたちの居場所に

前述の通り、来店する9割がシングルマザーとその子どもたちであるまつやま子ども食堂。当事者である野中さんは、日ごろから母親たちの苦労を感じているという。

「2020年3月ごろの一斉休校の間、シングルマザーたちは大変な思いをしていた。しかし、彼女たちはそれ以前から苦しい思いをしてきている。その思いをお互いに共有していくことで、そらいろのたねはシングルマザーたちの居場所にもなっている。そして、共有するだけでなくその苦しみや不満を施策に反映させてもらうために代弁する活動も行っている」と話す。

「シングルマザー交流会松山」というシングルマザー支援団体でも15年近く活動されている野中さん。近年だと、児童扶養手当の給付を4カ月ごとから2カ月ごとに短縮する改正を国に求め、実現されている。全国の支援団体と共に活動し働きかけることで、ひとり親家庭へのさまざまな施策の改正につながっている。精力的な活動は、多くのシングルマザーたちの希望にもなっているだろう。

子どもたちにとっても、「食べる」だけの場所ではない。通常の学校生活では会うことのない高校生・大学生ボランティアたちとの交流を通し、自分にできることを増やしたり、新しい発見ができたりする場でもある。例えば、仲良くなった学生ボランティアの影響で今まで苦手だった食べ物を克服できたという子がいる。はたまた、大学生ボランティアの影響で大学への興味を持てた子もいる。

シングルマザーにとって、子どもたちにとって、そして「支援したい」人や地域にとって、そらいろのたねはかけがえのない場所なのだ。

今回の取材を通して、コロナ禍におけるシングルマザーたちの胸の内、子どもたちの窮屈な現状を知ることができた。また、そらいろのたねが親子たちの居場所になっているだけでなく、子どもたちの成長を促したり、可能性を広げたりする重要な役割を担っていることが分かった。まつやま子ども食堂ではないものの、他の子ども食堂にて大学生ボランティアを行っている筆者としては大変勉強になる取材となった。今後、筆者自身がボランティア活動を行う際には、今回の貴重な経験を活かしていきたいと思う。

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