<取材・執筆>大沼 育夢 <取材先>特定非営利活動法人ならサポートワークラボ 理事長 小島 秀一さん
「働くことがゴールではない。障害のある人や生きづらさを感じる人が働き続けられる手助けをしたいんです」。そう語るのは就労移行支援などの障害福祉サービスを提供する特定非営利活動法人ならサポートワークラボ(以下、ワークラボ)理事長の小島秀一さん。小島さんは約40年障害者雇用・就労支援に携わってきた。
筆者は、新卒で就職してから体調を崩し適応障害になり、改善後も気分の浮き沈みが激しい双極性障害や2度目の適応障害を起こした。その後、ITスキルを動画学習で学ぶ就労移行支援事業所に半年間通所し、昨年「特例子会社」(主に大手企業が国の定める障害者の法定雇用率を満たすために設立する子会社)に就職。「定着支援」サービスを受け現在も事業所の支援者とは密に連絡をとり、日々の体調コントロールの手助けをしていただいている。
「支援者の方々が日々どのようなことを考え、事業所の利用者と関わっているのか」と「今後の障害者就労についての考え」を、他の事業所の方にも聞いてみたいと思い、今回の取材をさせていただいた。
就労移行支援事業とワークラボの支援
就労移行支援事業は、障害を抱えた方の一般就労のために必要な知識・スキルの獲得や就職などのサポートを行う事業である。ワークラボは「自立訓練(生活訓練)」「就労移行支援事業」「就労定着支援」の3つのサービスなどを提供しているが、中心に位置づけているのは就労移行支援事業だ。
生活訓練は、就労移行支援の2年という期限での就労が見込みにくい場合に利用してもらうことが多い。例えば、引きこもりの方の支援を行う場合、初めは週1、2回程度の生活訓練から始めて、体調が落ち着いて就職に向けた準備ができる状態になったら就労移行支援に移ることがある。まずは「家から出ること」を目標に定めて、できないことはやらずに、できることから少しずつチャレンジしてもらうそうだ。
就労移行支援事業では「就職に向けた訓練、体験」や「求職活動の支援・マッチング」を提供する。工賃(いわゆる給料)が発生する事業所もあるが、ワークラボの訓練・職業体験は工賃発生にこだわらず、働き続けるための力をつけるため内部のプログラムで準備をして、自分に合う仕事を十分考えてもらってから外での体験につなげるようにしている。
就職後半年間フォローアップして、それでも継続的に相談や支援が必要な方には、安定して就労ができるように就労定着支援を利用してもらう。それ以外の方も「何かあればいつでも相談に来てください」と伝えて、関わり続けられるようにしている。
このように、生活面のことから就職開始、安定就労まで、必要な限り一貫して利用者に寄り添う。ワークラボは、事業所を増やす予定はなく、スタッフの入れ替えも少ない。卒業して時間がたってから来てくれた時に、知っているスタッフがいる状態を作りたいからだ。「利用期間が終わっても、いつでも帰ってこられる場所でありたい」というこだわりがあるのだ。
運営する上で大事にしていること
小島さんは就労移行支援を「働き続ける準備をする場所」と考えている。
「働く準備ができてから就職」し、「就職してから安定して就労」できるように努めている。根本にはやはり「自分はしっかり働いている、仕事をできている」と、やりがいを持って仕事をしてほしいという思いがある。2019年10月からの3年間に就職に至ったのは30人で、職場での6カ月定着率は100%だ。だが、職場環境や本人の体調から必要と思ったら、離職を勧めることもいとわない。あくまでも本人を優先する考えだ。
今後は、研修や勉強会などで企業の方に障害者の就労について知っていただく機会を増やすことにも力を入れていき、障害者雇用が義務だからというのではなく、企業にとってもプラスになり、本人も働いて生活していけるwin-winの関係を構築できるように環境調整をしていきたいとのこと。また、高校卒業後に就職に失敗して引きこもってしまう人も多いので、教育委員会を通して学校に働きかけ、引きこもってしまう前に学校から就労支援につなぐ流れを作れないか、関心のある先生と意見交換会を予定しているそうだ。
感想
「生きづらさを感じている人が長く働き続けられるようにするためには、どうしたらよいのか」を考えて、利用者に寄り添い、伴走していくことを徹底されているなと感じました。利用者側へのアプローチだけではなく、企業や学校とも連携を取り、多方面から「障害者の安定就労」に力を注いでいる方でした。私自身、就労移行支援事業所から現在でも支援を受けていることから、ワークラボの「障害のある方がいつでも帰ってこられるような場所にする」という考えには、小島さんの温かさを感じました。支援者の方がここまで利用者のことを考えてくださることは障害者の方々にとってはとても心強く、「ここまで寄り添ってくれる方は他にいないのではないか」と強く思いました。この記事が生きづらさを感じている人の一助になれたら嬉しいです。