<取材・執筆>木下 祐一  <講演会>しょうりゅうのつどい「虐待をうけた当事者のきもち」

2023年2月23日(木・祝)、佐賀県小城市にあるゆめぷらっと小城にて「虐待をうけた当事者のきもち」という講演会が開催された。この講演会の主な語り手は、「しょうりゅうのつどい」という虐待当事者の自助グループの代表、りゅうふみえ氏。講演会は、小城市市民活動センターおぎぽーとセンター長である圓城寺真理子氏との対談形式で行われた。

講演会に参加して、りゅう氏の経験談を中心に、虐待を受けたことによる影響、団体の立ち上げの経緯や活動について、そして当事者に対して何ができるかといった話を伺うことができた。この記事では、虐待についてまず知っていただき、身近な問題として考えて虐待防止につなげていただきたいという思いで、「虐待の当事者について知ること」「当事者に対してできるサポート」という2つの面から書いていきたいと思う。

講演会「虐待をうけた当事者のきもち」の様子

虐待を受けた当事者の困難

りゅう氏は幼少の頃から主に父親から身体的、心理的な虐待を受け続けていた。そして、身体的、心理的な痛みを日常的に感じながらも、学校へ行き、受験、就職、そして社会人として働く現在と、様々なことを乗り越えて生きてきた。虐待の内容や当時の心情について、私も聞いていて本当に心が痛くなる内容だった。

経験談の中で特に印象的だったのは、虐待を受けた期間を過ぎ、成人した後もその経験が影響してしまうことだ。過去の経験が原因で人に対する不信感や恐怖心なども生まれ、人とコミュニケーションがうまく取れない等、対人関係で影響が出てしまうことがあったり、過呼吸や自律神経失調症など体調を崩すといった身体的な影響もあったりしたとのこと。いくら過去のことであっても、解消されないままの痛みや問題を抱えながら社会生活を送ることで様々な影響が出てしまう。人は虐待の経験ではなくとも、それぞれ何かしら抱えて生きているとは思うが、虐待の経験の影響は非常に大きく、当事者自ら対処していくには大変困難なことであるとも感じられた。

自助グループを立ち上げ、人と出会う    

りゅう氏は過呼吸発作を繰り返すなど万全とはいえない状態の中で仕事を続けていくが、ある時、このままでは仕事も任せられないと、勤務先の社長から解雇、もしくは長期の休職をするように言われた。そして、その時期に出会ったある1冊の本がきっかけで、「自助グループ」の存在を知る。当時は、佐賀県内に虐待を受けた当事者の自助グループはなく、ある人の勧めで自ら立ち上げることになった。

対談者の圓城寺氏いわく、立ち上げ当時のりゅう氏は会話もできない程の状態だった。その状況をどのように乗り越え、現在に至るのかという話の中で、「大人になってから出会った人との関わりが心のケアになる」「人との出会いの中で傷つけられることもあれば、癒されることも助けられることもある。子どもの時代に経験できなかったことを、今この時にできるということもある」と言われた。    

りゅう氏は、子どもの頃に親との関係性が形成できていないことによる愛着障害も抱えていたとのことだが、立ち上げのきっかけをくれた人や圓城寺氏、同席されていた「かちPICA」代表宮田慶彦氏(主に活動のサポートをしてくれている)も含め、様々な人と出会うことによって、心が満たされ、愛着障害の解消や現在の安心や生きることの幸せにつながり、だんだんと人のことも信じられるようになったという。そして、今では張りのある声で人前での講演も行えるようになった。

当事者ではない人に何ができるか

私も含め当事者ではない人にできるサポートとして、主に2つ挙げられていた。1つ目は、虐待を受けている可能性がある子どもに対しては、SOSに気づいてあげることだ。子どもは無意識にSOSを出しているとのことで、まずは目を見てほしいという。例えば、何か嫌なことや隠したいことがあれば、人の目を見ない。そうした気になる子どもを見かける機会があれば、気にかけて、何か声をかけてみることもいいのではとのことだ。そして、何より大事なことは、気づくことがあれば、行政や学校、警察などへ自分がつなぎ、人に知らせるという意識を持つことである。ニュースで報道されているような虐待の事件でも、すでに知っていた人や目撃していた人もいるはずで、そこで関わり合いを避けてしまうと、最終的に子どもの命が失われることにもつながりかねないのだ。

そして、2つ目は「しょうりゅうのつどい」のような、当事者の話を聞き、自分の話ができる場所があると、知ってもらうことだ。りゅう氏は、様々な人との出会いの中で成長し変化することができたが、実際はりゅう氏のような出会いもなく、引きこもりになっている人や、ましてや虐待を受けていた(受けている)と認識できていない当事者も多く存在しているそうだ。りゅう氏自身も成人してから虐待を受けていたと分かったといい、まずはそれに気づいてほしいという。そして、気づいた時に相談や話ができる場として、「しょうりゅうのつどい」といった自助グループの存在は大切になってくる。

活動の中での課題として、りゅう氏は「まず団体の存在を知ってもらうことが難しい」と言われていた。今はリーフレットの配布やSNS、ラジオなどでの告知等で周知活動をしているが、引きこもりの人にまで声が届くように、もっと発信をしていきたいとのことだ。そうした人が利用する可能性がある行政の相談窓口に団体を知ってもらい、そこからつなげてもらうことも検討している。集いの場に参加するかは本人の自由だが、そういった場所が身近にあると知るだけでも、当事者の心の支えになるとのことだった。そして、こうした情報や話を周囲の人に知らせたりつなげたりすることは、私たちにできることでもある。

感想

今回、講演会に参加し、「しょうりゅうのつどい」は定期的に行う集いの場や講演会のみならず、学校での講演、ラジオ出演やテレビ取材など活動の幅を広げつつ、団体としても大きくなっている最中だということが感じられた。りゅう氏は、これまでの活動を通して、当事者に対するサポートはもちろん、虐待を受けていたことに当事者が気づくきっかけを与えてきた。反対に、「自分も虐待をしているのでは」と加害者性を意識する機会になったと声をいただくこともあったという。そして、将来先生を目指す教育関係の学校の生徒の前で講演をするなど、子どもの身近な存在である「教える側」に虐待について知ってもらうことで、虐待防止や当事者支援に様々な貢献をしてきた。りゅう氏は壮絶な虐待を経験した上で、「生き残っている私は発信をするしかない」との思いで活動を続けているという。今後の活動の目標としては、「しょうりゅうのつどいの名前をもっと広げていきたい」とも言われていた。前述したように、引きこもりの人にも声を届けたい、「しょうりゅうのつどい」のような会の存在を知ってもらい心の支えにしてもらいたいということだ。

「虐待はあってはいけないこと」というのは、私たち共通の認識であると考えたいのだが、実際のところ虐待のニュースはいまだに目にする機会も多く、そう簡単になくなるものではないとも思う。厚生労働省の発表では、児童相談所の相談対応件数は年々増加し、令和3年度では過去最多の件数だという(注)。ましてや、虐待による死亡事例までが、いまだに数多く起きているという現実を、改めて認識する必要がある。りゅう氏の「命は宝」という言葉にもあるように、未来のある子どもたちのかけがえのない命が虐待で奪われることは、本当にあってはならないことである。

虐待防止と当事者へのサポートのために、まず、見かけた際には警察や学校、行政などに知らせて、つなげること。そして、「しょうりゅうのつどい」やそういった自助グループ、支援団体などの存在を、引きこもりの人やまだ存在を知らない当事者にも届くように広めることが、まず私たちが身近にできることではないだろうか。そして、当事者は私たちの身近にいるかもしれないということを忘れずに、もし自分に何かできることがあればサポートができるように、りゅう氏の話をしっかりと心に留めておきたい。

(注)厚生労働省「令和3年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数」(速報値)よりhttps://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000987725.pdf

1件のコメント

  1. 取材と掲載いただきありがとうございます。虐待は過去であっても、今も苦しんでおられる当事者の方がたくさんいらっしゃいます。こうして講演内容を掲載していただくことも、当事者への理解を広める大きな力になると思います。この度はありがとうございました。    

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