変化する米国の寄付動向と日本への影響
世界的に寄付者(ドナー)の関心や優先事項が変化してきており、この動きは日本のNPOやNGOなどの非営利団体にも影響を及ぼす可能性があります。特に米国では、その変化が顕著です。個人、企業、財団といった主体が、寄付を含めた慈善活動(フィランソロピー)にどのような方法で取り組むかについて、社会や政治の動きが影響を与えているためです。本稿執筆時点では、現米国政権が発足してまだ1年未満ですが、すでに日本にも関連する可能性のある変化が見え始めています。
私たち Give2Asiaの役割と変わらぬコミットメント
私が代表を務める米国のGive2AsiaおよびMyriad Allianceのネットワーク全体を通じた私たちの活動目的は、常に一貫しています。それは、国境を越えた寄付をサポートし、日本、アジア、そしてその他の地域の民間の寄付者とNPOパートナーとの信頼関係を深めることです。私たちは、プログラムの規模を縮小していませんし、活動する地域やテーマの重点を変更してもいません。さらに重要な点として、米国が、このような大切な慈善活動の関係を妨害する意図を持っているという情報は全く入っていません。

公的援助の減少に伴う主要財団の対応
しかしながら、私たちは寄付者の意向で運営される組織であるため、資金提供者(ファンド)の優先順位の変化には敏感であり、その変化は私たちの助成活動にも影響を与えています。特に大きな動きとして挙げられるのは、米国連邦政府が国際開発への公的資金を大幅に削減する決定をしたことです。これは、国際開発庁(USAID)の閉鎖という形で最も明確に示されています。これを受け、ゲイツ財団やフォード財団といったアメリカの主要な財団は、資金戦略の見直しに着手しました。これらの対応は、連邦政府の支援喪失によって影響を受ける海外パートナーを支援しつつ、同時に自らのプログラムのリスクを軽減することを目的とした、一種のトリアージ(支援先の選別や優先順位の再設定)のようなものです。
こうした状況下で、民間の資金提供者の方々との対話から、いくつかの注目すべき傾向が明らかになってきました。
資金提供の優先順位に見られる変化
- まず、DEI(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン:多様性、公平性、包摂性)への資金提供が優先事項ではなくなりつつある点が挙げられます。これは非常に大きな変化の一つです。2025年以前は、多くの財団や企業が、国内のDEIへの助成を海外にも広げようとしていました。ところが、現米国政権が政府のDEIに関する取り組みを縮小(ロールバック)したため、民間の組織に対しても、これらの活動から手を引く可能性があるというメッセージになりました。この流れは、女性やジェンダーに特化したプログラムにも影響を及ぼすかもしれません。一部の寄付者は、ジェンダーを優先する資金提供を前面に出すことに、以前より慎重になっています。
- 次に、気候変動と公衆衛生問題が、政治的に敏感なテーマになったという傾向があります。これらの問題は現政権から好意的な扱いを受けていませんが、民間の資金はしっかり確保されています。例えば、今年9月にニューヨークで開催された国連の「気候週間」には、熱意のある国際的な資金提供者が多く集まりました。USAIDの資金提供がなくなったため、連邦政府がこれらの分野の民間の慈善活動に及ぼす影響は小さくなるかもしれません。しかし、ヨーロッパやアジアの各国政府は、引き続き世界の気候変動や公衆衛生に関する目標(アジェンダ)を推し進めており、熱意ある米国の資金提供者たちは、海外のパートナーと協力して、この流れを止めないようにしています。
税制優遇措置の変更
- 最後に、包括的な税制改革法案である『ビッグ・ビューティフル・ビル』*による税制優遇措置の変更です。2025年半ばに成立したこの税制改革によって、寄付金控除の仕組みが変わりました。その結果、短期的には寄付の意欲が冷え込むかもしれません。具体的には、企業が寄付を控除できるのは、課税所得の1%を超えた金額のみとなりました。また、個人の寄付者については、項目別控除の上限が37%から35%に下がったことに加え、5%の新たな最低基準が設けられました。つまり、控除を受けられるのは、調整後の総所得の0.5%を上回る寄付をした場合のみ、ということになります。
*訳者注:正式名称は、One Big Beautiful Bill Act。この法案は、主にトランプ政権によって推進された、個人所得税減税の恒久化などの大型税制改正に加え、歳出削減や債務上限引き上げなど、広範囲な政策を含む包括的な予算調整措置法案。
その他の分野の不確実性
一方で、現時点では状況がはっきりとしない分野も存在します。例えば、私たちGive2Asiaは、普段から政府と関わる交流事業を主催していないため、そうした活動に対する民間の寄付がどのような状況にあるのかについて、詳しい情報を持ち合わせていません。同様に、海外の大学へのディープテック(先端技術)に関する研究資金の現状についても、まだよくわかっていません。
今のところ、これ以上の変化が起こるかどうかは推測の域を出ない状況です。米国から海外へ送られる国境を越えた寄付に対して、大きな障害となるような正式な協議は行われていません。
しかしながら、日本が関わるフィランソロピー(慈善的)な協力関係においては、こうした流れが寄付者それぞれの考えに基づく変化につながるかもしれません。具体的には、DEIに関する活動から距離を置く動きや、気候変動・公衆衛生の取り組みに対してより慎重になる傾向が見られる可能性があります。また、一部の資金提供者は、USAIDの資金がなくなったことで深刻な打撃を受けている途上国を支援するため、日本へのサポートを他地域へ振り分けることもあり得ます。
今後の見通し
これまで、企業が日本に行う寄付は、教育(特にSTEMや職業スキルの研修)や、社員がボランティアなどで積極的に関わる従業員エンゲージメントが中心でした。今のところ、これらの分野については、米国の政策が変わったことによる影響は見られていません。
新しい政権の政策が長期的にどう影響を及ぼすかは、引き続き不透明な状況です。楽観的な意見の中には、連邦税の減税によって、いずれ寄付が増える可能性があるという見方もあります。しかし、現時点では、米国の民間の資金提供者が、使命とする活動を揺るぎなく継続していくという強い決意を示しています。