香港の抗議活動を伝えるためアムネスティ・インターナショナル香港支部の譚萬基(タム・マンケイ)事務局長が来日した。12月3日の講演でタム氏が現地視点から伝えたことは、日本で見聞きするニュースとは異なる印象を与えてくれた。

警察の過剰な武力に対して、力で対抗しようとする若者たちというイメージが強かったが、香港の抗議活動は平和的な行動と強い信念があり、市民の心と行動を動かすクリエイティビティがあった。政府に対しての要求も不満を突き付けるのではなく、香港の未来を良くしようという志の下、希望を感じさせてくれるものであった。

この6カ月の運動の解説は他メディアでも報じられている。ここでは、これだけ長期間にわたり多くの若者らが参加する抗議活動の魅力を伝えたい。

参考:朝日新聞の講演取材記事

巧みなスローガンで意志を共有――「水になれ」

香港の抗議活動では、巧みにスローガンを使っている。「デモ隊の戦術は『Be Water(水になれ)』です」とタム氏。これはブルース・リーの名言であり、順応性、柔軟性を持てということだ。

主催者がいて決まった場所で始まるデモではなく、香港では柔軟に様々な場所でデモが起こる。「あらゆるSNSを駆使して、オンラインでコミュニケーションをとりながら、抗議活動をしています」。 

「水になれ」という名言を合言葉としたことで、多くの人の共通認識を作ることができたのだろう。

加油(頑張れ)、反抗(抵抗)、復仇(復讐)

「香港人、加油(頑張れ)」。6月のデモでは、このスローガンを叫んでいた。タム氏は「フェーズごとにスローガンが変わっていった」と説明する。

逃亡犯条例改正案に対する反対運動として始まった当初は「頑張れ」がメッセージだった。その後改正案は撤回されたが、行政長官選の普通選挙や警察の暴力に対する独立調査委員会の設置など、市民が掲げる「五大要求」が受け入れられないまま、警察のデモ隊に対する弾圧は強まっていく。ついに10月、政府が覆面禁止令を出したことで、スローガンが「香港人、反抗(抵抗)」に変わった。「平和的な抵抗が不可能になった。分かれ目の日です」。

そして11月、デモ参加者が亡くなる事態が起きた。一人は22歳の大学生だった。警察が放った催涙弾を避けようとしての転落死だった。
「彼の死を境にスローガンが『香港人、復仇(復讐)』に変わりました」。

頑張れから、抵抗、復讐へ。警察の行き過ぎた武力行使に対する香港の人たちの主張、怒りがスローガンを通じて伝わってくる。

多くの人が、別々の場所で行うデモであっても、同じスローガンを叫ぶ。短い言葉でメッセージを共有できているからこそ、多くの人の主体的な参加を促すことができているのだろう。

共感を呼び対話を生むクリエイティビティ

100万人が集う活動だが、リーダーを作らないことも特徴の一つだ。参加者には、平和的なスタイルと、力で抵抗するスタイルの人たちがいる。それぞれが対立することなく、違いを認め合い共存している。かつての運動では対立することもあったというが、タム氏は「クリエイティビティによって、お互いの違いを認め合うことができています」と話した。

先述したスローガンも一つのクリエイティビティといえるだろう。違う考えがあったとしても、大きな視点では同じスローガンで思いを共有できる。

香港の町のあちこちで見られる「レノン・ウォール」も抗議活動で広がったクリエイティビティだ。トンネルや地下鉄内で、赤や黄などカラフルな付箋を壁一面に貼り、市民のメッセージを集める。80年代にジョンレノンの死を偲んでメッセージを集めたことからレノン・ウォールと呼ばれている。

レノン・ウォールには、スタイルの違う参加者も、活動に参加しない人も、足を止め、壁を眺め、メッセージを貼る。「レノン・ウォールの前に人々が集まることで、対話も生まれています」とタム氏はいう。

アムネスティでもデザイン性の高いポスターを作り、レノン・ウォールに貼っているという。魅力的なクリエイティビティによって、デモに参加しない多くの人の共感も集めることができる。

11月の区議会選挙では親中派を民主派が逆転した。2016年は親中派が過半数だったが、民主派が85%の議席をとったのだ。抗議活動が参加をしていない人の共感を得ていることが証明されたといえるだろう。

自分たちで変えられるという強い信念、未来への可能性

アムネスティは香港政府に対して、「警察の暴力の調査、独立機関の設置」を求めている。表現の自由を尊重し、抗議の声を封殺するために過剰で強権的な手段を取らないよう、繰り返し求めていくという姿勢だ。

タム氏への会場からの質問で「政府に求めても変わらない。外部からの圧力が必要では?」といった声があった。だが、タム氏は香港政府が自ら行うべきだと伝えた。

「香港政府が国内法に従い、適正な調査を行なうことは可能です。政府自らきちんと対応を取ることが、市民との関係を修復し、政府への信頼も取り戻せます」

キャリー・ラム行政長官が選挙の結果、民意を無視しているように見えるという質問もあった。「この選挙で、香港市民が投票で結果を出せることを学びました。平和的に行動して、物事を変えていくことができるのです」。

行政長官もこのまま武力で押さえつけるのか、別の方法を取るのか分からないが可能性はあると、タム氏は笑顔で平和的な解決ができる希望を示してくれた。

ニュースを見る度に警察の行き過ぎた武力に必死で抵抗するも報われない悲観的な様子を感じてしまう。だが、タム氏の話を聞き、香港の人たちは自ら変えられるという強い信念を持っていることが分かった。希望があるからこそ、これだけ多くの人の心と行動を動かしているのだ。

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