旧統一教会による霊感商法や悪質な献金集めが問題になっていることを受けて、被害者救済のための新法が検討されています。この新法は寄附募集を規制することを想定しているため、NPOの活動にも影響を及ぼしかねません。霊感商法等による被害者救済は重要な課題であり、救済策の整備は急がれるべきですが、多方面に影響が考えられる寄附の規制については慎重に検討されるべきとして、複数の団体が意見表明をしています。(※1)

具体的にはどういう影響が考えられるかを、経緯とともに見ていきたいと思います。
この議論が非営利セクター全体の寄附募集に影響を及ぼすようになったきっかけの1つは、2022年10月17日に消費者庁より公開された「霊感商法等の悪質商法への対策検討会報告書」(※2)です。ここで公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下、公益認定法)の規定を参考に、寄附の要求等に関する一般的な禁止規範を検討するべき、という趣旨の提案がなされています。
関連する法案等としては、同10月17日に立憲民主党と日本維新の会は合同で「特定財産損害誘導行為による被害の防止及び救済等に関する法律案」(※3)を衆議院に提出しています。また、11月18日に政府が「被害者救済・再発防止のための寄附適正化の仕組み(概要)」(※4)を与野党に示しました。
この3つの文書が俎上に上がっていますが、現在は政府の「被害者救済・再発防止のための寄附適正化の仕組み(概要)」が最も注目すべき文書と言えます。

もともとは旧統一教会の被害者救済と再発防止のための議論であるため、NPO等の活動への影響があるかどうかは現時点では未知数です。しかし、「寄附の要求等に関する一般的な禁止規範」である以上、何らかの影響がある可能性は高いと考えられます。影響の有無をはかるポイントは、規制対象となる寄附募集の定義・範囲と規制内容です。

ぜひこれらの文書を直接確認いただければと思いますが、政府が示した概要について筆者なりの解釈と評価を示します。

まず、規制対象となる寄附募集の定義については、寄附の勧誘に関して禁止される一定の行為として、消費者契約法第4条第3項から6項目が列挙されています。これは公益認定法を基にするという消費者庁報告書よりは明確になっていますが、立憲民主党・日本維新の会案で定義されている「特定財産損害誘導行為」と比べると幅がある規程だと考えます。ここで列挙された6項目は、通常の寄附募集活動であれば抵触しないだろうと思われる内容です。しかし、具体的にどのような行為がこれにあたるのかは消費者契約法における解釈や運用などを確認し、誤解なく把握しておく必要があるでしょう。

次に、規制内容について、「6勧告等の措置」として「特別に必要があるときは、法人に対し、寄附募集に関する業務の状況に関し、報告を求めることができる」となっています。この「特別に必要なとき」とは、どのようなケースがあたるのかが記載されていません。これを理由にした報告徴収が安易に行われるようになると、寄附募集活動を委縮させることになりかねません。先述の「寄附の勧誘に関して禁止される一定の行為」が疑われる場合に限定されるのか、より広く対象となるのかによって影響が大きく変わるポイントです。

3点目は、刑事罰の内容です。被害者救済と再発防止のための法律なので、刑事罰は避けられないだろうと思いますが、どのような条件で、どのような刑罰になるのかは未定です。

4点目は、その他にある「法人が寄附の勧誘をする際には、寄附された財産の使途について誤認されないようにする等の配慮をしなければならないこととする。」という記載です。今回の概要では、これが最も問題になると思われます。
「誤認されないようにする等の配慮」が何を指すのかは、非常に幅がある表現です。緊急で募集する寄附では使途を大まかにしか示せないことも考えられます。これについては、寄附を募集するあらゆる主体に影響がある表現ですので、注視すべきポイントです。

私たちとしては、今後明らかになっていくであろう法案など引き続き議論を注視しつつ、過度な規制がなされないよう、必要に応じて声を上げていく必要があります。

一方で、まっとうな寄附募集を自ら示し、社会からの理解を深めることも重要です。
消費者庁の担当者は、この新法を「不当な勧誘の防止」と「寄附者の保護」が目的であると説明しています。すべてのNPOの寄附募集はなんら、まったく、問題ない、といいきることはできません。しかし、「不当な寄附勧誘」とは何か、「消費者」とは異なる要素もある「寄附者」は何がどこまで法的に保護されるべきなのかについては、広く議論を深める必要があります。
そのための自主規範を設ける動きもあります。自分たち自身の行動の中で、NPOの活動や寄附募集に対する信頼を高めていくことは変わらず求められていくことだろうと思います。


※1
・寄附募集に関する禁止規範の法制化議論についての意見(2022年11月11日)
 特定非営利活動法人 日本NPOセンター
 https://www.jnpoc.ne.jp/?p=26801
・全ての寄付を一律に規制するような新法制定の議論について(2022年11月11日)
 特定非営利活動法人 日本ファンドレイジング協会
 https://jfra.jp/news/43755
・寄付規制法案に対する緊急声明(2022年11月13日)
 特定非営利活動法人 新公益連盟
 https://www.shinkoren.or.jp/news/2160/
・「寄付規制法案」に対する緊急声明(2022年11月14日)
 特定非営利活動法人国際協力NGOセンター(JANIC)
 https://www.janic.org/blog/2022/11/14/statement_kifukiseihoan/
・「寄付規制法案(仮称)」等の慎重な議論を求める声明(2022年11月16日)
 弁護士有志 代表 弁護士 鬼澤秀昌
 https://note.com/hidemasaonizawa/n/na3378d1518
・また、国際協力NGOセンター(JANIC)、新公益連盟、セイエン、日本NPOセンター、日本ファンドレイジング協会の5団体が共同で「寄付一律規制」に反対し、法案の慎重な議論を求めるための署名キャンペーンを行っています。
https://www.change.org/stop_kifu_ichiritsu_kisei

※2
・「霊感商法等の悪質商法への対策検討会報告書」(2022年10月17日)
 霊感商法等の悪質商法への対策検討会
 https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/meeting_materials/review_meeting_007/

※3
・「特定財産損害誘導行為による被害の防止及び救済等に関する法律案」
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g21005004.htm

※4
・「被害者救済・再発防止のための寄附適正化の仕組み(概要)」(2022年11月18日)
https://npocross.net/wp-content/uploads/2022/11/3a7a55f95e33803504dce322b8c9d923.pdf