<取材・執筆>安岡 和由 <取材先>NPO法人フォロ 理事・事務局長 中嶋 千賀さん

1.はじめに──フリースクールにかかる費用

筆者は大学生で、フリースクールでインターンシップ活動をしたことがある。それをきっかけに、フリースクールを利用する家庭の金銭的負担に関心を抱いた。そこで、日本のフリースクールに通うために必要な費用を調べたところ、授業料は平均で月に約3万3千円、入会金は平均で約5万3千円かかる[1]ことがわかった。

中嶋千賀さん

この額だと、家計には大きな負担となるだろう。最近は、コロナ禍の影響で収入が減少している家庭も多い。経済的理由で、フリースクールが子どもの選択肢から除かれてしまう恐れがあるのではないか。

本記事では、不登校の子どものためになるような助成のあり方について考える。参考事例として、独自の助成制度を設けているNPO法人フォロの取組みを紹介する。フォロの理事・事務局長である中嶋千賀さんにお話を伺った。

2. NPO法人フォロとは

フォロは2001年に大阪で設立された。不登校の子どもたちが否定されず、自分たちで学び方、育ち方、生き方を考えることができる場づくりを目指す。「フリースクール・フォロ」の運営を軸とし、相談事業や居場所づくりも行っている。フリースクールを利用する子どもは通年の実人数で約20人だ(2022年3月時点)。

フリースクール・フォロの様子

3.フォロ独自の制度とその限界

フォロに通う場合、週4日であれば月に3万3800円、月4日であれば月に1万8400円必要になる。見学は1回まで無料で、その後、体験入会をする場合は4回まで5000円だ。フォロの企画や学習支援、親の相談窓口のみ利用したい場合は、親子会員として月に1万円必要になる。(全て税込)

フォロは、利用者の会費負担を軽減させるため、独自の制度として「フリースクール通学支援基金」を設けている[2]。また、入会金3万円もコロナ禍の状況をふまえて、当面無料になっている。これらの取組みの経緯や状況について、中嶋さんに説明していただいた[3]

(1)フリースクール通学支援基金

フリースクール通学支援基金は、寄付を集めて基金を運営し、それを使って会費を減額するという制度だ。2017年10月から配分を開始した。対象は、非課税家庭や、全世帯年収の中央値の半分の額を下回る家庭、きょうだいでフォロの会員になっている家庭等である。
基金による配分額は半年ごとに決められており、最近は、週4日通う場合で一家庭当たり月5000円減額されている。大口寄付があれば繰り越すなどでやりくりしているが、基金の運営の安定化は大きな課題だという。
フォロは法人向けの寄付と通学支援基金向けの寄付を分けて、それぞれを募っている。そのため、一方に寄付が集まれば他方の寄付が少なくなりやすく、その兼ね合いも難しい。

基金設置の検討を始める前から、スタッフ全体の共通認識として、家庭の金銭負担に関する問題意識があった。
「フリースクールは、経済的な余裕がある家庭しか利用しにくいのではないかと思います。経済的にしんどい家庭もつながれる場を確保できるように、フリースクール通学支援基金を設置することになりました」

しかし、中嶋さんは、経済的な理由でつながれない家庭はまだたくさんあるはずだと述べる。その一方で、一組織でできることには限りがある。
「フォロは、学校が苦しい子どもたちの居場所をつくるという活動をしています。それに加えて貧困問題に取り組むことになると、別の知識やスキルが必要です。対応能力の見極めを含めて、フォロとしてどこまでできるのか考えなければいけません」

(2)入会金無料

フォロは2021年4月から入会金を無料にした。コロナ禍で収入が減少した家庭も多いことを考慮した見直しだ。無料にしてからは、問い合わせ件数や入会数が例年より増加している。

入会金を無料にしたとしても、それをきっかけに会員数が増加し、それぞれ継続すれば、長期的に見れば運営を維持できる。しかし、子どもや家庭の状況の変化によって会員数は増減し、現状ではフリースクールの運営基盤が安定したとはいえない。

入会金無料の期間は定めていない。今後、運営の状況により入会金を復活させる可能性もある。
「入会金を復活させる場合は、何のために入会金が必要なのか、どのように使っていくのかという、入会金の意味をフォロ内で考えなおしたうえで金額を設定します。そして、その意味について各家庭にきちんと説明しようと思います」

(3)公的な助成の必要性

金銭面がネックとなりつながれない家庭を減らしたくても、一つの民間団体が独自で運営する助成制度には、やはり運営面で大きな限界があるとわかった。やはり、国や自治体等による助成制度が必要だろう。続いては、公的な助成のあり方を考える。

4.大阪市塾代助成事業から考える助成のあり方

大阪市塾代助成事業は、塾代・習い事代にかかる費用を助成するものであり、2013年12月から大阪市全区で実施されている。交付対象は、大阪市内に居住する中学生を養育する家庭のうち、所得要件を満たすものだ。同事業の参画事業者の授業やレッスンを受ける際に、助成される。助成の上限額は月1万円である。
フォロは、参画事業者に登録されている。フォロの場合、親子会員の会費は月1万円のため、親子会員であれば実質無料になる場合もある。

(1)フリースクールも参画できる事業ではあるが

現在、参画事業者に登録されているフリースクールの数は、筆者が教室名等から判断して数えると34件ある。中嶋さんによると、市内のほとんどのフリースクールが登録されているらしく、「画期的なことだ」と評価した。

一方で、中嶋さんは、行政施策の方向性とあり方について、こう述べた。
「行政は、貧困世帯の学力の底上げと、それによる進路の幅の拡大を狙っていると思います。それでうまくいく子どももいると思いますが、当てはまらない子どももいるでしょう。フォロの場合、学力の話以前に、子どもの生き方を肯定することを大切にしています」
「学習の機会の保障」はもちろん必要だが、そのために学習の効果を学力(テストの点数など)で測り、学力向上のための取組みをするだけではなく、別の視点の取組みが必要な子どももいる、ということだ。
「参画事業者として登録されたことは、登録を拒否されるよりはずっといい。ただ根本的には、学校教育以外の学びの場や居場所づくりを主目的とした、行政と民間の連携が必要ではないでしょうか」

(2)フリースクールをどのように評価するか

フリースクール向けの公的な助成制度の必要性を語る中嶋さん。しかし、仮にそのような制度があったとしても、交付対象をどのように評価するべきかという問題がある。
「助成するためには交付対象を評価する必要があるけれど、その評価方法を考えるのは難しくて、ジレンマですね。『よくわからないけどいいこと』では交付できないけど、フリースクールから学校に戻る子どもの人数や、子どものテストの成績など、これまでの学校と変わらない指標ばかりになって評価されるのは違うと思います」 
新たな制度を考えるにあたっては、評価方法を検討することも重要だ。

5.おわりに

家庭の経済状況によって子どもの選択肢が奪われないために、助成制度は必要だ。しかし、本記事で見た通り、個々の民間団体で独自に助成を行うことには限界がある。また、公的な助成制度を設ける場合は、「何のために助成するのか」という制度の目的・背景を吟味して、運用方法を考えることが重要だと思った。民間団体と行政の連携を強化し、現場の声を汲み取ったうえで、子どもにとって最善の制度設計をすることが求められる。

最後に、中嶋さんはこう語った。
「フリースクールを利用する家庭について考えるとき、最終的には経済全体の仕組みや学校の制度などの問題に直面します。いちフリースクールとしてこれらすべてに対応するのは無理がある。多くの人が、既存の仕組みや制度といった社会の常識に目を向け、本当にこれでいいのかと疑問をもつことを大切にしてくれたらと思います」


[1] 文部科学省「小・中学校に通っていない義務教育段階の子供が通う民間の団体・施設に関する調査(https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tyousa/__icsFiles/afieldfile/2015/08/05/1360614_02.pdf

[2] フリースクール通学支援基金の検討をする際に、フォロは三重県のフリースクール「NPO法人フリースクール三重シューレ」が設けた独自の奨学金制度を参考にしたという。

[3] 他にも、フォロ独自の制度として「6ヶ月継続割引」がある。フォロへの参加継続を促すとともに、利用者の負担軽減にもなっている。

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