<取材・執筆>坂田 ともみ <取材先>NPO法人青い樹 理事長 前田 輝久さん

閑静な住宅街の中に「市営青木(おおぎ)南住宅集会所」の立て看板が見える。地域の繋がりが薄まっているご時世でもあり、近頃は集会所に足を運ぶ機会はあまり無いのではないだろうか。少し新鮮な気持ちで奥に繋がっていく通路を通った。集会所の建物に入ると温かい笑顔で迎えてくださったのは、NPO法人青い樹理事長・前田輝久さんだ。
毎週水曜日と土曜日の14〜17時に、子ども図書館や学習支援、イベントを行い、地域の子どもや親子、高齢者たちの居場所づくりに取り組んでいる。

地域の人たちの憩いの場を目指して

「先ほど、ちょうど芋掘りをしていたところだったんですよ」と前田さん。1年前に植えた苗が、ちょうど収穫時期になったため、地域の人たちを招いて芋掘りのイベントを行っていたという。
青い樹の設立は、前田さんの妻・泰美さんが民生委員仲間3人で言い出した。近所に図書館や本屋が無く、子どもにもっと本を身近に感じてもらおうと思ったことがきっかけだ。輝久さんは、子ども図書館を立ち上げるために、まずは地域の団体への説明会を行った。お金の問題など、反対意見がとても多く頭を悩ませたが、それでも「子ども図書館をつくりたい」と地域の方々に話し続けた。泰美さんも、地域の小学校で行われた障がい者の運動会で出会った神戸市職員に説明していたところ、それを聞きつけた市会議員の方の目に留まって立ち上げに力を貸してくれたり、さらに、地域のまちづくり活動に中心的に取り組んでいる人から小学校区を重視することや地域での動き方など、立ち上げにあたっての様々なアドバイスをもらい、さらに力になってくれる人を紹介して頂いたり、色々な人に協力をしてもらい実現することができた。  

NPO法人青い樹 理事長 前田輝久さん

子ども図書館の利用者を増やすためもあって、まずは青い樹を知ってもらおうと、毎月様々なイベントを企画した。今年の10月に近所の商業広場で行ったハロウィンイベントは、子どもだけで430名程度が参加した。今では大人気となったハロウィンイベントはお菓子がもらえるスタンプラリーが最初で、参加者の口コミや掲示板のチラシなどで知られるようになった。年々参加人数が増え、イベントの内容もより充実したものになっていき、初めは掲示板に受付箱を取り付けて申込用紙を入れてもらい、手書きの申込用紙をパソコンに入力しながら参加者を把握していたが、参加人数が年々増えるにつれ負担になった。ある時、子どもがいる近所の女性から「ネットで申し込んでもらうほうが管理しやすくなるのでは」とアドバイスを貰った。さらに勤め先でボランティアを募ってくれて、申込みフォームを作成してくれる人が現われたそうだ。
また、水曜の活動の受付などは近所に住む高齢者が行っているという。「青い樹はたくさんの人に支えられている。最近は地域の繋がりが弱まっている傾向にあると思うが、支えてくれることが高齢者の孤立防止にもなれば」。高齢者の見守りの一環で、近所の方々が食材を持ち寄り、高齢者宅を訪ねて配り歩く活動も行われている。それぞれの暮らしを支え合う、地域全体の団結力の強さが感じられる。

子どもが楽しく身近に学習を感じられるために

集会所の和室の一画に、たくさんの本が本棚に収納されたコーナーがある。人気の漫画から図鑑、子育て本など内容は様々だ。子ども図書館の本は、地域の方々からの寄付が多い。

最近人気の本から懐かしい本まで様々な種類が揃う

青い樹は、集会所の洋室で『英会話教室』の運営もしている。子どもたちが興味を持てるよう机上の勉強だけでなく、体を使った遊びやダンスなどを取り入れ、遊び要素を交えた学習内容になっている。英会話教室に通う子どもたちは、イベントに来てくれた子どもが興味を示して通い始めたケースもあるという。
子どもたちがもっと学習できるような環境を提供したいと思う一方、様々な課題や問題点も浮き上がってくる。運営を継続していくための資金、本を置くスペースを確保するためのハード面。子ども図書館にはたくさんの本が寄付されているが、本棚のスペースに限りがあるため全ての本を本棚に収納することが難しい。また、集会所なので本来の利用ができることが大前提であり、図書館のスペースを優先させてもらうことはできない。資金については、助成金、各団体からの寄付などをいただくため、情報収集や丁寧なコミュニケーションを続けている。これからも様々な情報にアンテナを張り、協力してもらえるところを探していくつもりだ。

英会話教室の風景

“多文化共生”を目指した地域の発展

そんな地域に根付いた活動をされている輝久さんに、今後の展望をお伺いした。輝久さんご自身の経験から「多文化共生」に力を入れたいと話される。青木には様々な国の外国人が住み、町のルールがわからずに生活をしている人がいる。そんな外国人に怒りを向けるのではなく、一緒に町のことを考えてもらえるような手助けをしていきたいと話される。そして、外国人の親子にも参加してもらえるようなイベントや図書館の運営を目指している。

核家族化が進み、地域の繋がりが弱まってきている昨今に、とても心強い地域の味方がいる。人が持つ「輪の力」を信じて広げたいと話される輝久さんには、自然とたくさんの素敵な輪(縁)が集まってきている。その縁に呼び寄せられた筆者も、これから新たな輪を繋いでいきたいと思う。