<取材・執筆>田中 めぐむ <セミナー>一般社団法人つくろい東京ファンド公開セミナー「難民・仮放免者支援の実践と課題」

現在、全世界の難民の数は増え続けており、日本国内の難民認定申請者数も増加傾向にある。また、日本では仮放免者の課題がしばしば報道などで取り上げられている。しかし、彼らに対する公的な支援はいまだ十分ではなく、その日その日を何とか生きながらえるような生活を余儀なくされる人も多い。そんな難民・仮放免者の方々の置かれている状況と支援の実際を報告するセミナーが、一般社団法人つくろい東京ファンドにより、2月20日、なかのZEROで開催された(筆者は、アーカイブ配信で視聴)。

タイトルは「難民・仮放免者支援の実践と課題」。つくろい東京ファンドで実際に難民・仮放免者支援に関わっている代表理事の稲葉剛さん、生活支援スタッフの大澤優真さんなどから説明がなされた。

難民・仮放免者を取り巻く現実

まず、現在の難民・仮放免者の現状についての紹介があった。世界では難民が急増しており、2014年に約6000万人だった難民の数は、2024年には日本の全人口に匹敵する1億2000万人となり、過去最多を更新した。日本における難民認定申請者数も増加傾向にあり、2023年は前年比3.7倍の約1万4000件。2024年度も同水準と予測されている。

しかし、そんな彼らに対する公的支援は圧倒的に不足している。在留資格を持ち生活保護を使える人もいるが、生活保護を使えない、または在留資格を持たない人に使える支援は本当に少ない。また、生活困窮者自立支援法に基づくシェルターなど、法制度上では使えるが自治体による運営上の問題などにより使用できなくなっている支援もある。その結果、路上生活に陥る人も少なくなく、その中には妊婦や子どももいる。つくろい東京ファンドで無事出産まで支援することができた妊婦もいるが、「もし私たちに出会っていなかったら」と恐ろしくなったそうだ。残念ながら、日本でサバイブできるかどうかは「運次第」という面もあるのが現状だという。

また、日本では難民認定申請をしても96.2%の人は却下され、帰国を求められる。これを拒否すると入管施設に収容されるが、これが長期化した場合や子どもがいる場合は入管施設の外での生活を認めている。これが「仮放免」だ。しかし、仮放免者は就労が許されておらず、公的支援もほとんど使えないため、文字通り「生きていけない」状況となる。つくろい東京ファンドが支援をして一時的にホテルに保護しても、就労できないためこの先の収入が見込めず、安定した住居を確保できる目処が立たないこともある。結局、寝袋を渡して路上に返さざるを得ないこともあるそうだ。

この状況に対し、国連は2022年に「総括所見」を出しており、これらの現状に懸念を示すとともに、日本に対して必要な支援の提供と就労の許可を求める勧告を出した。しかし、現時点でも状況に改善は見られない。

つくろい東京ファンドによる支援の実際

つくろい東京ファンドはもともと、中高年の路上生活者を主な対象として住宅支援を行ってきた。しかし、コロナ禍以降、仮放免者や難民の人々からの相談が増加し、彼らに対しても支援を行うようになった。それらの支援の内容について住宅支援、生活支援、啓発活動の3つに分けて説明があった。

1.住宅支援

緊急支援として、ホテルやシェルターなどの安全な居住スペースを提供する。その後、中長期的に利用できる住居を確保する。また、家賃支援も行っているという。

2.生活支援

生活支援として、食糧支援と日本語教育の説明があった。
食糧支援では、月に1回、野菜や保存食品を約60世帯に提供。もともと必要に応じて支援をしていたが、数が増えたため定期開催にしたという。

日本語教育は、2023年4月から実施。毎週月曜日、1回90分の授業で、月に20名前後の利用があるそうだ。つくろい東京ファンドでは住宅支援や食糧支援も行っているため、日本語教育を継続できない原因となる生活や心理面の安定についてもサポートすることができ、そこが大きな強みになっているそうだ。

3.啓発活動

地域の方々に対する啓発活動として、食事会と地域イベントへの参加の紹介があった。
食事会は難民の方が出身国の料理を作って振る舞うもので、月1回行っており、毎回約15人以上が参加しているという。食事会に参加するすべての人が居心地のいい空間になるように、参加ルールを決めているそうだ。

地域イベントへの参加では、都内だけでなく地方のイベントにも参加。難民の方に負担のない範囲で自身の経験を話してもらったりする。好評で次のイベントに呼んでもらえることもあるそうだ。

難民・仮放免者支援の課題

セミナー全体を通して繰り返し触れられていたのは、公的支援が限られていること、民間の支援団体はどこも資金不足に苦しんでいることだった。民間団体の金銭的、人的資源が増えること、実際に使える公的支援を充実させることが重要であると述べられていた。

私はこれまで難民や仮放免者が置かれた状況を詳しく知らなかったため、セミナーで語られた目の前で親族を殺されたり、妊婦が死産させられたりといった彼らの日本に来るまでの凄惨な体験と、そんな環境から命からがら逃げてきた日本でのあまりにも非人道的な待遇に率直に驚いた。
日本全体で貧困問題が拡大している現在、難民・仮放免者の支援を拡充するという意見に対しては賛否両論あるだろう。しかし、だからといって現在の難民・仮放免者の扱われ方は同じ人間として看過できないとも感じる。

日本国憲法前文では、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」と明記されている。彼らを「他人事」として切り捨てる以外の選択肢として、ともに生きやすい日本を模索していくことはできないだろうかと思った。  

つくろい東京ファンドでは、難民・仮放免者を支援するためのプロジェクトを実施しています。詳しくはこちら↓
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