先般、香港の調査コンサルティング機関であるCentre for Asian Philanthropy and Society(CAPS)が実施したアジア18カ国・地域のソーシャルセクター比較調査「Doing Good Index 2020」が公表されました。日本NPOセンターはこの日本側調査のパートナーとして、調査および報告の抄訳版を作成しました。https://www.jnpoc.ne.jp/?p=21129

本稿では、調査で明らかになったアジア諸国に共通する潮流と日本の現状を比較したものを紹介するとともに、その潮流から読み取れることについて書いてみたいと思います。

■6つ潮流

1.アジアにとって政府の関りは重要で、ソーシャルセクター関連の公共政策は直接的な効果だけでなく、影響を増幅させるシグナリング効果も持つ。

  • アジア諸国の政府は、自国での慈善活動やCSRの拡大を求めている。
  • 一方で調査に回答したアジア諸国の団体(SDO)※の半数近くは外国からの資金(予算の約4分の1)を頼っているが、半分以上の国で外国からの資金が減少。外国からの資金調達に制限を課す6カ国・地域では、多くの団体が20%以上の資金減を報告している。
  • 日本では外国からの資金提供を受けている団体はわずか6%。

2.ソーシャルセクターへの規制監視の強化は、混合した結果をもたらしている。

  • アジア諸国の半数以上(56%)で、政府によるソーシャルセクターへの規制が強化されている。
  • 日本のNPOの多くは、非営利セクターに関する法律や規則の内容を理解するのが難しいと考えている。

3.税制や財政政策は寄付の大きなインセンティブになるが、寄付制度や手続きの複雑さなどから寄付行為が抑制されてしまっている。

  • アジアの団体の4分の1は、寄付で税控除が受けられることを認識していない。
  • 日本を含む14カ国の専門家は、関連する税制上の政策を正確に把握することは困難だと回答。
  • 遺贈に対するインセンティブが不足している。相続税への対策があるのは6カ国のみで、そのうち、遺贈に対するインセンティブがある国は、日本を含め4カ国だけである。

4.政府の資金調達はソーシャルセクターが成長する重要な源泉となる可能性があるが、日本はこの分野でアジア平均を上回っている。

  • 政府や自治体と業務委託契約を結んで社会的サービスを行う団体は、アジア全体の平均では26%だが、日本では37%。
  • 一方で契約を結んでいるアジアの団体の61%が政府の資金調達に関する情報へのアクセスが困難だと感じており、またほとんどの団体は、調達プロセスに透明性が欠けていると考えている。

5.政府は政策問題について団体(SDO)に相談するケースが増えている。

  • 調査に参加した団体の4分の3は政策協議に関与していており、前回調査(DGI 2018)の半分から増加している。
  • ただ日本では、政府・自治体との政策形成に関わっている団体数は半分しかいない。

6.企業の社会的責任(CSR)と官民パートナーシップ(PPP)の役割が高まっている。

  • 18カ国中11カ国が、CSRとPPPがこれまで以上に注目されていると答えている。
  • 回答した団体の86%が、何らかの形で企業セクターと連携しており、団体予算の企業からの資金の割合は15%。その一方で日本の場合は、その割合が5%に過ぎない。

■潮流から読み解けること

この調査から日本のアジアとの共通性と特異性が見えてきました。

まず政策決定や規制強化がソーシャルセクターにプラスにもマイナスにも影響を与えている現状は、相対的に政府の影響力が強いアジア諸国にとって共通点と言えそうです。とりわけ外国からの資金援助規制による課題は、アジア諸国の多くのNPOが直面している問題だということが明らかになりました。政府による規制強化は、シビック・スペース(市民社会の領域)への脅威とつながりかねないものです。NPO自身が非営利セクターに関する法律や規則の内容を十分に理解しきれていないとの調査結果から、改めて自分たちの足元を見つめ直すとともに、シビック・スペースに関するNPO側の意識醸成も必要になりそうです。その上でアジア地域全体としての市民社会どうしの交流・連携という流れを作っていくことが大切だと考えます。

また、寄付促進のための制度整備や制度理解も、多くのアジア諸国が共通して抱えている課題と言えそうです。特に日本に対しては、制度は整備されているものの、税制度の複雑さがNPOに対する寄付推進を妨げているという指摘があり、この点をどう改善していけるかという宿題が課されました。

さらに中央政府・自治体と業務委託契約などを結んでいるNPOがアジア諸国と比べて比較的多いのに対して、政策提言面では、日本の団体はアジア諸国より消極的という結果は示唆的です。NPOがある程度サービスプロバイダーとして機能している反面、現場からの声を政策に反映させるための努力を怠れば、政府・行政の下請けになりかねないという懸念を改めて浮き彫りにしたと言えるからです。

その他にも企業セクターからの支援が他のアジア諸国に比べて弱いという結果は、個人的には意外な調査結果でした。これもNPO側の力量形成や、企業との議論の深化の必要性を示唆しています。ただ、それは裏返せば、可能性の伸びしろとも理解できます。特にコロナ禍という状況で、企業とNPOがお互いに協力し合える領域について、改めて議論し合えるチャンスだと積極的にとらえることが可能です。

今回の比較調査の結果は、NPOセクターが他のステークホルダーと何ができるかを考える糸口になりそうです。皆さんにとっても、調査の結果が議論の契機となることを願っています。

※本調査では、社会的なサービスを提供する団体を「ソーシャル・デリバリー・オーガニゼーション(SDO)」と呼び、非営利団体、社会的企業、財団などを含めた組織が調査対象になります。日本側の調査対象の大部分は非営利団体(NPO法人)となります。

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