<取材・執筆>飯島 亜子  <取材先公益社団法人日本聴導犬推進協会 加藤 純子さん

聴導犬

オレンジ色のケープをつけた「聴導犬」を見かけたことはあるだろうか。聴導犬は聴覚障害者に音を知らせてくれる身体障害者補助犬だ。目覚ましの音やお湯の沸く音などの生活サポートや、警報音を知らせて危険を回避することもある。日本聴導犬推進協会が26日開いたオンラインセミナーで「聴導犬使用者に対するサポートの方法や聴導犬への優しい無視が大切」など聴導犬について詳しく解説した。

■耳が聞こえない障害は「見えない障害」

目の見えない人は白杖を使っていたり、動きや仕草で「不自由さ」が周りに伝わりやすい。車椅子の人は言うまでもないが、耳の聞こえない人は近くで見ても障害があると分かりづらい。日本聴導犬推進協会のスタッフ加藤純子さんは「聴導犬を同伴することで周囲への目印となり、お互いにコミュニケーションがとりやすくなります。聴導犬であることを示したケープと呼ばれるベストを着用している犬がいたら気にしてもらいたい」と話した。

聴導犬は、盲導犬・介助犬と並ぶ身体障害者補助犬だ。「身体障害者補助犬法」に基づき専門的な訓練を積み重ね、認定試験を受けている。厚生労働省によれば10月時点で、盲導犬の数は909頭に対して、聴導犬は64頭と少ないため認知度も低い現状にある。

■聴導犬への優しい無視

聴導犬を同伴していれば「何でもできる」というわけではない。当たり前のことだが聴導犬は言葉を話すことはできない。例えば、普段から使っている電車が緊急停車し、車内にアナウンスが流れ始めたとする。聴導犬はアナウンスの音には反応するが、内容については伝えることができない。「こうした場合は聴導犬を使用する方への手助けが必要となります。筆談・手話・携帯のメモ画面などを使い、必要な情報を誰でも伝えられるような世の中にすることが大切です」。

聴導犬は使用する人のニーズに応え、必要な情報を伝えるため、周囲の音や気配を察している。そんな時に聴導犬に近づいたり、触ったり、気が散るようなことをすると飼い主の命を危険にさらす可能性がある。「聴導犬が仕事に集中できるかどうかは周囲の人間の責任です。『優しい無視』を心掛けてほしい」と指摘した。

■家庭犬のマナー向上が補助犬普及に繋がる

昨今、日本でもペット同伴可とする飲食店をよく目にするようになった。これは喜ばしいことだが、同時にマナー違反をする飼い主も増えている。例えば、人が使う椅子やテーブルに座らせたり、中には他人に怪我をさせてしまうこともあるという。「飼い犬へのしつけができていないと犬に対して悪いイメージがついてしまいます」。聴導犬や盲導犬が入れなくなってしまうことが危惧される。

最後に加藤さんは「1匹の聴導犬を独り立ちさせるには約300万もの費用と時間がかかります。数も足りないため、必要とする方へは聴導犬を貸し出しているのが現状です。犬を連れてどこへでも行ける世の中にするため、側から見て偉いなと思えるよう、日頃のしつけやマナーを守って欲しい」と述べた。