先月16日、東京都渋谷区で、路上生活を送っていた女性(64)が男に殴られ死亡する事件が起きた。報道によると、女性は春から路上で暮らしていたという。

3992ー。これは今年1月現在、日本で路上生活を送っている人の数だ※。数は減少傾向にあるが、一度想像してみてほしい。3992というのはただの数字ではなく、その数だけ一人一人違った生活や人生がある。そして、彼らを支援し続ける人がいる。今回、路上生活者支援ボランティアに参加し、数字からは見えない路上生活の現実や、支援の現場を目にすることにした。
※厚生労働省『ホームレスの実態に関する全国調査(概数調査)結果について』より

衣服を求めて集まる人々

11月の日曜午後4時20分。1台の車が東京都庁第二庁舎近くに止まった。それを合図に、どこからともなく多くの人が集まってきた。ニット帽をかぶり厚手のトレーナーや上着を羽織った人たち。目線の先にあるのは、車から運び出される段ボールに入った大量の衣服やタオル、カミソリ、歯ブラシなどの生活用品だ。

毎週日曜の夕方、衣服配布会が開かれる。主催するのは、長年路上生活者支援をしている「新宿野宿労働者の生活・就労保障を求める連絡会議(以下、新宿連絡会)」。全国各地から個人寄付という形で送られてくる衣服は、冬だと週30箱を超える。衣服をビニールシートの上に広げると、路上で生活を送る彼らは一目散に駆け寄り、必要な服を探していた。その数ざっと70人。ほとんどが男性だが、数人の女性もいる。主に40〜70代とみられる彼らの多くは、毎週のように集う。

仕事、金、炊き出しがない

「俺は新宿駅西口にいつもいるよ」と話す、約10年前から路上で生活するようになったという男性(72)に声をかけた。歳を重ねるにつれて仕事が見つからなくなり、週1回は段ボールを集めて7、8000円稼いでは食費に充てる生活を続けてきた。夜22時ごろから早朝まで駅周辺で寝て、日中は図書館で時間を潰し、毎日のように炊き出しのある場所へ歩いて向かう生活。

しかし、新型コロナウイルスの影響で生活はより厳しくなった。「4〜6月は全く仕事がなくてお金がなかった。それなのに、東京都は俺たちに何の支援もしてくれない。むしろコロナを理由に炊き出しの数を減らしたんだ。特別給付金だってもらえない。住所がない俺らは、人間じゃないみたいな扱いだよ」と本音を漏らす。

どう反応すべきか迷い何も言えない私と対照的に、彼は時に笑いながら話し続けた。陽気な人だと思ったが、本当は苦労しているのだろう。生きていくため、限られた炊き出しの場に遠方だろうと足を運び続けている。「これから渋谷で炊き出しがあるから」と、その場を後にした。

250個のおにぎり

衣服の次は、おにぎり配布活動だ。新宿連絡会のボランティア、野口幸次さん(74)を中心に、7人での活動が始まった。その中には、路上生活を送る男女3人の姿も。毎週共に活動しているという。

活動は2014年に始まった。おにぎりは、事前に会のスタッフが握った約250個。直径5センチ以上はあるおにぎりは、炊き込みご飯風、昆布や高菜がまぶされたものなど種類は豊富だ。私たちは二手に分かれ、私と野口さんを含めた4人は、都庁→甲州街道を通って新宿駅南口→新宿高島屋周辺→新宿三丁目駅から新宿駅西口の地下道へ。おにぎり入りのバッグを肩からさげて歩いた。

“仲間たち”に会う

路上生活者の寝床はさまざまだ。路上に段ボールを敷いたり、傘や段ボール、毛布で屋根を作ったり、それぞれが工夫して場所を確保している。何人か集まって暮らしているような場合もあれば、離れて1人でいる人も見かけた。精神疾患があり誰とも関わらないようにしている人、耳がほとんど聞こえず意思疎通が難しい人、外国籍の人など、新宿だけでも多様な人がいる。

「おにぎりを配りながら、巡回する意味もあるんです」と野口さん。額に大量の汗をかいた野口さんは、重いバッグや箱をカートに乗せて引きながら歩く。おにぎりのほか、マスクや消毒液、頭痛や腰痛などに効く何種類もの市販薬、オムツ、絆創膏などを入れ、必要とする人に渡す。1人にかけられるのはほんの数分だが、毎週顔を合わせ、体調は大丈夫か、困っていることはないか、必要なものはないかを聞くことで異変や悩み事に気付くこともあるのだ。

日曜夜とあって、多くの人であふれかえった新宿。「やあ、元気にしてるかい」。人混みをかき分け、野口さんは一直線に進んで声をかけた。ベンチに座り自然にくつろいだり、街を歩いたりしている彼らを見て、路上生活を送っている人だと私には分からなかった。対して、野口さんは友人に会ったかのように挨拶を交わしており、関係の深さを思わせた。

「マスクは足りるか」「はい大丈夫です」
「ちょっと腰が痛くて」「じゃあこの薬あげるよ」
そういった話をしながら、おにぎりや日用品、そして「仲間たち」という言葉で始まった同会作成のチラシを渡す。チラシには、いつどこでシャワーサービスが受けられるか、無料で宿泊できる施設はどこがあるかがまとめられていて、路上にいる人にとっては大事な情報源になるはずだ。

信頼関係を築くということ

おにぎりを渡そうとしても、断る人もいた。「みんな遠慮深いんだよ」と野口さん。支援しようといきなり声をかけても、応えない人だっている。信頼関係がないと、支援の先に何があるのか路上生活者側からは見えずにトラブルが生じたり、心を閉ざしたりすることもあるからだ。それでも、野口さんに心を開く人も多い。

「俺たちに相談するのは、他の通行人には言えないからこそだろうね」

彼らに向けられる視線は時に冷たい。事件に巻き込まれることもあり、必ずしも彼らを理解しようとする人ばかりではないのが現実だ。

今回一緒に活動した女性(70)は、家族を亡くしてから数年路上で暮らしている。彼女は言った。「『どけ』って強く言われることもある。私たちは邪魔な存在なんだよ。みんな私たちのことなんて考えてくれない」。その声には悔しさがにじみ出ているように感じた。

路上にいるのは、仕事や家を失った人ばかりではなく、家族関係に悩んで家を飛び出した人など、さまざまな問題を抱えた人たちだ。自分は邪魔者だ、と感じ、深い悩みを持つ人たちと信頼関係を築くのは、決して容易いことではない。

この活動に参加し、本当は彼らに聞きたいことはたくさんあった。なぜ路上で暮らすことになったのか。彼らは何を求めているのか。もしくは、何も求めていないのか。しかし、たった一度来ただけの私が彼らの心にいきなり入り込もうとすると、警戒心を持たれるだろう。傷付けることだってあるかもしれない。私に笑顔を向けてくれる彼らだが、本音は分からないのだ。そう思うと、聞けなかった。野口さんも「ボランティア1回だけじゃ本当のことは何もわからないよ。俺だってまだわからない」と言う。その言葉は重かった。

一人一人のことを考える

この日は、もう片方のグループ分と合わせて計154人のもとを訪問した。約2時間で1万歩歩いただろうか。この活動を同会はボランティアで毎週続けている。「ボランティアってなんだろうって思うよ。支援していても助けられないこともあって、死ぬ人もいる」。野口さんは続けた。「それでも、生きていくのに少しだけでもほっとするような、そんな相手になれたらいいのかな」

3992人。もしくはそれ以上の路上生活者が、寒空の下、日本各地の雑踏の中に確かに存在している。いくら支援を続けても、3992人をゼロにすることは難しいだろう。そもそも、彼らが支援を望んでいるのかさえ分からない。だからといって、問題から目を逸らしたくはない。まずは彼らのことをもっと知りたいから、彼ら一人ひとりのことを想像するところから始めよう。そして、私にできること、社会にできることを探し続けたい。

新宿連絡会
1994年8月、東京都によるホームレスの強制排除に反対し活動していた複数の団体が合体して設立された任意団体。おにぎり配布活動のほか、就労支援や提言活動、ボランティア医師らによる月1回の医療相談などを行う。おにぎり配布活動は、ボランティアを常時募集している。
問い合わせ先:03-6826-7802(平日9〜17時)
メールの場合は shinjuku@tokyohomeless.com

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