<取材・執筆>南里 有希乃   <取材先> 一般社団法人 栃木県若年者支援機構 副理事長 塚本 竜也さん

ニートやひきこもり、うつ病などの精神疾患――。様々な困難を抱える若者たちには漠然とした将来への不安やキャリア不安がある。仕事も通学もしていない独身の「若年無業者」は71万人。厚生労働省の2017年調査によると、34歳以下のうつ病患者は約15万人、精神疾患全体では約70万人にのぼる。2008年は約18万人だった。年々精神疾患の患者数は増えている。そういったひとたちに今できる支援は何かー

様々な悩みを抱える若者に寄り添う団体の一つ、栃木県若年者支援機構が運営する子ども若者・ひきこもり総合相談センターには年間延べ5,000件ほどの相談がある。ひきこもりを主とする相談が多いが、昨年は精神疾患の相談も増加したという。

同団体は自立をしたいと希望する若者にたいして様々な工夫をしながら就労支援を行っている。副理事長の塚本竜也さんは若者支援にかかわり15年。若者支援で大切なことは「社会的処方」だと語る。

「医者のように薬は処方できないけれど、人と過ごすことで心が軽くなる人薬(ひとぐすり)といった社会的処方をしています。地域社会での居場所づくりによって気持ちを前向きにできることが必要なんです。もし離職しても追い詰めないし、本人が自分自身を許容できるように人に寄り添うことを大事にしています」と穏やかな口調で話してくれた。

ハローワークを介さない就労支援のかたち

精神疾患や対人関係が困難など様々な生きづらさを抱える若者は従来のハローワークを通じて仕事を探すことが難しいケースもある。栃木県若年者支援機構でもハローワークへの通所や応募書類の添削を行うが、就活が思うように進まないこともあった。

「自立を希望する若者は多いが、経済的な自立をどう実現していくかは難しい。ハローワークを介さず、対象者自身を見てもらうのがよいのではないか」と考え、直接企業から仕事を請け負い、若者とチームで仕事を行う「しごとや」を始めた。

しごとやは、仕事がしたいけれどコミュニケーションが苦手といった若者が「働くことに近づく場所」。地域の企業や農家の協力を得ながら実践的な就労体験を経験し、段階的に就労へとつなげる「中間的就労」の取り組みだ。地域社会全体で若者を育てていき、就労を目指す若者たちが一人でも多く目標を達成できることを期待しているという。

例えば、中古車の販売をする自動車関連企業でしごとやの就労体験を行っている。しごとやでは4人1組のチームで訪問する。一日2万円、若者には2,000円を支払う。仕事が苦手な人が一人いてもチームで働くので助け合える。

ユニバーサル中古車洗車

企業側にとっては人手不足に役立つという良さもある。地方の中小企業には早期離職や求人への応募者不足といった問題を抱えているところがたくさんある。

塚本さんは「若者たちが親に頼らず就労のための努力をすることにつながります。交通費や弁当代を自分でまかなえたり、やらされている感も少なくなります」と話す。

しごとやの経験を通じてアルバイトとして採用された事例もあった。おとなしくてコミュケーションが苦手という若者がいた。だが就労体験の作業は一生懸命行っていたことで、企業側からアルバイトをしないかと声をかけてもらえた。もし通常のアルバイト面接に行っていたら、コミュニケーションは苦手なのでうまくいかなかったかもしれない。

「働きぶり・取り組む姿勢を見てもらえるような就労支援の形があるといいと思っています。働く経験を積むことにもなるし、若者の長所が伝わります」

働きやすい会社をPR

ハンデがあっても周囲が気を使いすぎず、時にはハンデにあえて触れてくれるほうが本人にはありがたいときもある。そういった社員を大事にしている農家や地元の小企業などもある。栃木県若年者支援機構ではこれまで約40社とのつながりをつくり実施してきた。ハローワークを介さないで若者を直接見てもらえるように企業との関係性づくりに取り組むことが大切だと塚本さんは語る。またそういった職場のすばらしさを積極的にPRすることが次の求人につながるかもしれない。

ユニバーサル農業

「人にやさしくて働き心地の良い企業の求人を若者支援団体などが紹介する。会社の雰囲気やストーリーが伝わる、心が動くような求人を作っていきたい」

新型コロナウィルスの影響でオンラインでの作業も少しずつはじめている。将来は外出ができない人でも仕事ができるようにオンラインでつなぎながら作業をつくっていきたい。

働くことと働き続けることは違う

就職したとしても就労が定着しないことも多く、7~8年離職を繰り返している事例もある。支援機構が運営する「とちぎ若者サポートステーション」では働き始めてからのフォローアップも行っている。就職して半年や1年の区切りに話をすることで、職場以外の人と話すことや愚痴を話す機会になる。

塚本さんは若者に対して、叱咤激励する場ではなく、チャレンジしたことを褒め、前向きにとらえることが大事であるとメッセージを伝えている。
「離職するのかどうか悩んだ期間は、その経験と向き合った時間として自身のプラスになります。気持ちのスイッチを入れ、心の扉を開けられるように支えていきたい。働くことと働き続けることは違います。時がたてば希望の職種につけるかもしれないと頭の片隅においておけばいいのではないでしょうか」という言葉が印象に残った。

栃木県若年者支援機構
https://www.tochigi-yso.org/
栃木県子ども若者・ひきこもり総合相談センター
https://www.polaris-t.net/
しごとや
https://shigotoya.wixsite.com/tochigi
関連サイト
ソーシャルビジネス関連の求人サイト DRIVEキャリア
https://drive.media/career

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