<執筆>中小田 はるか  <イベント>「日本の高校生が直面するジェンダー・ステレオタイプの実態」~レポート発表記念イベント~

この数十年で徐々に男女平等意識が浸透してきていると感じていたが、世界経済フォーラムが発表している男女格差を示すジェンダー・ギャップ指数に目を向けると、日本は156ヶ国中120位とまだまだ課題は山積みだ。公益財団法人プラン・インターナショナル・ジャパン(以下、プラン)は、こうした状況を改善するにはジェンダー・ステレオタイプの解消が重要という。

ジェンダー・ステレオタイプとは、社会に浸透している「性別に関わる固定概念」のことだ。例えば女の子はピンク、男の子は青とイメージしてしまうのも、性別に関わる固定概念でジェンダー・ステレオタイプだ。

プランの報告書(※)によると、10代前半からジェンダー・ステレオタイプを自身の価値として受け入れ、15歳から16歳頃にさらに内面化するようだ。そのためプランは、子どもや若者を性別による制限や差別から守るために、日本の高校生2000人を対象にジェンダー・ステレオタイプや価値観、またその影響や経験についての調査を行った。調査結果を踏まえ5月12日に開催された「『日本の高校生が直面するジェンダー・ステレオタイプの実態』~レポート発表記念イベント~」に、筆者は今回参加してみた。

※性別にとらわれず自由に生きるために~日本の高校生のジェンダー・ステレオタイプ意識調査~

ジェンダーイメージとステレオタイプ

プランの調査は4つの項目を15問の設問で調査している。1つ目の項目には、高校生の持つジェンダーイメージを知るために「女の子」「男の子」から思い浮かぶ言葉を3つあげてもらう設問がある。

女の子は「かわいい」「美しい」など外見に関する言葉が男の子より多く、回答数自体は少ないが家庭に関する言葉も出てきた。男の子は「かっこいい」が一番多いが、「筋肉」「運動」など強さや活発さを表す言葉が多かった。男の子のみに出てきた言葉では「働く」「サラリーマン」「大黒柱」など仕事をしているイメージのものが見られた。

筆者は仕事に関する言葉が男の子のみに出ていることには驚いたが、女の子は外見、男の子は強さを多くイメージされるのは想定通りと感じてしまった。これは残念ながら筆者自身がジェンダー・ステレオタイプを持っているということだが、人によってどの程度のジェンダー・ステレオタイプを持っているかは異なるだろう。

プランは調査の中で、回答者2000人がどの程度ジェンダー・ステレオタイプを持っているかの度合いを強・中・弱に分類している。

これはジェンダー・ステレオタイプ的な考えを示す13の設問に「そう思う」「どちらかというとそう思う」「どちらかというとそう思わない」「そう思わない」という選択肢から最も近いものを答えてもらい、「そう思う」を4点、「どちらかというとそう思う」を3点、「どちらかというとそう思わない」を2点、「そう思わない」を1点と点数化したものだ。「そう思う」を選ぶ回数の多い人は点数が高くなり、ジェンダー・ステレオタイプが強いことがわかる。

では、ジェンダー・ステレオタイプの強度の傾向を見てみよう。

ステレオタイプが「弱」なのは「性自認」を「その他」と回答している人が9割と多く、ついで「女性」が35.4%だった。対してステレオタイプ「強」は「男性」が1番多く、男の子が1番ステレオタイプを持っていることがわかった。

なお、「性自認その他」という表現を聞き慣れない方もいるかもしれない。今回の調査では自身が認識している性別を答えてもらっている。自認する性別は、出生時の身体の性別とは異なる場合がある。また、「性自認その他」と回答した人は、女性でも男性でもない、または女性と男性の両方と感じていたり、わからない、まだ決めていないといったケースが考えられる。「性自認その他」の回答者は、自分の性別をそのように認識しているということだ。

ジェンダー・ステレオタイプ的表現や発言を見聞きした、言われた経験

2つ目の項目では、ジェンダー・ステレオタイプ的な表現や発言を見聞きしたり、経験したことがあるかについて問う設問があった。

この設問には、全体では27.2%の回答者が「ある」と答えた。ジェンダー別に見ると「性自認その他」の回答者では68.4%が「ある」と回答しており、突出していた。また、女の子の方が男の子より「ある」と回答した人が多かった。

どのような発言をされたかという質問については、女の子だから「家事をしなさい」「おしとやかにしなさい」、男の子だから「泣いてはだめ」「運動ができないとだめ」などと言われていることがわかった。

見聞きした場所は学校が7割と一番多く、2番目が家庭だった。

学校でのジェンダー・ステレオタイプの発言について、パネルディスカッションでは「先生自身もジェンダー・ステレオタイプの影響を受けて育てられてきており、その影響が教育現場でも再生されてしまうのでは」との声があがっていたのが印象的だった。

ジェンダー・ステレオタイプの影響

3つ目の項目では、ステレオタイプ的な発言が自身の可能性を狭めているかという設問があった。7割が「そう思う」「どちらかというとそう思う」と答えた。中でも「性自認その他」の回答者は「そう思う」「どちらかというとそう思う」と答えた割合が多く、また男の子より女の子の割合が多かった。「理系は男の子の方が向いている」といった声や「周りの目を気にして自分のやりたいことをあきらめる」という回答もあり、特に「性自認その他」の回答者は周りからの発言にストレスを感じている傾向が強かった。

7割もの高校生が周囲の発言により自身の可能性を狭めていると感じているのは、周りを気にする日本人の特徴の影響もあるのではないだろうか。周りを気にする文化を変えていくと、本件に限らず生きづらさの解決につながるように感じる。

ジェンダー・ステレオタイプと価値観

4つ目の項目では、男性と女性が同じように扱われ同じように機会を享受することの重要性について聞いた設問があり、8割を超える回答者が「重要」「非常に重要」と答えた。ジェンダー・ステレオ強度別に見ると、ステレオタイプ弱の回答者は男女平等について7割が「重要」と答えている一方、ステレオタイプ強の回答者は10.9%が「どちらでもない」、3.4%が「あまり重要ではない」と答えており、平等に重きを置かない傾向が見られる。

感想

ここまで見てきて、ジェンダー・ステレオタイプが可能性を狭めていることは明らかだが、どう解決していけばいいのだろうか。

詳しい提言はプランの報告書をご覧いただくとして、ここではパネルディスカッションでの意見をもとに解決策を考えたい。

パネルディスカッションでは、既にジェンダー・ステレオタイプが強くなっている子どもが相当数いるため、早い段階での教育の必要性を訴える声があった。

筆者自身も子どもの頃から「女の子だから勉強ができるよりかわいくなった方がよい」と考えていたことを思うと、早期教育の重要性に賛成だ。そのためには、既にジェンダー・ステレオタイプを持っている可能性がある学校の先生に対してのジェンダー教育も必要になる。

併せて、現役高校生が提案していた、周りの目を気にする傾向を改善するための「よい点を認め合う教育」を実践すると、子どもたちが自分の気持ちに正直になり、やりたいことに取り組めるのではないかと思う。

子どもと先生、双方への教育を通じて、誰もが性別にとらわれることなく自由に自分らしく輝ける社会が実現することを願う。