<執筆>藤川 優介  <研修会>NPO法人DDAC(発達障害をもつ大人の会) 第9回ピアリーダー研修会

「ピアリーダーは一人で抱え込んではいけません。悩みや情報を共有できる仲間とつながり、互いに学びあう姿勢が大切です」

そう語るのは、NPO法人DDAC(発達障害をもつ大人の会)の代表を務める広野ゆいさん。発達障害のセルフヘルプグループ(当事者の会)「関西ほっとサロン」を20年以上続けてこられました。

2022年9月17日(土)と18日(日)の2日間にわたって、広野さんが進行役を務める第9回「ピアリーダー研修会」が大阪府産業創造館にて開催されました。9回目の開催ということもあって毎年参加されている人や今回初めて参加する人、オンラインで参加する人など20名を超える幅広い当事者の方々が出席されました。

ピアリーダーとは、共通の悩みや課題を抱えた当事者が集まるセルフヘルプグループの代表となる人のこと。グループの会合に参加する人たちにとっても、またリーダーと共にグループ運営にあたるピアサポーターにとっても、重要な存在です。

研修会では、広野さんご自身の経験も踏まえてセルフヘルプグループのあり方やピアリーダーに必要な考え方について話された他、17日には発達障がい者支援センター「アクトおおさか」の岡あゆみさんによる大阪府の発達障がい支援の現状についての解説、18日には大阪公立大学の松田博幸准教授によるセルフヘルプグループに関する講義なども行われました。

ピアリーダーとして不可欠な“傾聴力”を体験・実践するグループワークの時間もあり、様々な視点から学ぶことができる貴重な機会となりました。

広野さんからの質問に答える岡さん
参加者からの質問に答える松田先生

精神的な自立(※1)を目指す“本人の会”――セルフヘルプグループのあり方

セクシュアルマイノリティや依存症、引きこもりや虐待、難病患者と家族、そして障害者など、様々な“生きづらさ”を抱える当事者の方々がセルフヘルプグループを立ち上げています。参加する側も運営する側も対等な関係の「本人の会」であるところが、クリニックや自治体の提供する福祉サービスとは一線を画す部分です。ご自身も主催者として長年携わってこられた広野さんは次のように語っています。

「セルフヘルプグループにおいて、具体的な診断の有無は重要ではありません。とにかく今の生きづらさを何とかしたい。そう思っている当事者が集まって同じ立場の人と苦しみや知識を共有し、自分自身と向き合っていく場です」

セルフヘルプという名の通り、当事者が自分のために参加する。日常的な生きづらさや生きやすくなる情報を同じ立場の人と共有する。障害特性と向き合い、ありのままの自分として受け入れることで、選択や決断に責任を持てるようになる。参加者一人一人が自立を目指していくことが、「本人の会」の主たる目的であると広野さんは語ります。

(※1)集団(社会)の一員になる、また一員であること。誰の助けも借りないのではなく生活課題の負担を軽減する(自らソーシャルサポートを獲得する)こと。一人暮らしや結婚、就労などで生活環境が変化することとは意味が異なる。(「第9回ピアリーダー研修会資料」P4より抜粋)

会場の壁には研修内容を図にまとめた模造紙が。その長さから内容の濃さが分かる

カウンセリング・マインド――ピアリーダーに求められる“受け止める力”

当事者同士の集まりであるセルフヘルプグループには、医師や支援者とは異なる独自の強みがあると言います。その一つが「体験的知識」です。

体験的知識とは、自身が実際に体験したことに基づく知識のこと。当事者の集まる場においては「周囲に理解されない」という悩みそのものをすでに自ら経験しているピアサポーターやピアリーダーがいます。

理解される機会の少ない参加者にとって、同じ悩みを乗り越えた当事者の先輩は、人生のモデルとして安心・信頼を感じさせる存在となります。一方で、相談を受ける側も、自分の知識や経験が役に立ったことで「他者から必要とされている」と実感でき、自己肯定感が高まります。体験的知識が及ぼす影響力は、専門的な知識に匹敵する(※2)とも言われています。

「ただし共通点のある体験であっても、物理的・心理的な状況まで完全に一致することはありません。相談を受ける側が共有できるのは、“しんどかった”という体感が伴う本源的な苦しみだけです」

セルフヘルプグループの良さを語る一方で、広野さんは「共感」について一貫した考えをお持ちでした。発達障害を持つ当事者同士とは言え、全く同じ人生を歩んでいる人間はいません。では、相手が安心して相談できる場を作るにはどうすればいいのでしょうか。

「大切なのは聴く側が相談者に対して自分が率直に感じたことを伝えられているか、本当に相手を理解しようとしているか、無条件で肯定的な関心を寄せられているか。このような条件を満たしたカウンセリング・マインドを持てているかどうかです」

相手の気持ちに耳を傾けるためには、まず自分の気持ちと向き合い、受容していく必要があるのだそうです。自分を大切にすることができて初めて他者に寄り添うことができる。シンプルですが重要な考え方です。

(※2)「第9回ピアリーダー研修会資料」P2より抜粋

自尊心が高い状態
自尊心が低い状態

感想

研修会に参加させていただいて、セルフヘルプグループには、当事者の間に受け継がれていく“共有と自己受容のバトン”のような側面もあるのではないかと思いました。

当事者が同じ立場の人と出会って悩みを共有し、自分と向き合っていけるようになる。やがて新しく参加する当事者の気持ちを受け止める立場となり、お互いにさらなる自立を目指していく。そんな当事者の理想的な姿を体現し、グループに広げていくことができるのがピアリーダーではないかと思います。

カウンセリング・マインドを身につけたピアリーダーがグループを長く続けていくことで、クリニックや支援機関とは違ったアプローチで“誰もが生きやすい社会”作りの一翼を担う存在になっていくのではないか。広野さんをはじめ、研修会に参加された当事者の方々からは、そう思わせてくれる非常に前向きで活発なエネルギーを感じました。


参考文献:「第9回ピアリーダー研修会資料」NPO法人DDAC(発達障害をもつ大人の会)