<取材・執筆>シュナイデル 恵里花 <取材先>RINK-すべての外国人労働者とその家族の人権を守る関西ネットワーク 事務局長 早崎 直美さん

「外国人だからといって最初から疑ってかかられたり、話をちゃんと聴いてくれなかったり。そんなことをされたら、誰だって傷つきますよね」
そう話すのは、RINK-すべての外国人労働者とその家族の人権を守る関西ネットワーク(以下、RINK)の事務局長、早崎直美さんだ。

これは、個人が持つ偏見の話ではない。日本の行政機関での話だ。まさか、と思う人もいるだろう。さすがに行政の対応はしっかりしているだろう、と。しかし「差別されている」と感じ、異国の地で心細い思いをする外国人が、現実には存在する。

事務局長の早崎直美さん

変わらぬ姿勢、寄せられる信頼

「結成してから30年以上、ずっと同じメンバーでやっています」
1991年12月、RINKは日本の生活で困っている在留外国人のために設立された。事務局長の早崎さんを含めた5名で、電話やオンラインでの多言語相談を行っている。相談活動では通訳者が同席することもあり、現在は20名以上が登録。同行支援も行っており、必要に応じて通訳者と一緒に出入国在留管理局や労働基準監督署、役所などに出向く。

年に1〜2回、連合大阪が主催する「外国人労働者のためのなんでも電話相談」に協力している(写真提供:RINK)

早崎さんいわく、同行支援は年を追うごとに少しずつ増えており、その数は年間でおよそ250件という。2022年6月時点、日本で暮らす在留外国人は296万1969人。31年前の設立当時は約121万人だった在留外国人は、今や2倍以上となっている。支援数が増加するのも、納得だ。

日常の相談活動は、平日を中心に行われる。メンバーが話す外国語によって曜日を分担しており、早崎さんは中国語で水曜日を担当。1人が大阪市内の事務所に来て、電話の対応をする。なかには外国語を得意としないメンバーもいるが、相談活動において重要なのは、言語だけではない。RINKで大切にしていることを尋ねると、「相談者に寄り添う。この姿勢は、みんなが同じだと思います」と、早崎さん。

その思いは、設立当時からずっと変わらない。

在留外国人が困る理由

「賃金が支払われないのに、残業させられる」
「会社から急に解雇された」
「家庭内でDVを受けている」
RINKに寄せられる相談内容を聞くと、日本人にも同様の問題が起こりうると感じる。ただし外国人と日本人が違う点のひとつに、「相談できる相手が見つかりにくい」ということがある。具体的には、言葉の壁をはじめとした情報収集の難しさ、制度面の不備などが挙げられる。そのため、適切な相談先を見つけるまでに、多くのハードルをクリアしなくてはならない。

行政を頼っても、外国人だと分かると、窓口には身構えられる。自国の大使館に相談しても、個人の味方になって日本行政との間を取り持ってくれることは、滅多にない。とある国の相談者は、大使館へ駆け込んだ際に「我慢して戻りなさい」と言われることもあったという。日本での生活に限界を感じて頼ったにもかかわらず、相手にしてもらえない。そんな人たちは、誰を頼ればよいのか。

早崎さんは「行政には立場や都合もありますが」と前置きした上で、こう続ける。
「窓口に来た人が日本人ならこんな対応はしない、と思ったら、私たちは完全に相談者の立場に立ちます。外国人だからといって対応を変えるのは差別だから。それは譲れません」

相談者の目線で、考える

会社と相談者の言い分が違う場合、行政はその間までは踏み込めない、と早崎さんは言う。そのため、行政が相談者にRINKを紹介するケースもあるそうだ。そこから労働組合に入ってもらい、団体交渉してもらったケースもある。

相談者の主張は、100%正しいと言い切れるのだろうか。
「たまにね、相談者が言ったことと事実が違う、なんてこともあります。うまくいかないこともありますけど……。でも本人がなぜそんなことを言ってしまったのか、その背景を知ろうとしないと。どうしてそうなるのか、私たちは考えないといけない」

相談者の話をよくよく聴いてみると、「自分が外国人だから、行政の人に取り合ってもらえなかった」と感じる人が多かったという。行政側は正しい情報を伝えていたのに、表情や声色などで「拒否された」と思い込んでしまう相談者もいた。

「人はそうした態度を、敏感に感じ取るものです。私たちはその気持ちが理解できるから、本人さんの話をしっかり聞いた上で、ちゃんと説明をします。すると最終的にはわかってくださる。帰国せざるを得なくなった人でも、『RINKに相談してよかった』と言ってもらえると、活動の意義を感じます」と、早崎さんは言う。

通訳者や相談員を対象に、在留外国人のサポートに必要な知識を学ぶ講座を定期的に開催している(写真提供:RINK)

「RINKと繋がってよかった」

それだけ親身に話を聞いていると、事務所の電話だけでは対応しきれないこともある。そのため、相談者に個人の携帯電話の番号を教えるケースもあるそうだ。プライベートの携帯に連絡がくると、24時間対応になってしまうのではないか。
「そうですね……。夜中に電話がかかってきたこともありますよ」
早崎さんは過去にあったことを話してくれた。

会社が賃金を支払わず、最終的に裁判へと発展した事例だ。相談者は、青森県に住んでいた技能実習生3人。工場勤務の彼女たちは、朝から夜中まで働いていた。それゆえ電話がかかってくるのは、0時近くだったという。聞き取りを行う上で明らかになったのは、過酷な労働時間とずさんな居住環境だった。

「住むところは会社の駐車場に置かれた、プレハブ小屋。青森の冬は寒いのに、壁は薄いし、室外と室内は気温が変わらないくらい。その部屋にはベッドだけが置いてあってね。シャワーとか台所とか、トイレもなくて。みんな工場の中にあるものを使っていたんです」。
彼女たちがそこで暮らした期間は、約3年。「会社では人間扱いされない。これ以上は我慢できない」と話す彼女たちに、早崎さんが取った行動は「青森まで会いに行く」だった。それも1回だけではない。複数回、交通費を自腹で払ったというから驚きだ。

「何回も話すうち、向こうもRINKを信用してくれているし、私がやるしかない!みたいな気持ちになりますね(笑)。青森では24時間営業のファミレスに行って、話をしました」
笑顔で語る早崎さんには、当時から迷いがなかったことがうかがえた。

裁判では最終的に会社側と和解し、未払いの賃金を払ってもらう形で決着がついた。そして3人は日本で技能実習生を続けず、母国へ帰ることを選択。最後に早崎さんに残した言葉は、「RINKと繋がってよかった」だった。

市民団体“だからこそ”

「日本にも優しい人がいる、ということが分かりました」
活動するなかで、そう言われることもあったという。技能実習生にとって、日本での居場所は「会社だけ」と感じる人も少なくない。しかし狭い人間関係のなか、社長や社員から威圧的な態度を取られ、人格を否定されるような言葉を投げつけられる人もいる。「本人にとっての“日本”が会社しかなかったら、それは辛いですよね」と、早崎さん。

こうして外国人の「しんどい」「辛い」「我慢できない」の声に寄り添い、気づけば30年以上の時が経った。長年活動しているRINKの存在意義とは、いったいどのようなものなのか。

「相談者の立場に立って動けるのは、市民団体ならでは。行政は立場上、中立じゃないといけないでしょう。そういった意味で、RINKの必要性はなくならないと思います。制度がどれだけ整っていても、そこから溢れてしまう人はどうしても出てくるから」

これからもRINKは悩みを抱える外国人の隣に立ち、ともに歩いていく。

【取材先紹介】
メンバーは全員ボランティアで活動しており、同行支援に必要な交通費や通訳者への謝礼は、会費と寄付でまかなわれている。RINKの会員登録や寄付の詳細は、こちらより。

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