<取材・執筆>時盛 郁子 <イベント>みんなの市民サミット2023 分科会:Youth Summit 2023 in 広島 ~Redefine our future through sustainability~
「みなさんは社会を変えられると思いますか? 変えられると思う人は手を挙げてみてください。少しなら、と思う人は、手の高さは低くてもいいですよ」。登壇者のひとり、Wake Up Japanの鈴木洋一さんの問いかけに、会場のユースが手を挙げる。ある人はまっすぐに、ある人は肩くらいまで。手を挙げる高さはさまざまだ。
2023年4月16日・17日に、広島国際会議場で開催された「みんなの市民サミット2023」。G7広島サミットに市民の声を届け「核のない、誰も取り残さない持続可能な社会」をつくるため、オンラインを含めて約1000人が国内外から参加した。会期中に行われた17の分科会のうちのひとつ「Youth Summit 2023 in 広島~Redefine our future through sustainability~」は30才以下の参加者向けに開催されたものだ。
「安全な場所」から始まること
分科会を主催したのは「Japan Youth Platform for Sustainability(JYPS、通称ジップス)」。ユースが政府や国際的な枠組みへの提言を行うプラットフォームだ。共同事務局長・田中梨奈さんの「ここは皆さんの“安全な場所”です。登壇者からの学びを通して、仲間を見つけて議論をしてください」というあいさつで分科会はスタートした。
「安全な場所」。シンプルな言葉だが、あいさつの中でくっきりと光る言葉だった。あとで分科会の狙いを尋ねると「私たちはユースが声を上げることを大切にしている一方、そのリスクもあると考えていて……。発言をする上でのリテラシーを高めていくこと、現状を整理すること、未来を考えることにフォーカスして今回のプログラムを設計しました」と話した田中さん。
さまざまな背景や思いを持つ人の誰もが発言できる。自分とは異なる意見に対して、声を上げられる環境がある。分科会の中で体現されていた「安全な場所」が社会にあれば、確かに「声を上げられる」と思う人は増えていくだろう。
しかし、多様な意見に触れる機会が増えるほど、自分とは異なる意見に出合う。見える課題も増えてくる。ならば次は課題を整理し、どうすれば解決できるのかを考える必要がある。他者の意見を聞いて発言をするだけにとどまらず、課題の整理や解決にまで踏み込んだ分科会の構成には、さまざまな意見を取り入れながら社会を変えていくというしなやかな姿勢がにじんでいる。
社会課題を通して「考え方」に触れる
分科会では「ユース参画について」「危機時代を乗り越えるために」「国際平和の将来を考える」をテーマに4人の登壇者が講演を行い、テーマごとにグループディスカッションをした。
意見発信のリテラシーを高めることを目的とした「ユース参画について」のテーマでは、Wake Up Japanの鈴木洋一さんが講演。ユースが社会参画をしていくうえで大切にすべきことについて話した。「全ての人に発言の機会があるわけではありません。だからこそ大事なのは、“この場に誰がいて誰がいないのか”を意識すること」
自分たちの意見は本当にユース代表のものと言えるのか、この場にいない人にどう受け止められるか。時には冷静に振り返りながら、多様な人の声を聞いて視野を広げることで、さまざまな意見の橋渡しができるようになるとアドバイスした。
Climate Youth Japanの小林誠道さん、Change Our Next Decadeの矢動丸琴子さんは、「危機時代を乗り越えるために」のテーマで講演した。専門は気候変動問題や生物多様性だが、社会の現状を通して伝えたのは「現状を整理する方法」だ。
小林さんはリスクの語源だと言われている「リシカーレ」というイタリア語を例に出し、危機の乗り越え方のヒントに触れた。「“リシカーレ”は岩礁の間を行く船の船頭という意味。岩礁という恐ろしいものの間を何とか安全に通り抜けようとする“過程”の意味を含んだ言葉です。私たちも目の前のリスクをかいくぐり、 “安全”を目指す方法を考えていかないといけないと思います」
矢動丸さんは「何か大きなことをするのではなく、家に帰って“今日こんな話を聞いた”と家族に話すことも、インターネットで検索してみることも立派なアクション。情報をきちんとしたソースから得て、そこで立ち止まらずに小さなことから行動してみてください」と話した。
最後の講演は、未来を考えることをテーマにした「国際平和の将来を考える」。KNOW NUKES TOKYOの徳田悠希さんが登壇した。2017年に核兵器禁止条約が採択された際の市民社会の働きかけを例に、意思決定の場にユースや当事者が入っていくことで生まれる可能性を紹介。「市民が発言をするチャンネルがまだ少ないテーマもある。いろんな人を巻き込んでいけば、自然と道は大きくなっていくと思っています」
それぞれの登壇者が話したのは、私たちの周りにある社会課題。しかし、その話を通して見えてくるのは、課題を解決するための考え方だ。自分の周りにある小さな課題を解決するためのヒントにもなる「考え方」を学んだという手ごたえには、社会課題をぐっと身近なものにする力があるようにも感じた。
お互いの刺激が次のアクションを生む
各講演後のグループディスカッションでは、「声を上げたり、行動したりするときに何を大切にしたいか」「危機の時代を乗り越えるためにどうすればよいか」「核兵器への印象は変わったか」をテーマに、参加者が4~5名ずつに分かれて意見を交わした。
登壇者が助言をしたり、時間を過ぎてもまだまだ話が盛り上がっていたり、会場の雰囲気はとても和やか。分科会終了後に行ったインタビューでは、同世代でのディスカッションが参加者にとって大きな刺激になった様子が伝わってきた。
広島県の大学生、岡本結菜さんは「同じグループの中には団体に所属して活動している人もいて、“支援する側ではなく当事者の意見を大切にしたい”という生の声に触れられました。同世代の意見を直接聞くことができて、遠く感じていたテーマも身近に感じられました」と話した。
また、広島県の大学生、三原奏子さんは「自分は広島に生まれた立場として核兵器を廃絶すべきだと考えてきましたが、核兵器を持った方がいいという意見を聞いたとき、上手く返すことができませんでした。これからは自分が持つ意見の理由を考えて、きちんと言葉にしていきたいです」と話した。現在は幼児教育の勉強をしており、将来は子どもたちに自信を持って平和のことを伝えられるようになりたいと考えているという。
分科会終了後、「オンラインも含めて全国から参加があり、多様なユースがいろいろな角度から社会のことを考えていることを実感しました。日本の問題意識をうまく世界に発信して、日本に足りないものは世界から補いながら、今後もさまざまな活動を行っていきたいと思います」と話した田中さん。JYPSは政策提言などを通して、意思決定の場にユースが参画することを目指して日々活動を行っている。今回の分科会で出された意見も、政策提言のための大切なパーツになっていくという。
この分科会だけでなく「みんなの市民サミット2023」には、全体を通して社会をよりよいものにしようとする多くの人の姿があった。意思決定の場に、私たちの声を届けることができる。そうする人々を選ぶことができる。よい選択をするために、社会を知りたいと思っている。――そう考えている人は、ユースにもたくさんいる。3つの講演を通して、筆者は講師らに共通する「前に進もうとする姿勢」を強く感じた。視線が前を向けば、いつでも次の行き先が見えてくる。年齢や背景にかかわらず、さまざまな人の意見をやわらかく取り入れながら前に進みたい。