<取材・執筆>時盛 郁子 <イベント>3.11から未来の災害復興支援を提案する会 「一人ひとりを大事にしだれも取り残さない被災者支援制度を求める」緊急院内集会

こんな思いをするなら、あの時死んでいればよかった――。配布されたパンフレットの表紙に書かれた言葉に、胸が詰まる。東日本大震災の被災地で、ある被災者がこぼした言葉だという。

地震、台風など、毎年のように大きな自然災害に見舞われる日本。災害が起きたら避難所ができ、生活再建のためのさまざまな支援が行われるというサイクルが、幾度となく繰り返されてきた。

しかし、この支援の基本となる災害救助法は1947年に制定されたのち、抜本的な変更が一度も行われていない。体育館に避難し、プライバシーの確保が困難な状況で共同生活を送る。支援の程度が、住居の被害状況のみで決められてしまう。生活の環境や支援のニーズは変わってきているのに、避難所の景色は変わらず、被災者が受けられる支援は不十分なままだ。災害救助法をはじめとした災害法制が、現状に対応できていない。

参照:「3.11から未来の災害復興支援を提案する会」ホームページ 「私たちが目指すもの」

この状況を変えていくため、2023年6月16日、東京都千代田区永田町の衆議院第二議員会館で「一人ひとりを大事にしだれも取り残さない被災者支援制度を求める」緊急院内集会が開かれた。主催は「3.11から未来の災害復興制度を提案する会」(通称、311変える会)。主催団体のコアメンバーや全国から集まった登壇者らの意見に、国会議員や参加者が耳を傾けた。

当日は国会議員20名以上と、被災者支援関係者約100名(オンラインを含む)が参加した。

変わらない支援では、こぼれ落ちる人がいる

私たちが暮らす社会は、平時は民間企業や団体によって支えられている部分が多い。例えば、食材や日用品はスーパーマーケットで買う。医療や福祉サービスを受ける場合も、まずは民間のクリニックや福祉施設に行くことが多いだろう。

しかし現在の災害救助法では、平時には民間が担っている業務の全てを、災害時は地方自治体が担わなくてはならない仕組みになっている。福祉的支援にいたっては災害救助法には明記されておらず、適切な支援が受けられない人も多い。平時に物流やサービスを担うプロフェッショナルは災害支援から切り離され、地方自治体が力を借りようにも協力を仰ぐことが難しい仕組みになっているのだ。

そのうえ、災害はいつも発生するものではないため、一つの地方自治体に災害支援のノウハウを蓄積することも難しい。混乱している状況の中、各地方自治体がその都度手探りで対応を続けてきた。法律や仕組みを適切にアップデートする余裕がないまま、災害救助法成立後70年以上の年月が経った、と311変える会の菅野拓さん(大阪公立大学大学院准教授)は言う。

「災害救助法の内容が制定当時から不十分だったわけではなく、今の時代に合わなくなってきているのだと思います。被災地では誰もが困っていて、今の制度では支援からこぼれ落ちてしまう人がいる。専門家の方々も変化が必要だと言っています。命が助かった人に“死んでいればよかった”と言わせない仕組みをつくるために、議員の皆さんの力が必要です」と話すのは、特定非営利活動法人フードバンク岩手事務局長で311変える会の代表を務める阿部知幸さん。集会に参加した国会議員へ要望書を手渡し、災害救助法や社会福祉法を中心とした被災者支援に関わる法律の改正や、そのための内閣府や各省庁での議論継続などを求めた。

災害対策と社会保障をつなぐのは「尊厳」への意識

続いて行われたリレートークでは、全国から集まった登壇者から意見や各地の現状が語られ、共有された。「西日本豪雨で災害支援に関わり、食事が菓子パンだけという避難所の状況を民間の支援で何とか変えたいと取り組みをしてきました。こういった民間の力をうまく活用してほしい」と語ったのは、特定非営利活動法人岡山NPOセンター代表理事の石原達也さん。DX化を進めることも民間の得意分野だとし、地方自治体と民間との連携を訴えた。

日本弁護士連合会災害復興支援委員会の副委員長を務める弁護士の永野海さんは「2022年の台風15号では静岡県は大きな被害を受けました。1,300件以上の相談を受ける中で多かったのは、家がなく、仮設住宅もなかなか提供されないという声。車中泊をずっと続けていたり、ビジネスホテルを転々としているけれど手元にはあと5,000円しかなく明日泊まるところがないという人がいたりしました」と厳しい現状を共有した。静岡県では自治体と連携し対応することができたというが「うまく連携できる自治体ばかりではないと思います」。住む場所によって受けられる支援が異なることがないよう、どこにいても適切な支援が受けられることを法律で担保すべきだと話した。

リレートークのアンカーは、跡見学園女子大学教授で一般社団法人福祉防災コミュニティ協会の代表理事である鍵屋一さん。「今の災害対策基本法の目的は、国土および国民の生命、身体、財産を守るということになっています。生命と身体を守るのは社会保障政策ですが、ここが災害対策と切り離されてしまっている。災害対策になく、社会保障の法律にあるのは“尊厳”という言葉です」と話した。「災害対策基本法の目的に“尊厳”の言葉を入れれば、日本全国の地域防災計画を“尊厳”を守るものに染めていける。私はこの言葉が災害対策と社会保障をつないでくれると思っています」。他の登壇者や参加者が、深くうなずく。リレートークで登壇者らがつないできた悩みを解決し提案を実現させるための、一つのピースが示されたようだった。

法律は前を向くためのものでなくてはならない

その後の質疑応答では、さまざまな地域から選出された国会議員からの意見や質問が相次いだ。地方自治体の職員の兼業を推進し、NPOなどの民間団体や企業と日頃からつながっておくとシームレスな支援が提供できるのではないか。空き家やホテルを仮設住宅としてうまく活用する仕組みづくりはできないか。「うちの地域で土砂崩れがあったときの話ですが……」「東日本大震災で被災した地域で……」。質問の奥には、地域での出来事を振り返り、よりよくしたいというまなざしがある。

「毎年のように日本では大規模災害が起きています。被災した方々には、助かった命を大切にして、希望を持って前に進んでいけるような制度が必要です。党派を超えて、法改正をぜひ押し進めていただきたいと思います」。最後にもう一度、出席者に訴えた阿部さん。

311変える会の活動は、東日本大震災の被災地から始まり、徐々に賛同者を増やしながら全国的な活動へと広まってきた。生命や身体、財産だけでなく、万が一のときにこそ、その人らしくあるための「尊厳」を守る法律へ。その思いはこの場所でも、確かに広がったのだと思う。

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