記事は情報発信ボランティアプロジェクトのライターボランティアが取材・執筆をしています。
<取材・執筆> 佐藤 亮子  <取材先> 特定非営利活動
法人 かながわ外国人すまいサポートセンター 事務局長 長澤 勲さん

2019年4月、新たな在留資格が追加された改正出入国管理法が施行され、来日する外国人は今後ますます増えていくと予想される。しかし、現時点で、「安心して、食べて、寝られる」。この人間が生きていくうえで最低限のことが満たされない外国人がいる。住まいや生活のサポートを約20年続けてきた「かながわ外国人すまいサポートセンター(すまセン)」事務局長の長澤勲さんは、相談者の境遇について「人間を人間として扱っていない」と思いを語った。

◆ハウジングからライフサポートへ

1990年代、日本に住む外国人が抱える問題は「住まい探し」が大きなものだった。保証人が見つからないことや、言葉・習慣の違いもあり、トラブルを恐れた家主から敬遠されることもあった。このような住宅問題に取り組むため、神奈川県が行う外国籍県民会議の提言が機会となり、民族団体や国際交流団体、行政、NPOなどが協力して、2001年に「すまセン」は立ち上がった。

外国人に物件を紹介してくれる不動産業者との連携や外国人・家主・不動産業者からのトラブル相談への対応を続け、家を借りやすい環境を築いてきた。しかし、相談件数は増えるばかりだ。「債務、労働、年金、障害、高齢化、家族の問題や、DV、困窮など、家を探す前段階の相談が多くなってきています」と長澤さんは話す。

ペルーから来日してまだ二日ほどという人から電話があった。「ほとんどお金を持たずに来日して川崎の漫画喫茶に滞在している。家を借りたいので相談したい」という内容だ。10年ほど前に永住資格を取得しているため、簡単に入国できる。スタッフがすまセンまで来てくださいと伝えると、「交通費がないから行けない」というので、漫画喫茶まで迎えに行った。そこから市役所まで連れていって福祉担当に相談した。まずは安心できる環境が必要だ。所定の手続きをしてホームレス支援団体の施設に一時的に入ることになった。幸いすぐに仕事が見つかったため、まずは働いてお金に余裕ができてからホームレス支援団体がサポートし住まいを探すことになった。

「人間の最低限の生活とは食べることと寝ること。この二つが確保できないとその次に進めないのです」と長澤さんは言う。この数年で、不動産業者へ紹介できる段階まで引き上げる手助けが増え、ハウジング(住まい)サポートとライフ(生活全般)サポートが半分半分となっている。

◆言葉の問題

なぜライフサポートが増えているのか。

「外国人が日本に住む上で言葉の問題は大きい。にもかかわらず、日本語を勉強できるシステムの準備がないまま、政府は日本へ来る門戸をどんどん広げている」と、たくさんの相談者と接してきた長澤さんは感じている。

日本語が不自由なために、すまセンに助けを求める相談は多い。日本に10年以上暮らし、中華料理店で働いてきた中国人男性は、公営住宅に引っ越したときに日本語のマニュアルが読めず、すまセンへ相談した。お風呂の水栓の抜き方からガスのつけ方まで説明が必要だった。日本には、日本語や生活文化に関して学ぶための公的な支援がない。長年住んでいても読み書きができない外国人も多い。

移民を受け入れる国々の中には、移住者に対して、その国で生きていくために必要な言語能力や生活文化に関する知識を身に付けるための公的な学習機会が提供されている国もある。例えば、ドイツでは政府が主体となって実施する社会統合プログラムがある。ドイツ語教育コースとドイツの歴史・文化・法律等を扱うオリエンテーションコースで構成されている。ドイツ語教育コースは、日常生活において困らないドイツ語能力の習得が目標となっている。

◆機能しない制度

神奈川県には外国人向けのサポートシステムや制度がある。しかし、利用する側に機能しているとは言い切れない。例えば、学校では保護者宛てにお知らせプリントが配られるため、日本語ができない親をサポートする制度がある。まず学校の先生が国際交流センターに通訳の派遣を依頼する。先生と保護者で設定した面談日に通訳を通してプリントの内容を説明する。

無料だが、平日の日中のみの対応なので、働く保護者は利用できないも同然だ。結局、保護者は大量のプリントをすまセンに持ち込んでくる。そして実際の説明は30分ほどで終わってしまう。

サポート制度はあっても、使う側のニーズとマッチングするかという問題もある。

◆ワンストップな対応

長澤さんは「すまセンとしてはできる限りワンストップでサポートしたい。モットーは、相談された案件が(解決されて)次のステップにいくまで手離さないということです」と話す。そのため、サポート範囲が生活(ライフ)問題にまで及んでくるのだ。

外国人相談者の身になれば、行政がワンストップなサポートをしてくれるのが理想的だ。

その際の言葉の問題をクリアしようと、すまセンでは、10年ほど前に「行政窓口多言語マニュアル」を5ヵ国分作成した。マニュアルは、相談者が何を知りたいのかを探れるよう「教育」「仕事」など生活に関わることが分類されていて、各項目には一般的によくある質問事項と回答を設定している。

「すまセンが対応するよりも前に、まず行政の窓口で使用してもらい、そこで答えが出るようにしてもらえたら」という目的で行政に渡したが、なぜか窓口までいかず使われていない。

言葉の問題、機能しない制度、そして必要な情報へのアクセスの大変さ。外国人も日本人と同じように納税をしている。しかし、制度を知らなければ、行政のサポートを受けることはできず、日本人と同じように権利を行使できない。現在の日本では、外国人は日本の住民としての当然の権利を享受できていない。

「これは人間を人間として扱っていないのと同じ。そういうシステムに対して、人間を人間として扱うとはどういうことなのかという問いが出てきます」

◆町内会への参加のススメ

「外国人にとって日本は住みやすい社会なのか」

制度の面ではまだまだ課題がある。長澤さんは、相談に来た外国人に町内会に入ることを勧めているそうだ。「あなたが住む周辺の暗い場所は町内会が電気代を払っているのですよ、町内会に入らないと暗くなりますよ」。町内会のシステムをそのように例え、住人が地域の環境づくりの一端を担って支えあっていることを説明している。

住みやすい社会といっても、生活する基盤は地域である。国の背景や習慣が違う人たちに対して、完全なサポートはできない。

「どこに行けば、何を得られるか程度の情報がわかればいい。そういう(相談ができる)人が一人でもいればいい」。その役目を担ってきたのがコミュニティ。だから町内会というコミュニティに入るように勧めて、コミュニティに育ててもらう。「人間は人間にしか育てられないのです」と長澤さんは語る。

「住みやすい社会とは、安心して食べて寝られるということ」と長澤さんは繰り返し言った。そんな安心した生活を送るために訪れる相談者の相談に乗るコツを「『何事でも自分にしてもらいたいことは、他の人にもしてあげる』ということを心がけている」と教えてくれた。目の前で困っている人がいたら助けるというシンプルな行為によって、誰もが生きやすい社会がつくられていくのかも知れない。

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