<取材・執筆>福満 咲季   <取材先>性教育コミュニティkokoro color 薪野 聡さん

〈性教育〉と聞いてどのようなイメージが浮かぶだろうか。「恥ずかしいもの」、「身体のつくりを学ぶもの」、「妊娠や出産の仕組みを知るもの」、さまざまなイメージがあるなかで性教育に向き合う 性教育コミュニティ『kokoro color』薪野聡さんにお話を伺った。

講演を行う薪野さん
講演を行う薪野さん

求められる教育と学校の現状

薪野さんの本業は手術室の看護師。病院勤務のかたわら、群馬県内外の中学校や高校で性教育の講演を行う。
日本思春期学会の理事も務めるほか、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、「性について話せる」性教育のオンラインコミュニティや、オンラインでの勉強会を定期的に開催している。

2019年、東京都で教育機関に対する『性教育の手引』が改訂されカップル間暴力、SNS経由での性被害、性同一性障害などこれまでになかった項目が取り上げられた。
学校教育の改善が進み、厚生労働省の調査によると20歳未満の人工中絶率は2008年度7.6%に対し2018年度は4.7%と減少傾向にある。いっぽう20歳未満での中絶選択率はいぜんとして50%を超えているなど課題も残る。

『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』では「セクシャリティについて包括的で正確、科学的根拠に基づき、かつ、各年齢に適した情報を得る機会を提供する。これには性と生殖の健康に関する話題、例えば、性と生殖に関する解剖学および生理学、前期思春期と月経、生殖、現代的避妊、妊娠および出産、HIVとAIDSを含む性感染症が含まれるが、これらに限定されるものではない。」としている。つまり体のつくりについて教えるだけが性教育ではないということだ。

ガイダンスと学校教育の乖離を薪野さんは
「性教育の3つの柱は安全、人権、健康であるとされています。本来は子どもの成長にあわせ幼児の段階からはじめるべきものです。しかし日本では性教育がタブー視されて開始が遅く、内容としても足りていないと感じています。中学校で妊娠について学んでも、妊娠にいたるまでは知識がないままセックスをして望まぬ妊娠をしてしまうケースはよくあります。」

今日から変わるきっかけとなる講演を

高校で医学生による性教育講演を受けたことをきっかけに、大学から勉強をはじめたという薪野さん。生徒たちの身近な存在・仲間としてともに学び考える。
「数値目標ではなく、行動の変化につながる性教育を目指しています。講演後どう思ったかを教えてくれる生徒は多いです。うれしいことですがそれだけでなく『今度からこうします』と行動をいい方向に変えられるように性教育を続けています」

どのような変化を望んでいるのか、生徒たちに最も伝えたいことは3つだ。
・困った時に「助けて」「手伝って」と頼れる人間関係を作ってほしい
・被害者にも加害者にもなりえるという自覚を持ってほしい
・自分のために「NO」と言えるようになってほしい、「NO」と言われたら止められる人になってほしい

性教育を行うなかで本当に大事なことは人間関係の形成だと気づいたという。
「若年者の望まない妊娠、子どもの遺棄、デートDV、さまざまな問題が存在していますが、悩んでいる人たちに共通する特徴のひとつとして居場所がないということが挙げられます。」
たとえば、病院に運ばれてきた36週の妊婦が妊娠にきづいていなかったケースがあったという。「36週であれば外見でもわかるのに、限られた人間関係しかなかったため周囲に気づいてもらえなかったのかもしれません。困った時・苦しいときに助けてと頼れる人など居場所がない人が増えています。」
自立とは一人で生きることではなく依存先を増やし分散させることだと訴え、信頼できる人を一人でも増やすことの大切さを伝えている。

性教育を通して、誰もが生きることを学べるように

講演の感想で印象に残ったものを伺った。「セックスをすることになった時にコンドームがありませんでした。お互いにその気だったけど、講演を聞いて性感染症や妊娠させてしまう可能性もあると知っていたのでコンビニに走りました」とメッセージを寄せた生徒がいた。この感想を本人の許可を得てその後の講演で紹介したところ、「僕も今日走りました」と新たな変化を知らせる声もあった。また、これまでパートナーからの性行為の誘いを無条件に受け入れていた関係性を見直すという決意や、性暴力の被害に遭った悩みを打ち明けてくれることもあるという。

今後の性教育について、薪野さんは学校内だけではない取り組みも見据える。
「性教育の既存イメージが変わり、みんなが当たり前に語れるようになってほしいと思います。安全、人権、健康を柱とする性教育には生きることそのものが含まれています。」
幼児期から抵抗なく手に取れる絵本のような教材の普及や、高校生でも勉強し発信したいと考えている人たちが集まれる場所も作っていきたいという。

自身のサイトには窓口となるメールアドレスを公開している。悩みをネットで検索して辿り着いた人から相談が寄せられることもあれば、数年前に講演で出会った生徒が最近の行動を伝えてくれることもあるという。薪野さんが高校生の頃ひとつの講演から転機を迎えたように、新たな変化が生まれ続けている。

1件のコメント

  1. 心の内を語るという事は
    相手に身を曝け出す事になる。

    相談相手が大人であっても。
    大人側が今までの性教育しか受けていない場合
    内容を知った事で、相談者に自分の地位を利用して
    性交渉・性接触を求めてくる可能性も、万に一つ無いとは言えない。

    大人であっても、興味本位や自分が良ければ良いという考え方は
    学校教諭自体にも広まっていて、それがあるからこそ…
    昨今の全国での止まらない教諭不祥事の事件発展に繋がっている実情もある。

    相談相手が優位な立場・地位である以上、
    (これは時校長・教頭が指導的監督責任を取りたくない一心で
    騒ぎを起こしたくないから、もみ消しする実例も踏まえて)

    相談後に内容の秘密を暴露される。
    それによって、生徒が苦境に立たされる。
    内申書に書かれる。お前が悪いとセカンドレイプされない為にも。

    学校という内部だけで性教育・生徒からの相談を行うのでは無く、
    いざとなれば、警察等に即時連携出来る
    第三者における相談者・機関が必要と思慮します。

    匿名

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