<取材・執筆>内田 菜穂子   <取材先> NPO法人TEDIC 副代表理事・事務局長 鈴木 平さん

2021年3月11日、東日本大震災発生から10年の時を迎える。

宮城県石巻市で活動するNPO法人TEDICは、学習支援など子ども・若者支援を行う団体だ。代表理事の門馬優氏が東日本大震災に際し、故郷の石巻市でなにかできないかと2011年に立ちあげた。「すべての子ども・若者が自分の人生を自分で生きる」ことができる地域社会を創るために活動している。

設立から10年。将来を担う子どもたちへの支援やその成果について副代表理事・事務局長の鈴木平氏にお話しをうかがった。

新型コロナウイルスは日本で暮らす私たちの生活や価値観に様々な変化をもたらした。コロナ禍を超えた先の新しい社会作りのためにも、企業や市民である私たちが、社会にそして支援活動を行う民間団体に対し、どのような社会貢献ができるだろうか。あらためて考えるきっかけにしたい。

一人ひとりと向き合った学習支援からはじまった

Q. 東日本大震災直後から活動を開始されて10年が経ちました。この間の活動をお聞かせください

活動当初は避難所での学習支援、その後不登校や引きこもり状態の子どもたちへの支援活動を行っていました。活動を通して、被災者だからというよりも、震災以前から子どもたちが抱えていた様々な問題を知るようになります。学校で認めてもらえず家にも居場所がない、自分を表現する場がない、「不登校」というレッテルを貼られてしまった子どもたちなど、これまでスポットがあたっていなかったけれど苦しい思いを持つ子どもたちがいたということに、門馬は大きな衝撃を受けました。この時の子どもたち一人ひとりに向き合った姿勢、経験が、TEDICの原点の一つだと思います。

行政との協働事業も増えていく中で、困窮世帯の子どもへの支援が縦割り行政により対応できていない状態があることも知りました。例えば、未就学児童へのサポートは保健師が担い世帯状況も把握されますが、就学すると市の教育委員会が担当になり、それまでの児童に関する情報は引き継がれない。さらに中高生になると教育委員会の管轄が県になり、やはり情報は引き継がれません。高校を卒業すると、もう誰も見る人がいなくなるなどの構造の壁があります。

一人の子どもを長い期間で伴走してくれる大人がいないのです。そこで、地域には長いスパンで子どもたちに関わる体制が必要だと考え、2018年から宮城県から「子ども・若者総合相談センター」を受託し、現在に至っています。

成果は子どもたちからもらったもの

Q. 10年の活動による成果はどのようなものですか

子どもたちの前でも語ることのできる「成果」を改めて考えると何でしょうかね。「子どもたちが町で普通に生活している」、ということでしょうか。

古参のボランティアから、かつて学習支援に通っていた子に町でばったり出会って「元気でやっているか?]と自然に声をかけ会話が出来たことが、たまらなく嬉しかったという話を聞きました。子どもたちの成長をみつめる眼差しを持つ町の人たちであったり、町そのものだったり、それは子どもたちからもらえるもの、それが成果と言っていいかもしれません。我々の活動を通して誰もが普通に社会生活を送ることができているようにしたいです。

それから、子どもに関して行政から意見を求められるようになりました。市や県からの要請を受けて事業を行うなど、TEDICの活動範囲はこの10年で大きく広がりました。これはTEDICが大切にしてきたものが活動を通して、認めていただいていることのひとつの証でもあると思います。行政との長年の信頼関係により、事業の目的段階から意見交換をさせていただくこともあります。たとえTEDICが受託しなくても、公的な部分で行政と一緒に制度を育ててこられたのも成果と言えます。

疲れたスタッフのケアもままならない

Q. コロナ禍における現在の活動はどうですか

新型コロナ感染拡大による影響は、日に日に深刻になっていると感じています。感染予防対策というオペレーションが加わり、感染者を出してはいけないという現場のスタッフのストレスは相当なものです。業務にはこれまで通りのオペレーションではできないものが多く、一から作り直さないといけません。

子どもたちへの影響も当然出ています。TEDICには行政・民間の支援機関からつながれる相談も多く、例年でも冬は受験や就職に関する問題で重たい内容が増える時期なのですが、このコロナ禍で「死にたい」といった相談事も今後増えてくるかもしれません。対応する相談員は、以前なら深刻な相談を担当した後には事務所のみんなでグループケアのようなこともできましたが、今は事務所にいるスタッフも疲れていて手が回りません。何とかしなくてはいけないと思いながら、日々をどう活動していくか、やりくりすることで頭を悩ませています。負のスパイラルの真っ只中のような・・・。

あらためて活動の原点をみつめる

Q. TEDICの今後の活動についてどう考えておられますか

TEDICの事務方の考えとしては、自主事業をもう一度起こそうと思い直していますし、もう少し先を見据えた種まきをしなければならないと思っています。民間が行う自主的な市民活動と県や市が施策として行う活動は、ビジョンは同じだと思いますが、活動内容や目標・アウトプットが異なります。県や市の施策は「制度化」することがゴールであり成果となることが多いのですが、制度の中でできることできないことがあって、制度でできない部分を民間がやる。そこが難しいところです。

日々忙しさに追われ、TEDICとしてこれまでの活動の成果を振り返り、この先の活動方針について十分に話し合うことができていないと感じています。まずは現場のスタッフと話をしたいです。県との事業を行う際には目標作成から5年先までの計画を十分にディスカッションして進めていきたいです。それには我々の活動を応援してくださる市民の方々をもっと増やす必要がありますし、行政の方とのより強固な信頼関係構築も必要です。

来年度以降は新型コロナの影響で復興のための助成金についても変化があると思います。自分たちが実現したい社会とはどういうものか、それに向けてどのような活動をしていかなくてはいけないのか。現場のスタッフとともに議論しそれらを明確にして、きちんと行政に伝え活動できる組織にしたいと思っています。

これから求められる人材育成

Q. 震災後10年、次へ進むために企業や一般市民が支援団体に協力できることはなんですか

私はもともと地元の人間ではないので被災直後の様子はわからないですが、確かに10年という時の流れは感じます。市民の方々も言葉には出しませんが、石巻市から人が減っていると感じているのではないかと思います。

支援してくれる企業の方や市民の方へ期待することは資金面の支援もありますが、今は「人」です。TEDICでは組織の世代交代、後進の育成の必要性を感じています。石巻の他のNPOでも中堅スタッフがやめるところもあり、この先が心配です。とはいえ人材育成のノウハウも育成する余力もない。またIT分野であったり事業開発、組織開発などを、外部と組んで中長期的に進めたいですが、今はその余裕もありません。団体活動に関心を寄せていただき直接的に協力していただくのはもちろんですが、団体内の人材育成の面で力を貸していただきたいです。

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