<取材・執筆>Shiraogawa Haruna <取材先>NPO法人でんでん虫の会 代表 吉松 裕藏さん 事務局長 永田 貴子さん
1人で暮らす元野宿者、高齢者、障害者、DV被害者らが安心して暮らせる地域づくりを進めているNPO法人でんでん虫の会(熊本市、吉松裕藏代表)。同団体が1人で暮らす人たちの孤立を防ぎつながりをつくるために開いているのが、「おしゃべり会」です。参加者の年齢層や置かれた立場はさまざまで、相談や支援に結び付くこともあると言います。「おしゃべり会」の工夫、込められた思いなどを吉松代表、永田貴子事務局長に聞いてみました。
NPO法人でんでん虫の会とは:野宿生活からアパート住まいに移った人の孤独死にショックを受けたことをきっかけに2010年設立。相談や交流の提供、通院・行政手続きの同行、仕事のあっせんなどを伴走型でサポートしています。スタッフ8人が、関係機関と連携しながら対応。2020年度の相談実績は延べ約5000件。
――おしゃべり会の開催のきっかけを教えてください
吉松さん:(孤独死を防ぐにはどうすればいいのか)話し合った結果、アパートに移った人には「相談したら迷惑をかける」「入居でお世話になったのだから、あとのことは自分で」という遠慮があると気づきました。
(防止策を話し合っていたら)うつ病を抱えている男性が、「あそこに行けば誰かいると分かっていたら、安心できる。そんな場所があればいいのに」と言いました。これを受け、熊本市市民活動支援センター・あいぽーとで毎週水曜日に「おしゃべり会」を催すようになりました。2022年度から、開催場所を4カ所に広げています。
――おしゃべり会ではどんなことをしていますか?
永田さん:ぶらっと立ち寄って気に入ったら座り、気に入らなければ自由に帰ってもいいんです。名前や素性も無理に聞きません。たわいのない話をしていると、参加者同士で気心が知れるようになります。「悩みを相談してもらおう」と身構えるのではなく、話したいときに話してもらい、その中で悩みを聞きます。
話題は好きなテレビ番組や好きな色、季節に応じた世間話など。参加者には1人ずつ順番にマイクを回します。ボランティア、見学目的の学生、取材に来た人にも加わってもらうんですよ。「名前の紹介だけでも大丈夫」「次の人にパスしてもいいです」と声掛けして、話が苦手な方でも居心地よく過ごせるようにしています。
何を言っても噂にはならず、非難を受けることがないと分かっていると、話したくなるものなんですよね。日常で言えないことをついつい言ってしまう。
――おしゃべり会を通じて、参加者さんはどのように変化しましたか?
永田さん:支えられるだけだとすごく重荷になりますが、ここでは他の人が話しているのを聞くだけで、支える側になっている。いるだけで、誰でも支える側にまわれます。
相談をきっかけにおしゃべり会に来るようになった70歳代くらいの女性に、医療・福祉・生活支援団体が連携するための委員会に当事者として参加してもらいました。おしゃべり会の大切さをしっかり語ってくださり、会の中でも初めて参加した人がいたら「みんな友達なのよ」「安心して話していいんだよ」と声掛けして座席を空けたりするようになっていかれました。同じ気持ちを抱える者同士だと、学ぶ必要なく、相手が傷つかない聞き方、話し方を自然になさいます。
――「助けて」と言ってもらうための工夫を教えてください
吉松さん:顔の見える関係を作るのが大切です。そんな関係があれば、「(おしゃべり会に)そういえばあの人は来ていないね」と分かり、「困っていることはない?」と聞けるわけです。特に男性は「泣いたりしちゃだめ」「我慢して生きていくんだ」と考えて、助けてと言えない人が多い。災害公営住宅で男性の自殺が多いともいいますね。
――他者との交流が苦手で、自宅に引きこもる方もおられると思います。そのような孤立リスクの高い方を含めて、参加してもらう工夫はありますか?
永田さん:ひとつのきっかけは、困りごとの相談ですね。それから、参加は無理でも、「いつでも扉は開いているよ」と思ってもらうのが大切だと考えています。
家から出られなくても、電話はできる方もいます。電話をかけてこられてあいさつだけして、「きょうもお互いつながった」と一安心されます。そんなことを続けていたら、自然と出てこられるようになるケースもあります。
吉松さん:ケースワーカーから、「おしゃべり会に行ってみらんね」と参加を促されて来る人もいれば、来ない人もいます。それでも、「行こうと思えば、行けるんだ」という感覚を持ってもらうのが大事。「そこにある」というのが、安心につながります。また、(NPO法人でんでん虫の会には)今はフルタイムのスタッフはいませんが、手分けしながら訪問したり、電話したりするようにしています。
――そもそも「孤独ではない」とはどのような状態を指すのでしょうか。孤立防止の着地点はどこに置くべきでしょうか?
吉松さん:住む場所である「ハウス」があっても人とのつながりを失っている人は「ホームレス」と言えるのかもしれません。コロナ禍で増えていると感じます。
「自立支援」といわれますが、自立は孤立につながりがち。つながっている安心感があれば、社会で活動し、1人でもがんばれるのではないでしょうか。高橋書店の日めくりカレンダーにあった「1人じゃないから1人でいられる」という言葉を大切にしています。
――身寄りがない方の看取りもされています。人生の最期を誰かに見届けてもらえるのは心強いですね。
永田さん:(看取りは)特に熊本地震後は増えてきています。お送りするときも、斎場にご理解いただいて、お坊さんは呼べませんが30分ほど会員が集って送ります。生前好きだった歌をみんなで歌ったり、深く知らない方であっても吉松さんがその年代のことを語ったりします。
吉松さん:1人暮らしの人にとって不安なのは、「骨をどうしようか」「誰も送ってくれないのかな」など、最期はどうなるのかということ。12年間で30~40人を送ったんじゃないかな。1度もお会いしたことがない方の身元引受を頼まれることもあり、斎場でお会いして「はじめまして。さようなら……」というお送りになります。でも、気持ちを込めて送りたいですね。
お酒が原因で家族と30年前に別れた男性が、亡くなる前に再会して看取られた印象的なケースも。喧嘩を繰り返して上手くいかなかったきょうだいが、お別れの前に仲直りしたこともありました。私たちは支援団体というよりも、寄り添いを大切にする疑似家族なのかもしれません。
――伴走型の手厚いフォローを続けるのは、大変な苦労があると思います。継続のコツはあるのでしょうか?
永田さん:私たちも常に危機感と隣り合わせですが、会員さんからは「吉松さんたちがいなくなったらこの会はどうなるのか」「でんでん虫の会はこうあるべきなのになってないよ」など、「この会がないと困る」という人たちから声があがるので、そんな会員さんに「ちょっと助けて」「そこまで言うんやったらあんたもやって」と声を掛け、巻き込むようにしています。おしゃべり会だけでも最低限、無料の会場で続けていけるかなと。
もちろん、事務所や車を維持したり、記録を残したりするため、必要な最低限の寄付金で支えていただきたいと思っています。昨年度は助成金が無くて、マンスリーサポーター(月額寄付者)や賛助会員さんを募って、かろうじて年を越せました。
吉松さん:ある時、男性ホームレスが路上の空き缶や新聞紙を「これはごみ、これもごみ」と指差して、「俺もごみだけん」と自分を指した。胸にずしんときました。自分を含めて、人をごみにしないためにも、みんな誰かの役に立てるといい。私たちの活動を継続可能にするのは、お金だけでなく「担っていこう」とする人がずっと続けてくれることだと思います。助ける側という立ち位置ではなく、私たちは会員同士の支え合い。気負うこともないので、続けられるのかなと思いますね。
【感想】
当事者同士で「孤立」についてありのままを語り、共感してもらえる「おしゃべり会」のような場所はありそうでなかなか無いのではないでしょうか。貴重な活動だと実感しました。公的な支援ももちろん大切ですが、「孤立」を防ぐには家族や友達の間で交わされるような「寄り添い」や「支え、支えられる関係」が欠かせないのかもしれません。
また、印象に残ったのが「(おしゃべり会で)話を聞くだけで、既に支える側になっている」という言葉です。でんでん虫の会のスタッフさんのように深く関わるのは難しくても、ご近所さんと仲良くしたり、催しを手伝ったりと、日常生活で何か自分ができることがあると感じました。