2022年12月10日、「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律」が成立しました[1]。11月18日に政府が概要を提示し、12月1日に法案が閣議決定。そこからわずか9日間という異例のスピード成立です。成立したからには、この法律が悪質な献金を求める行為の歯止めとなることを期待をしたいと思います。
NPOにとっての論点は、11月18日に公開された法の概要をもとに11月25日に以下の記事をまとめていますので、ぜひあわせてご覧ください。
https://npocross.net/2536/

今回は法律が成立したことで、改めて留意すべき点と今後の論点について考えたいと思います。

法の概要

[法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律(令和4年法律第105号)(概要)|消費者庁より]
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/other/assets/consumer_system_221216_0001.pdf

この法律の目的は、「法人等による不当な寄附の勧誘を禁止するとともに、当該勧誘を行う法人等に対する行政上の措置等を定めることにより、消費者契約法とあいまって、法人等からの寄附の勧誘を受ける者の保護を図る」こととされています。ここでいう「法人等」には人格なき社団も含まれますので、任意団体を含むあらゆる団体が個人から集める寄附が対象となります。個人が集める寄附は対象外となっています。また、もう1つのポイントは消費者契約法に触れられていることです。

寄附の勧誘に関する規制としては、寄附者に対して配慮しなければならないことと、禁止される不当勧誘行為が定められました。禁止行為に違反した場合、政府は報告徴収や勧告、命令・公表を求めることができ、これに対する虚偽報告や命令違反には罰則があります。寄附者は、不当な勧誘によって困惑して寄附の意思表示をした場合は、その意思表示を取り消すことができます。また、子や配偶者が婚姻費用・養育費等を保全するために、履行期が到来していない分も含めて債権者代位権を行使して寄附の返還を求めることができるとされています。

一方で、「この法律の運用に当たっては、法人等の活動において寄附が果たす役割の重要性に留意しつつ、個人及び法人等の学問の自由、信教の自由及び政治活動の自由に十分配慮しなければならない。」という条文が入り、NPO等が示していた懸念に一定の配慮がなされました。

NPOへの影響

この法律によって、NPO等へはどのような影響が考えられるのでしょうか。
国会ではNPO等への影響についての質問も行われています。消費者庁は、「この法律の運用に当たっては、法人等の活動において寄附が果たす役割の重要性に留意しつつ、個人及び法人等の学問の自由、信教の自由及び政治活動の自由に十分配慮しなければならない。」という規定を引用しながら、「まっとうにされている寄附募集」への影響はないとしています。

筆者も消費者庁の答弁の通り、基本的にはNPO等が通常行っている寄附募集において、大きな問題となることは避けられたと考えています。
特に、第4条に規定された「禁止行為」にあたることは考えにくいと思います。
第3条で規定された「配慮義務」についても、大きな問題になることはないと思われます。ただ、第4条より丁寧に見る必要があります。特に影響が懸念された「寄附される財産の使途について誤認させるおそれがないようにすること」(第3条3)という規定については、12月6日の消費者問題特別委員会の質疑において以下の答弁が行われました。

國重徹議員(公明党)
(第3条3の誤認配慮義務について)積極的に誤認させることがなければよく、被災者支援のために募った寄附が、輸送費や人件費に使われたとしても、被災者支援に必要なものであるということから、3号の配慮義務にはあたらない、ということでいいか。

黒田岳士消費者庁次長
ご指摘の通り、積極的に誤認させることではないということであれば、被災者の支援のために寄附を集めて、必要経費として一部あてられたとしても誤認させることにはあたらない。ただ一般の方が費用についての概念の幅があったりするので、しっかり説明をしていただければと思う。

(国会中継より筆者書き起こし)

「積極的に誤認させることでなければよい」という点は重要で、これにより寄附募集をするときの姿勢によって解決することができることが確認できました。
また、「寄附により、個人又はその配偶者若しくは親族の生活の維持を困難にすることがないようにすること。」(第3条2)という規定について、通常寄附者の詳細な生活状況は把握できません。NPO等の側で管理することが困難な規定となっています。この点については答弁では触れられていませんので、今後公表される逐条解説やガイドラインでの確認ポイントです。
また、今回の法律によって法律上位置づけが曖昧だった寄附が「贈与契約である」とされ、消費者契約法と紐づけられました。消費者契約法で求められていることに対応するために追加で行うべき事があるのかどうかについても、今後の解説が待たれるところです。

消費者契約法は、「消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差に鑑み」という書き出しになっているとおり、消費者と事業者の間に格差があるという前提で、消費者の保護を図ることが目的です。一方で、寄附は必ずしもそうではありません。国税庁は寄附を「寄附金とは、金銭、物品その他経済的利益の贈与または無償の供与をした場合のその金銭の額またはその贈与もしくは供与の時における価額」[2]と説明しています。また、「単なる贈与や寄附金、補助金、損害賠償金などは、原則として対価を得て行われる取引に当たりません」[3]ともしています。ここから読み取れるように、反対給付(対価性)がないことが前提ですので、寄附者は寄附を取りやめたとしても基本的には不利益を被ることはありません。寄附者とNPO等の関係は、消費者と事業者との関係とは異なる面があります。寄附者は同じ目標を共有する仲間という側面もありますので、消費者保護と同じ構図で寄附者保護を考えることが適切なのかは疑問があります。

考慮すべきこと

一方で、寄附者とNPO等の間で情報格差があることは想定できます。
例えばイメージ写真を用いて寄附募集を行ったときに、誤解を生むといったことも考えられます。
寄附をいただいた結果、寄附者の生活が脅かされることは望むことではないでしょう。

こうしたことを考えると、今回の新法に触れるかどうかに関わらず、寄附者に対し丁寧なコミュニケーションに努めることはいずれにしても重要です。それが欠け、寄附者をがっかりさせることはNPO等にとっても悲しいことです。

消費者庁が国会答弁で用いた「まっとうにされている寄附募集」という表現について、その中身は示されていません。何をもって「まっとう」というのかについては、むしろ私たちの側に問われていることだと思います。同様に「一般の方が費用についての概念の幅があったりするので、しっかり説明をしていただければと思う」という発言についても、寄附者に対して事業報告や会計報告をすることは当然のことですが、実際にはその方法やタイミング、頻度、内容など、団体によって幅があります。「しっかり説明する」について一定の共通理解を作っていく必要があります。
寄附の使途の説明や報告など、寄附者とのコミュニケーションのあり方について改めて検討をし、NPOの側がその行動によって寄附募集のスタンダードを示すことで、社会からの信頼を得ることが求められています。

今回の議論が適正な寄附文化醸成の契機となり、法制定の議論において「寄附規制法」と呼んだ法律を「寄附促進法」にしていければと考えています。


[1] 法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律(令和4年法律第105号)

[2] https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5262.htm

[3] https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6113.htm


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