<取材・執筆>千綿 海大  <取材先>NPO法人ディスカバリーくまもと 理事長 田嶋 尚美さん

「ディスカバリーくまもと」とは?

熊本の美しい風景、豊かな歴史、独自の文化を世界に発信することを目的として設立された団体、それが「NPO法人ディスカバリーくまもと」です。とりわけ注目したいのは、子どもたちを対象とした英語ガイド講座です。なぜ子どもたちが英語で熊本を紹介するのか、その背景にある思いと役割から深掘りし、取材を通して見えた良さを伝えます。

「ディスカバリーくまもと」を設立したきっかけと活動内容

「ディスカバリーくまもと」の設立者、前理事長の野田恭子さんは、26年間アメリカに滞在した後、地元の熊本に帰郷しました。その際、熊本城の風景に深い感銘を受け、2007年にこの団体を設立。熊本城を中心としたボランティアガイドの活動を主な事業として開始し、熊本県から“くまもと観光大賞”を受賞するなど、長年の活動が評価され順調に活動を進めてきました。しかし、2016年の熊本地震により、厳しい状況に直面しました。熊本城はもちろん、熊本県内の観光地は閉鎖され、ガイド活動が難しくなりました。そのため、2011年から既に4回の小学生の英語でのガイド講座を実施していましたが、これらの経験を基に、野田さんは、地震の翌年(2017年)から市民公益活動として「子ども英語でボランティアガイド養成講座」に再度、取り組むこととしました。今年度は小・中学生とその保護者を対象に、熊本の誇る湧水庭園「水前寺成趣園」と熊本で受け継がれた武家文化である「細川文化」に焦点を当てた講座が行われました。この講座を通して地域の子どもたちが、熊本の自然や文化に対する理解と誇りを持ちつつ、その魅力を英語で伝える能力を身につけることで、国際的な視野を持つ次世代の人材育成につながります。

講座の中身:熊本を英語で伝えることを学ぶ

本講座では、熊本の歴史や文化、特に水前寺成趣園などの名所や細川文化に焦点を当てていました。参加する子どもたちと保護者は、これらを英語でどのように伝えるかを学びます。講座は6回連続講座で、初回は細川文化と熊本についての基礎講話と3つの体験型ワークショップが行われます。参加者は、武田流流鏑馬(やぶさめ)、金春流能楽、茶道肥後古流の3つの文化のうち1つを体験できます。2回目では、その活動体験や調べたことをもとに、自分のガイド文を作ります。3回目以降は、発音練習、話す速さや声の大きさ、ガイド資料の提示のしかた、そしてパフォーマンスの工夫など、ガイドの練習をします。最後の講座では練習の成果を発揮するため、発表会が開かれます。

子どもたちの反応は?

今回、私は最後の講座を取材させて頂きました。子どもたちに聞くと、実際に外国人観光客に向けて英語でガイドをしたいという意欲的な声もありました。金春流能楽を体験した子どもは、「足を踏み鳴らすと、床が弾むようになっていて、能舞台が太鼓のようだった」と文化体験ができたからこそ言葉にできる感想を話しました。この講座を通じて、子どもたちが自分の地域を誇りに思う気持ちが育っていることは明らかに思えました。理事長の田嶋尚美さんは、「受講者の中には、水前寺成趣園を本当に英語でガイドしたいという子もいます。広島の平和記念公園でも子どもたちがガイドとして活躍しているように、持続的な文化継承の観点からも、子どもたちの意欲を形にしていきたい」とおっしゃっていました。

子どもだけでなく保護者も学ぶ場

最後の講座を見ていて、私は予想外の発見をしました。それは、この講座が子どもだけの教育の場ではなかったということです。実は保護者も一緒にガイドにあたる想定がされており、保護者たちも子どもたちと一緒に熱心に学んでいました。ただ見守るだけでなく、自ら教材を手に取り、共に学びの経験を共有していました。多くの教育の場面で、子どもは何かを学ぶ側、保護者はその学びを見守る側という構図が取られがちです。遊びやアクティビティも、多くはこの形式になっています。しかし、この場では違いました。保護者も積極的に参加し、子どもと一緒に英語を学び、ガイドのスキルを磨いていました。これは、親子の共同作業としての新しい学びの形で、非常に新鮮でした。保護者が一緒にガイドするためには、保護者もガイドの資料を理解し、しっかり取り組まないといけない。保護者が子どもと一緒に学ぶ経験を提供するものであり、私自身はこれまで見たことがない場面でした。大人になると学ぶ機会が少なくなるので、このような講座は保護者にとっても貴重な経験となるでしょう。親子の絆を深めるだけでなく、ともに新しいことを学ぶ喜びを共有できるのは、この講座の大きな魅力といえます。また、保護者が子どもと同じ目線で取り組むことで、子どもの頑張りや困難を直接的に理解することができ、子どもへの支援もより具体的になるでしょう。そのため、この講座のスタイルは、親子の関係性を豊かにするだけでなく、保護者にとっても新しい学びの場となることが期待できます。今後の教育や学びの場においても参考になる取り組みといえます。

講座の影響と今後の期待

「ディスカバリーくまもと」の講座は、熊本の文化と英語教育を組み合わせることで、地域の復興とともに、子どもたちの成長と地域への貢献を目指す素晴らしいプロジェクトといえます。そしてこの講座は、ただの学びの場ではなく、親子の関係性を豊かにする経験の場でもあります。これらの特色を踏まえて、田嶋さんは、「熊本県の教育機関は、この講座を学校のカリキュラムに組み入れることを検討してほしい」とおっしゃっていました。特に総合的な学習の時間で、実際に地域の文化を学び、それを外国人に向けて伝える実践を取り入れることができれば、子どもたちのモチベーションを高めることができるでしょう。さらに、このような取り組みを他の地域や都市でも展開すれば、日本のあちこちで地域文化の伝承と国際化がより進むと期待されます。

最後に

熊本の子どもたちが示してくれたように、英語学習は外国文化を知るだけでなく、自分たちの文化を理解し、伝える力を養う場面に生かすことができます。熊本という場所の美しさや独特の文化は、地元の子どもたちにとっても深く知られるべきものです。英語を学ぶ過程で、私たちはしばしば外国の文化や言葉に魅了されるあまり、自分たちの文化や背景を見失ってしまい、それらをうまく表現できないことがあります。しかし、「ディスカバリーくまもと」の取り組みは、子どもたちに一石二鳥の機会を提供しています。子どもたちは、熊本の魅力を英語で伝える力を身につけるだけでなく、熊本の文化や歴史に誇りを持つことができます。実際、それらを深く知ることは、外国の友人や訪問者に対して自分たちの背景を、誇りを持って紹介するための基盤になります。これは、国際的なコミュニケーションの中で非常に重要な要素です。このような機会をより多くの子どもたちに提供することができれば、子どもたちの可能性を最大限に引き出せるのではないでしょうか。

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